第3話 のぼせる二人。

 あいつは正午ピッタリにやって来た。


「あれ、今日は……」

「あんたの助言、受け入れてやったわよ。これなら多少は暑苦しくないでしょ?」


 白いゴスロリに身を包んだ私。それを見てジンは、口をポカーンと開けている。

 

「何よ?」

「ふっ……アッハハハハハ!」

「ちょっ、いきなり失礼ね!」

「わりぃわりぃ、ついホッとして笑っちった……」

「ホッとした?」

「うん。もしかしたらクルミ、オレが服を否定したと勘違いしたかなって思ったから」


 勘違い……。

 この男は、どれだけ鋭いのだろうか。


「オレはクルミが、夏にゴスロリを着ていてツラくないかが心配だっただけ。黒って余計に暑くなるし」

「……ふーん……見ている自分が余計に暑くなるとかじゃなかったんだ」

「そんなんじゃねーよ! オレ、クルミのゴスロリ姿がマジで似合っていて好きだし!」

「な……!」


 好きって……!

 い、いやいや私じゃなくて服のこと!

 それなのに私ったら……。


「あれれ~? どうしたのかなクルミちゃ~ん? イテッ!」

「のぼせるな!」


 やっぱり調子に乗る奴を日傘で成敗した。


「そっちだって、のぼせているじゃん! 真っ赤だぞ~?」

「うるさいっ! 今日はランチ奢りなさい! 私に勘違いさせた罰よ! 本当はラーメンが良いけど……今日は白い服だから汚れない食事で!」


 日傘を開き、私は歩き出した。




 ああ~、クルミかわいい!

 オレの言ったことを気にしちゃうところも、それでも自分を貫くところも、真っ赤な顔も超かわいい!

 そんな彼女にオレは今日、飯を奢らされるらしいです。嫌じゃない。

 なぜなら二人でランチ……つまり、これはデートだから!

 ……あ!

 スタスタ歩くクルミの後ろで、オレは思い付いた。


「ん? わぁ……!」


 オレは昨日おっちゃんから受け取ったシャボン玉を飛ばした。クルミは楽しそうに、たくさんのそれらを眺めている。成功。


「へへっ。良いだろ?」


 オレが得意になると、クルミはハッとして表情を変えた。また顔が赤くなった。


「き、きれいよねシャボン玉って」

「喜んでいただけましたか?」

「ま、まあね……」

「そりゃあよかった」

「……ありがとう、ジン」


 えっ!


「い……今、ジンって!」

「あー、もうっ! ジンにジンって言って何が悪いのよ!」


 久々にジンって呼んでくれた……!

 そんな風に喜んでいると、いつの間にかオレは日傘の中に入れてもらっていて、相合い傘が仕上がっていた。

 2020年夏。

 オレの恋は、なかなか進んだ。

 次の課題は愛の告白。

 次はファッションではなくクルミに好きと伝えるんだ!

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