第31話 池の底の黒い何か
「明かり付けるね」
ぽちっとな。
なにもない空間のボタンを押すような動作をエルモがした途端、そこを中心にして辺り十メルほどが明るく照らされる。
「その動作意味あるのか?」
「ん? 気分の問題かな。イメージと動作を合わせると魔法が発動しやすくなるんだよね」
「それはそうかもしんねぇけど、普通明かりって言ったら火を付ける動作のほうじゃね?」
「こんなところで火なんか焚いたら、すぐに酸欠になって死んじゃうよ」
一応周りの水から酸素を作り出しているけどね。
エルモはそう言って少し青ざめた俺の顔を笑ってみている。
「酸素ねぇ」
「性格には酸素だけじゃなくて色々と出来る範囲で空気に近い組成にはしてるけどね」
「組成とか、俺もあそこで十年位お前につきっきりで教えてもらったけど、さっぱり理解できなかったぜ」
「いいんだよ。そういう部分は僕が全部やってあげるから」
「おう、任せた。しかしこの池本当に深いな。もう水面とか全くみえねぇわ」
上を見上げるが、地上からの光はすでに一切見えない。
エルモの光がなければ完全な暗闇である。
「でもそろそろ底のはずだよ」
「ということは、ヤツも近くにいる可能性があるのか。油断しないようにしなきゃな」
「相変わらずサーチには何の反応もないけどね。一体どういうことなんだろう」
やがて光の中に池の底が見えてくる。
ゆっくりとそこに着地すると、底に溜まっていた泥がゆっくりと舞い上がり視界をしばしの間閉ざしてしまう。
「気配も何も感じないな」
「とりあえずあの魚の反応が消えたところまで行ってみようよ」
「そこに何かあるってことだな」
「何があるかわからないから警戒は怠らないようにね。僕のサーチに引っかからない以上、ルギーの気配察知に頼るしかないから」
「おう、安心して頼れ。というか最近お前に頼ってばかりだったからな。たまには俺にも頼って貰わねぇと立つ瀬がねぇ」
俺はエルモが指さす方へゆっくりと足下の泥を巻き上げないように気をつけながら歩いて行く。
気配察知には普通の魚や池底に住む生き物の気配は引っかかるが、肝心の巨大魚の気配はまるっきり感じない。
あれだけの巨体だ。
近くにいれば例え気配消し能力を持っているとしても引っかかるはずなのだが。
「あん? なんだありゃ」
光に照らされた先に何か黒い物体が見えた。
「何かあったの?」
後ろをついてきていたエルモが俺の肩に顎を乗せて前を覗き込む。
「いや、なんかあそこ黒くねぇ?」
「ほんとだ。黒いね」
俺たちはゆっくりとその黒いものに近づいていく。
池の底に歪な円形の何かがあるとしかわからない。
光に照らされているというのに、まるでその光をも吸収してしまっているような。
「これ何だと思う?」
「さぁ。石でも投げてみようよ」
俺は足下の泥の中から大きめの石を察知で探して掘り出すと、その『黒い何か』に向けて放り投げた。
水の中、ゆっくりとその石が『黒い何か』に向かって落ちていく。
「えっ」
「どうして」
石が『黒い何か』に弾かれると思って見ていた俺たちは同時に驚きの声を上げる
その『黒い何か』に当たったはずの石が、すっと何の抵抗もなくそのまま『黒い何か』の中に吸い込まれていったのだ。
「どういうことだ」
「もしかして……ルギー、もう一回お願い。そして次は投げる石に魔力を込めて気配もトレースしてみて」
「お、おぅ」
もう一度手頃そうな石を掘り出し、魔力を少しそれに込める。
そうしてもう一度『黒い何か』に向けて放り投げた。
エルモに言われた通り、気配察知も切らさない。
自分の魔力を込めたおかげで、かなり察知はしやすかったのだが。
「なっ」
「やっぱりね」
石が『黒い何か』に吸い込まれた瞬間、石の気配が一瞬にして追えなくなったのだ。
どうやらそれはエルモのサーチでも一緒だったようで。
「おいおい、どういうこった」
「やっぱり……これは『穴』だよ」
「穴?」
「うん。賢者オリジの本に書いてあった『次元穴』って奴だと思う」
次元穴。
それが俺の気配察知やエルモのサーチからあの巨大魚や石を探知させなくした原因だったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます