第4話 一斉蜂起

 クレム王国から歩いて数十分ほどの距離にある山道に、勉太たち四人組の姿があった。

 山道といっても麓近くを回り込むように木を伐採して開かれた、なだらかな道だ。隣国との交易路として利用されており、クレム王国にとって無くてはならない区間である。

 その重要な場所で略奪行為を働いているのが、勉太たちが討伐対象とする蜥蜴人リザードマンだ。近年になって山に住み着き、商人を襲っては物資を奪い去っていくという。


「野蛮な種族だ」

「ね、本当に最低だよね。おまけにバカだし」


 勉太は吐き捨てるように言った。近藤もそれに賛同する。

 聞く所によれば奪い去るのは装備品や食料だけで、それ以外のもの、例えば金銭には目も暮れない。商人自身についても同様に無関心な事が多く、逃げ出しても背中を刺されたりはしないらしいのだ。


「こう言っちゃ不謹慎かもだけど、その商人さんをちゃんと殺していればね」

「あぁ、事件の発覚は防げただろうに」

「でも勉太、中には殺された人もいるって話だよ。……あれ、違ったっけ?」

「正確には拉致された、だよ安田。まぁ、そいつの安否は不明なんだ。殺されたと言っていいだろう」

「それもバカだよ、全員を誘拐しちゃえばよかったのに。わざわざ一人だけなんて」

「あっはっは!よっぽど気に食わなかったんだろうね!駒島みたいに!」

「相澤それ言っちゃうぅ?」

「戦いに不向きだから連れてこなかっただけだよねぇ?」

「そうだったね、あっはっは!」


 しばらくの間、女性陣は笑いあった。


「よし、そろそろ始めよう」


 勉太の声に、彼女たちの表情が引き締まる。それぞれが戦闘に向けて覚悟を決めた瞬間だった。


「『 一 斉フライト・蜂起オブ・ジンガー』を使う。みんな、受け取ってくれ」


 勉太の広げた両手に、どこからともなく光の粒子が集まり始める。集まった粒子は形を変え、黒い鞘に収まった凶器として具現化した。

 相澤、近藤、安田の順に武器を手に取る。木製のハンドルを握って鞘から引き抜くと、銀色の殺意が顔を覗かせた。刃渡り十五センチメートルのサバイバルナイフは、喧嘩すらまともにしたことのない現代人の手にも良く適合した。


「今日中に蜥蜴人リザードマンは根絶やしにする。奴らの甘ったるいやり方とは違う。逃亡を図ったならば、背後から首元を掻っ切るんだ!」

「オッケー、一匹たりとも逃さないよ!『敵地探知ホーネット・ホール』!」


 安田の虹彩が茶色から緑色に変化する。さらに瞳孔の周囲にポツポツと黄色の点が浮かび上がった。


「どうだ安田?」

「これは……結構な数だね。昨日までバラけていた集団が、今日は一つの巣に集まっているよ」

「僕たちを恐れて戦力を集中したみたいだな」

「好都合じゃん勉太、逆に手間が省けるって!」

「そうだな、だがまずは……!」


 グルン、と首が回った。

 全く同じタイミングで、四人が同じ方向を向いたのだ。その光景に偵察中の蜥蜴人リザードマンは恐怖を覚えた。

 木の上に身を隠していたはずなのに、なぜ?わずかに枝が軋んだのは事実だ。しかし人間の聴力で聞き取れるのか?一人だけならまだしも四人全員が?

 止まりかけた思考を必死に巡らせていたとき、蜥蜴人リザードマンを浮遊感が襲った。


「『千鳥足リキティ・レース』……!」


 相澤が左手をかざすと、蜥蜴人リザードマンは枝から足を踏み外していた。

 何が起きた?それを考えるには時間があまりに足りなかった。

 蜥蜴人リザードマンの眼前には、既にナイフを握った三つの右手が迫っていた。




「やっぱり遅れるなぁ」


 相澤は赤く染まった自分のナイフを見つめながら呟いた。


「仕方ないよ、スキルを使う時間があるんだし。それに、あたしと近藤の方が早かったなんて、こいつには分からなかったと思うよ」


 安田は足元に転がる蜥蜴人リザードマンを見つめて言った。その首筋には致命傷と呼ぶべきクレバスが三箇所、刻まれていた。


「勉太、回収するのはいつもと同じでいい?」

「あぁ、頼むぞ近藤」


 商人から奪ったであろう剣と盾を、近藤の『貨物運搬ディスコ・トレイン』に仕舞い込む。仕舞うといっても整理する必要は無い。ただ無造作に入れるだけだ。


「……にしても、やっぱり勉太のスキルは凄いなぁ!持つだけで強くなれるんだもの!」

「相澤、せめて装備するって言わない?」

「あっはっは!そっかぁ!」


 敵の位置を聞き分ける聴力、相澤のスキルと共に行動する反射神経、落下中の蜥蜴人リザードマンに迫る脚力と跳躍力、敵の皮膚を切り裂く筋力、それら全てが勉太の『 一 斉フライト・蜂起オブ・ジンガー』によってもたらされたものだ。

 能力補正だけではない。ナイフを通じて、声を交わさずとも意思疎通がとれるという効果もある。

 勉太は改めて、自身の固有スキルが生んだチームを実感した。

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