第3話

 《探索》、それは月に一度だけ族長の許可をもって廻廊の調査をすることである。《コバルティア》は地中に存在する都市である故に常に資源が枯渇している状態であった。伝承によると地上は資源が豊富で衣食住に不自由のない生活ができるというが、《コバルティア》の住民たちには地上では暮らせない理由があった。

 ひとつは体質、長らく地下生活をしていたために太陽光に極度の拒絶反応を示してしまうこと。そしてもうひとつは廻廊の存在である。

 伝承によると、廻廊は地上からの敵の侵入を防ぐ目的で造られたらしい。まず、第七階層のすぐ上にある第二廻廊には先人たちの知恵で造られた魔導兵器が稼働しており、射程範囲に入る全ての人間を攻撃してくる。侵入者も《コバルティア》の住民も区別なく、である。そのため第二廻廊突破のためにはある程度の戦闘経験が必要なのだ。しかし、第二廻廊を過ぎた先に待っているのは地上に一番近い第一廻廊である。ここには魔導兵器は存在していないが、道が複雑怪奇に入り組んでいる上に一寸先も見えない暗闇なのである。魔導兵器と迷宮を突破できない限り地上へ出ることはできない。そのため、多くの住民は地上にたどり着く前に諦めてしまうのである。

 だが、そのままなにも手を打たずにいれば資源は枯渇し続け、いずれは途絶えてしまう。そのため、族長は一族の手練れたちを廻廊へ向かわせ、資源の調達、新種の発見、時折地上の調査を命ずるのだ。その任務を彼らは《探索》と呼んでいる。

 この三人は見た目は年端も行かぬ少年であるが、その実、三人とも生まれつき身体に刺青を持つ特別な生まれであった。数年に一度生まれる刺青持ちの子供たちは、恐ろしく短命である代わりに常人とは比べ物にならないぐらい強い魔力を持っている。彼ら三人の力は住民全員が認めるもので、《探索》ではいつも一定以上の成果を持ち帰ってくる実力者たちだ。

 さて、話を戻そう。

 「まず、次の探索は四日後だ」

 三人のリーダー、ヴェーチェルが指を立てて示すと、彼の持参したスープを飲んでいたエレオスが怪訝そうに眉を寄せた。

 「また随分と急な話じゃねぇか」

 「うん、なんか緊急の追加調査が入ったらしくて、準備も含めて四日後だって。明日の朝、族長の屋敷で詳しい話がある」

 「なんか、ほんと切羽詰まってる感じだね。いつもなら十日ぐらい準備期間くれるのにさ」

 ジズも同じような反応をする。すると、ヴェーチェルは突然身を小さくして、多分だけど、と断りをいれてから、

 「二人は第五階層の果樹園区画の話をもう聞いてる?」

 「あ、《夜光草》の配給が追い付いてないって話?」

 「族長が栽培してる《夜光草》が今回は軒並みダメで、困り果ててるっていう、あれか?」

 噂には聞いているし、かくいう三人もその影響を少なからず受けていた。施設自体の灯りはもちろん、診察台の照明、ミサに使う灯り、本を修復する時に手元を照らす小灯りなど…。

 この《コバルティア》の生活必需品である《夜光草》は第一階層にある族長の屋敷で育てられたものを配給している。元々第一廻廊に存在していた《夜光草》を移植してきたのだが、最近この草の寿命が極端に短くいわゆる《灯り切れ》が頻繁に起こるようになったのである。

 「それそれ。だから数年振りの《灯明探し》をするんじゃないか、って話。そもそも《夜光草》の寿命はそんなに長くないから永久的に灯りを供給できるような術式の研究もするんじゃないかな」

 確かに地下の暗い世界に灯りはなくては生活もままならない。事は急を要す、だからこその今回の探索だろう。

 「絶対っていう確証はないけど、多分間違いはないだろうね。まあ明日にはわかることだ。探索の予定は変わらないと思う、四日後だから二人とも準備しといてね」

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