第4話 複雑な気持ち

狩りの日からしばらく、わたしはアイツとは会わないようにしていた。


新しい年を迎える頃、わたしは1人でツバサおじさんの詰所に来ていた。


ツバサおじさんもあの日領主様の屋敷にいたので、わたし達が喧嘩したことを知っている。


「リンダちゃん、お茶でもどうだい?」


「ありがとう。頂きます。」


暖かいお茶は、わたしの冷えた心に染み入るようだ。


「リンダちゃん、まだフック君とは仲直り出来てないのかい?」


わたしは黙って頷く。


「そうかい。

それでリンダちゃんは、フック君と仲直りしたいのかい?」


黙って頷く。


「なら、謝っちゃえば?」


「だってアイツが、アイツにはデリカシーがないんだよ!

アイツは、わたしの気持ちをわかってないんだ。

だからあんな……あんな無責任な態度を……」


「なるほど、そうだね。

一生懸命作ったのに、1番褒めて欲しい人に褒めてもらえなかったんだものね。


あの時のフック君は確かにリンダちゃんの気持ちを理解していなかったかもね。



でもね、リンダちゃんはあの時のフック君の気持ちは理解していたかい?」


アイツの気持ち?


あの時のアイツって。

そういえばいつも先頭を切ってはしゃいでいるアイツが、あの日は大人しかった。


誰とも話している気配も無かったし。


体調でも悪かったのかしら。


「ツバサおじさん、あの日アイツに何かあったのかな?」


「あの日大収穫だったのは覚えている?


あの日、フック君は良いところを見せたかったんだ。


歳下の子もいたし、何よりもリンダちゃんがお弁当を作っていたのを知っていたからね。


だけどね、いくら頑張っても彼はただの1匹、1羽も狩れなかったんだ。


初めての狩りで狩れないのは珍しく無いんだけどね。


ただ彼はアカデミーに行ってたから、皆よりも3年遅かった。


彼は、貴族としてのプライドもあって、歳下に負けるのが悔しかったのかもね。」


そうだったんだ。全く知らなかった。

というか、わたし自分が褒められて有頂天になって、アイツのことを見ていなかったんだ。


だからアイツの気持ちに気付かなかった。


だからアイツをあんな風に強く非難しちゃったんだ。


どうしよう。

アイツは確かに最初『美味しかった』って言ってくれた。


落ち込んでるはずなのに、わたしを気遣ってくれていたんだ。


なのに…… なのに、わたしは。


「リンダちゃん。あまり思いつめないようにね。


誰にも行き違いはあるものさ。

誰だって人を傷つけたくないけど、相手のことをいつも考え続けることは、不可能だからね。」


ツバサおじさんは優しく慰めてくれる。


「リンダちゃん、もしかしたらフック君もリンダちゃんと同じように悩んでるかも知れないよ。


リンダちゃんから謝ってみたらどうかなぁ。」


「おじさん、ありがとう。

今からアイツに謝ってきます。

許してくれるかどうかわからないけど、心を込めて謝ってみるわ。」


わたしは、ツバサおじさんにお礼を言って、フックの元へと向かった。



「あらリンダちゃん、いらっしゃい。

久しぶりね。どうしたの?」


「叔母様、フック君はいますか?」


「部屋にいるとおもうわ。」


「ありがとうございます。

行ってみます。」


わたしは頭を下げて、アイツの部屋へ急ぐ。


部屋に近づくにつれ、心が折れそうになるのを奮い立たせ、一歩また一歩前に進む。


ついに、わたしはアイツの部屋の前まで来た。


胸はドキドキして、潰れてしまいそうだ。


ここで引き返せばわたしは傷付かずに済む。


でもこの機会を逃してしまうと、たぶんアイツとの今迄の関係を続けることは出来無くなってしまうような気がする。


揺れ動く気持ちの中で、扉の前で時間が過ぎていく。



どのくらい時間が経ったのだろうか。


ギギッー


音を立てて、扉が中から開かれようとしていた。

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