乱闘! 珍走団流星群!

「いた、アクセサリのショップ!」と、優月が二階の端を指さした。

 優月が差した指の先を追う。


 スマホケースやシュシュなど、雑貨や日用品を売っている店に、太一達がいた。お揃いのリングを探しているようだ。


「店の前で、流星群同士がケンカしてるわ」


 カガリと同じ社会科見学なのか、学生服を着た宇宙人ご一行が、睨み合っていた。


「てめえどこ座だ?」

「しし座だコノヤローッ!」

「あァん、しし座だあ? 【海蛇座銀河団】のシマで何デカイ顔してんだコラ!」


 お互い因縁をつけている。二チームの流星群という名の珍走団がいがみ合っているのだ。


「海蛇座銀河団ですって!?」


「知ってるのか、優月」


「ネクサス・パイルの次に大規模な海賊団よ。ヒュドラって女海賊がボスなの。あたしも、何度か戦ったことがあるわ。決着は付いてないけど」


 聞いた事ないと思っていたら、最近台頭してきた新鋭らしい。ほんの数年で、凄まじく勢力を拡大しているとか。


「そのヒュドラってのは、強いのか?」


「ええ。アンタより強いんじゃない? それより、海蛇座銀河団は星雲大帝と繋がっているんじゃないかって噂よ」


 勢力拡大の影に星雲大帝が絡んでいる危険があるという。

 下っ端として利用していると。


「目を合わせないようにしようぜ。厄介事はゴメンだ」

「ええ、そうね」


 顔を伏せながら、オレたちは流星群の一団を素通りしようとした。


 だが、一団の一人がこちらに気付く。


「おい、待てよ。テメエ忍者だな?」


 オレは立ち止まって、極力相手と目を合わせないようにする。


「人違いだろ?」


「いや、オレらは兄貴の出所祝いで地球に来てるんだよ。あの時は世話になったな。テメエのせいで兄貴はムショ行きだ。落とし前つけてやるからな」


 どうやら、過去の取り締まりを根に持っているようだ。

 

 だったら、やるしかないか。


「人のいない所でやらないか? ここじゃ人目に付く」

「その方が都合がいいんだよ!」


 一人がオレに殴りかかって来た。


 周りには人が大勢いる。

 

 これではうかつに手が出せない。


 相手はそれを狙っているのか。


 だったら、必要最小限の動きで潰すだけだ。


 拳が頬に当たるギリギリで手首を捕らえ、力一杯にへし折る。


「いがああ!」


 殴ってきた敵を一団に押しつけた。

「ケガしたくないなら消えろ」


「何だよこいつ、強えじゃねえか!」「もっと楽な仕事だったんじゃねえのかよ!」


 何だ? まさか、誰かに頼まれて動いてるのか?


「もういい遠慮するな! やっちまえ!」


 流星群の一団が、鉄パイプや木刀、ゴルフクラブなどで武装した。


 モールにいた客達が、大騒ぎしながら逃げ出す。


 こちらも何か武器はないか。


 パイセンも、客の避難誘導で動けない。

 せっかくの非番だっていうのに。


 こんな所で刀を振り回すワケにもいかないし。


 橋のようになっている通路に追い込まれる。


 ファッションルームにあるハンガーが目にとまった。これだ。


 手首のブレスレットに触れる。


【忍法 武装七変化】で、流星刀を物質変換した代物だ。

 

 オレはブレスに指をかけ、武装を展開。

 とは言っても、刀を変形させた鋼鉄製のフックなしハンガーである。

 輪の部分指を引っかけて、二本のハンガーをヌンチャク代わりに振り回す。


「優月、殺すなよ」

「わかってるわよ。やりすぎないから見てなさい」


 優月のイメージした武器は、モップのようだ。

 バトントワリングか演舞のような動きで華麗に振り回して構えを取った。


 獲物が掃き掃除の道具とは、さすがのチョイスだ。使い方が武闘派すぎて、女の子らしさは皆無だが。


 流星群の一団は、オレたちの獲物を見て鼻で嘲り笑う。

 

 そうやって余裕こいていられるのも今の内だ。




 一団の懐に入り込んで、ハンガーを回す。



 

 標的は三人。

 

 脇腹に一撃を食らわせて、ひとりを無力化。

 両の臑にハンガーを打ち込んで、もう一人を動けなくする。

 最後の一人は後頭部にキツい一発を。一瞬で三人倒す。

 

 優月の方も容赦しない。竿を豪快に旋回させて、五人を一気にぶっ飛ばしていた。

 店の被害にならないように、全員足を狙って転倒させる。


 モップなら、そんなにダメージはないはずだが、やられた方はなぜか悶絶していた。優月に魔法か何か打ち込まれたか。


 そのまま優月は、広くなった道を通り過ぎ、下の階へ。


「いたぞ!」

 優月が向かった先には、増援が先回りしていた。


 オレは橋から飛び降りて、援護に向かう。

 飛び降りた瞬間に、敵を数人巻き込み、押し潰す。




 赤ん坊を乗せたまま、乳母車が階段を下っていく。




 かばおうとする優月に、流星群が殴りかかる。


 オレはハンガーをブーメラン代わりにして投げつけた。

 流星群の手首にヒット。


 流星群は、鉄パイプを取り落とした。


 優月が身体を張ってジャンプし、乳母車を抱き込んだ。

 

 だが、もうすぐ下に床がある。このままでは、二人とも大けがでは済まないだろう。


 オレは身を挺して、クッションになった。優月の身体を乳母車ごと抱きかかえる。地面に激突した衝撃と痛みが背中を襲う。


「無事か、優月?」


「ええ、無事よ。赤ちゃんも」

 優月は、安堵の声を上げる。



 オレにも分かる赤ん坊の頭だろうか、丸くて柔らかい感触がある。どうもないようだ。



 奥さんが階段を駆け下りて、乳母車をどかした。


 よかった。赤ん坊は無事だったようだ。



「どうもありがとう」

「いえ、どうってことないっす」


 しかし、流星群がわらわらと押し寄せてくる。

 まだこんなにも数がいるのかよ。




「全員動くな!」

 パイセンが、警察手帳を出して流星群を威嚇した。




 それだけで、流星群どもの動きが止まる。


 隙を突いて、先輩はリーダー格らしき男の首根っこを掴む。


「あんだぁ? どこの署のモンだよ?」

 掴まれている男が、パイセンにガンを垂れた。



 パイセンも負けない。流星群を射殺すくらいに睨み返す。


「銀河警察だよ」と、掴んでいる男にだけ聞こえるように耳打ちする。


 この一言に、流星群もたじろぐ。


「これ以上暴れたら、公務執行妨害でしょっ引いてやろうかな?」


「くっそ、引き上げるぞ!」


 リーダーはパイセンの拘束が解かれると、部下達に向かって叫んだ。


 クモの子を散らすように、流星群が去って行く。


「大丈夫か、てっちゃん?」

「はい。すんません」


 パイセンは微笑みながら「おう。じゃあ、俺行くわ」と、雑踏へと溶け込んでいった。


「おい、優月。どいてくれないか?」


 優月から返答はない。


 それにしても、赤ん坊は奥さんが抱きかかえているのに、柔らかい感触がオレの手から離れない。

 オレは、いったい何を掴んでいるんだ?


「あのね、虎徹。手をどけてくれないかしら?」


 優月がオレの上に乗ったまま、こちらを向く。その視線には、怒気を孕んでいる。


「お前の方こそどかないか」

「さっきからアンタがしがみついてるせいで起きられないのよ!」


 ということは、これが今掴んでいるのは優月の……。




「この、ドスケベェーッ!」




 乾いた音が、オレの頬から響く。

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