【ざまぁ追放】された勇者の幼馴染を木こりの俺がもらいます

くま猫

第1話『勇者による幼馴染追放宣言』

 俺はブルーノ、王都に住む木こりだ。

 そしてここは王都にある俺の家。


 義理の妹のアリスと、

 その幼馴染の勇者クルスが言い争っている。


 アリスと俺は血の繋がりは無い。


 10年前に親父がどこからか連れてきた子だ。

 アリスは今年で18歳。

 俺の2歳年下の朗らかな良い子だ。 


 元来無口な親父はアリスの出自について語らなかったが、

 曲がったことが嫌いな親父のことだから、

 何か特殊な事情があっての事だろうと考えている。


 母も家にアリスが来ることが決まった当時は、

 特に何も言わなかったし我が子として育てた。


 居間の方から義理の妹のアリスの怒鳴り声が聞こえてくる。

 幼馴染の勇者クルスとの言い争いが続いているようだ。



「べっ、別にあんたのことを心配して言っているんじゃないんだからね!」



「心配? 村娘のキミごときに勇者である僕が心配される必要なんてないよ。いつまでも、幼馴染という特別な立ち位置を利用して、偉そうにしないでくれないかな?」



「あっ……あんたなんて……バカっ」



「おい、いま俺に向かって"バカ"っていったな? これは酷い暴言だ。神託で選ばれた勇者である僕に対して酷い誹謗中傷だ、聞くに耐えない。幼馴染だからって調子に乗りやがって。昔からの腐れ縁だからコネで特別に僕のパーティーに入れてあげたのに感謝もなしにその態度。いい加減、僕も我慢の限界だ」



「私は、ただ、あなたが心配なだけで……昨日も、朝まで飲みまわっていたじゃない。今日はゴブリン・ロードの討伐という危険なクエストなのよ。勇者のあなたが、万全な体調じゃないと、あんたが怪我する可能性だって……」



「やれやれ……余計なお世話もここまでくるとイラッとくるね。このパーティーのリーダーは誰だ? 勇者であるこの僕だ! キミの無用な心配なんていらない。はぁ……これだから身の程知らずな村娘はいやなんだ。いつまでも幼馴染だからって甘い顔していたら、勘違いしやがって。そろそろ本格的に必要がありそうだね」



「分からせるって……な……なによ……っ」



「アリス。お前は僕のパーティーから追放だ。もう、キミのようなどこの馬の骨ともしれない村娘に付きまとわれるのは迷惑なんだよ。分かるだろ? 僕とキミとでは身分が違い過ぎるんだよ。言われなくても、いい加減分かれよ、この村娘風情が!」



「そ……そうよね。確かに、王族の血を引く姫騎士のエリアル、ハイ・エルフの族長の娘の魔術師のリーファ、英雄の血を引く女騎士のフレイヤと比べたら……私のような平民は邪魔なのかもしれない……でも」



「僕もねぇ。いい加減に我慢の限界なんだよ。いつもいつもたいして美味しくない、冷えた弁当を渡されて僕がどれだけ不快な想いをしていたか、キミは知っているかい? わざわざキミに隠れてゴミとして弁当を捨てる苦労を知っているかい?」



「ひっく……ごめんなさい……ごめんなさい……」



「はぁ? いまさら謝られても遅いんだよ。許すかよ、バーカ。すっげぇ迷惑だったんだよ。俺はできたての温かい料理以外は食べたくないんだよ。平民の汚れた手で作られた何が入っているのか分からないような怪しげな弁当を毎日毎日渡されて不快な想いをさせられる僕の気持ちを考えたことある? キミの弁当を食べて僕がおなかを壊したらその責任を取れるの? それともそんなに僕に嫌がらせをしたかったのかな? おいっ! 何か言え! ゴミ女」



「申し訳ございません。平民である私が、勇者であるあなたに対して、ご迷惑をおかけしたことをお詫びします。……嫌がらせのつもりではなかったのです。でも、あなたの気持ちを考えずに迷惑をかけたことは謝まります……本当に、ごめんなさい」



 勇者は何かカチンとある事があったらしく、

 アリスの胸ぐらを掴んで、

 ツバが飛ぶほどの距離の至近距離で怒鳴りたてる。



「はあぁっ?! なにが"あなた"だ。僕には勇者クルスという立派な名前があるんだ。いつまでも、たまたま隣近所に住んでいた幼馴染という特権を盾にして僕に対して無礼な態度を取るんじゃねーよ。この、ストーカーブス」



 聞くに耐えない罵詈雑言の羅列だ。


 ちょっとした口喧嘩程度であれば黙って聞き流しても良かったが、

 これ以上は俺も我慢の限界だ。


 勇者クルスはアリスの胸ぐらを掴んだまま、

 アリスの顔面に向かって拳を振り上げていた。



 ガシッ――



 俺は勇者の振った右拳がアリスの顔に届く前に、

 手首を万力のように握り締め、止める。


 あのいつも太陽のように微笑んでいる気丈なアリスが泣いていた。

 俺の頭の中の何かが壊れたのを感じた。



「おい……下等で下賤な身分の木こり風情が……僕の体に触れたね?」



「それがどうした」



「はん。勘違いしては困るな、木こり。これはねぇ……僕の部下に対しての教育的な指導の一環なんだよ。部外者のキミにとやかく言われる事ではないんだよ。それとも、キミもそこのストーカーブスと同じように幼馴染の特権を盾に僕に対して何か偉そうな事を言おうとでもいうのかい?」



「クルス、おまえは先ほどと宣言したばかりだ。つまりお前のしたことは、村人に対する暴行罪だ。勇者特権で罰せられこそはしないだろうが、王都の民のお前に対する信頼は地に落ちるだろう」



「おい、木こり。さっきから、木しか切るしか出来ない、能無しのゴミの分際でごちゃごちゃとうるせぇんだよ……。てめぇも、俺をいつまでも昔の頃の俺と同じように思ってナメているなら、お前らまとめて



「アリスは関係ない。お前に触れているのはこの俺だ、勇者クルス」



「っ……痛えなぁ。いつまで僕の手首を握っているんだ。さっさと離せ!!」



 俺は勇者クルスの手首を握っていたその手を離す。


 万力で締め付けられたようにクッキリと手の跡が付いていた。

 クルスは手が痺れるのかしばらく手を開いて閉じてを繰り返していた。


 本当はそのまま腕をへし折ってやろうかと思ったのだが、

 それをすれば鬱憤のたまったクルスの怒りが、

 アリスに振るわれる可能性があったので我慢した。


 クルスは手の痺れがとれたのか、

 右手で左手の白手袋を外し俺の足元に投げつける。


 なんとも時代がかった決闘の申し込み方だ。



「おい。木こり、木剣で決闘だ。お前のような平民風情が、高貴な僕の腕に触れたその罪を思う存分に理解させてやる」



 なんとも短絡的な思考の男だ。

 今どき貴族でもこんな古臭い決闘の真似事をする奴はいない。

 個人間の決闘などはもはや廃れた風習だ。


 勇者として選ばれる以前は俺やアリスと同じように、

 元はクルスもただのこの村の村人。


 あのときの気の弱そうだけど可愛げのあった、

 その面影はもはやない。


 クルスが急に貴族のように振る舞い出したのは2年前に、

 神託とやらでクルスが勇者に選ばれてからのことだ。



「木剣で良いのか」



「ふん。勇者の僕が木こり相手に本物の剣を使う必要はない」



 決闘などと言いながらも命を賭ける覚悟もないか。



「僕に付いてきな、木こり。お前を公開処刑してやる」




――あとがき――

2022年6月10日より、異世界バトルファンタジーの新作小説を執筆しております。毎日更新頑張っております!もしよろしければ、あわせてお読み頂けますと幸いです。新作は、カクヨムの☆評価が残念ながら奮わなかったため書籍版出す前に心が折れまくりの顔面蒼白でした(^_^;)


いざ出版したところAmazonライトノベル総合ランキング37位でした。(6月17日~7月5日時点で、まだ50位近辺です)きっと皆様も楽しめるかと思いますので、こちらもよろしくお願いいたします!


【新作】りゅうごろしようじょ

https://kakuyomu.jp/works/16816927862430571848/episodes/16816927862430579461

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