第四章 新たな試練へのプロローグ
第25話 村の農産
俺たちがこの森にやってきてどれくらい経ったろうか。
多分二月ほどは経ったと思う。
王国を離れ、特に日付を気にする必要もない生活をしていたせいで、そういった感覚がかなり曖昧になっている。
その間俺たちは一生懸命自分たちが行きていくための基盤づくりに勤しんでいた。
エルモの計画図通りに、池を中心に作られた村は、高さ五メルはありそうな、丸太を並べて作られた壁で周りを囲まれている。
一見、何の変哲もない丸太の壁であるが、実はその全てにはエルモによって魔法が付与されていて、並大抵の魔獣がぶつかってもびくともしない強度となっていた。
レートのスキルによって耕された畑も、たった一月の間に、いろいろな作物が順調に育っている。
「エルモ、畑の方はもうそろそろいい感じに育ってきてるぞ」
池の対岸に作った畑から戻った俺は、家の中に入るなり、奥の自室にこもっているエルモに声を掛ける。
この家は、元はテントを張っていた場所に作ったもので、二階建ての木造家屋だ。
設計はエルモが行い、ゴブリンたちが木材を加工した後、コボルトたちが組み上げるという分担作業によって作られた。
細かい部分はエルモが二種族に指導を行う必要があったが、その御蔭でこんな魔王領の森の中にあるとは思えないくらい立派なものが出来上がった。
そして、この家作りで得た技術で、ゴブリンやコボルトは協力して自らの家も次々に作っていったのである。
「レートは一緒じゃないの?」
「ああ、あいつならゴブリンたちと牧場の様子を見に行ったよ」
そう牧場だ。
実は村の中では何種類かの動物を現在飼育している。
食肉用の牛。
乳などを搾るための乳牛。
そして卵を生む鶏。
以上の三種類だ。
牛たちはこの森の近くにある草原に生息しているものをゴブリンたちが捕獲。
鶏はエルモと俺が近くの街まで出かけ、変身してから十羽ほど購入してきたものだ。
「でもゴブリンが畜産をしているなんてびっくりしたよ」
「賢者の本にも書いてなかったって言ってたな」
「うん。賢者オリジも流石に魔族や魔物については未知な部分が多かったみたいだからね」
最初、食料調達に出かけていたはずのゴブローたちが牛を数頭引き連れて村に帰ってきた時は、すぐに肉に加工するのだと思っていた。
なので、その牛たちを飼育すると聞いた時は驚いたものだ。
「おかげで毎日おいしい牛乳と卵が食べられるんだからありがたいよね」
「まぁそうだな。まさか魔王領でそんな物が手に入るとは思わなかったしな」
「これで後は畑の作物が収穫出来るようになれば、食料問題は随分と解決するはずだよ」
「そういえばその作物なんだけどよ。あれ、いくらレートのスキルで耕した畑だっていっても成長が早すぎないか?」
今しがた確認してきたところだが、畑が出来てまだ二月も経っていないはずだ。
だと言うのに、既に麦の穂は収穫間近なくらいまで育ち、他の野菜たちも既に収穫しても良いのではないかというくらいまで育っていた。
たしかにレートのスキルには成長促進の能力もあると聞いているが、その力は微々たるもののハズである。
「あれ? ルギーは知らなかったの?」
「なんのことだよ」
「だってあの作物の種とか苗って、賢者の部屋から持ってきたものだよ」
「賢者の部屋って、あの部屋の奥のやつか?」
「そうさ。僕たちが毎日食べてもすぐに新しい実が成ったりしたあの不思議な作物の苗と種だよ」
エルモはあの洞窟を後にする時、いろいろなものをあの賢者の部屋から持ち出してきたのだという。
その中にその種や苗も含まれていたらしい。
「それを外の土地に埋めたらどうなるか調べたかったんだ」
結果は、さすがに洞窟の中ほどの成長速度は見せなかったが、それでも十分に早く育つことがわかった。
エルモは更に、育った作物から種や苗を採って、二代目、三代目と世代が進むとどうなるかも研究したいと笑う。
「徐々に成長力が落ち着いていくのか。それとも洞窟の外の環境に慣れて、成長速度が増していくのか気になるよね」
「お、おぅ。まぁ早く育ってくれればそれに越したことはないけどよ」
俺は何やら夢見る少女のように目をきらめかせているエルモに若干引きつつ、机の上に今朝ゴブローから受け取った一枚の紙を広げた。
「それはそれとして、例の大会の参加者が決まったぜ」
「例の大会?」
「おいおい、忘れたのか? 村が完成したときに俺が言ったやつだよ」
そして少し呆れたような声を上げつつ、広げた紙の一番上に書かれた文字を指差した。
俺的にはかなり綺麗に書いたつもりのその文字は、こう書かれていた。
『森の村誕生記念 第一回 釣り大会 参加者一覧』
と。
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