第7話 命懸けはスローモーション

「槍隊! コーキを中心に円形に陣を取れ!」


 ゼイラス王子の号令で、槍隊が直ぐ様円形に展開する。俺、王子、側近二人はその円の内側だ。


「来るぞ! コーキ! カウンターシールド!」


 屋根の上から襲い来るホブゴブリンたち。そこにいきなり俺に指示が飛び、俺は慌てて握っていたカウンターシールドのスイッチを押す。

 ブォンと言う音とともにカウンターシールドが展開する。俺だけでなく一行全員がその盾の傘に包まれた。

 ホブゴブリンたちの攻撃に、カウンターシールドがギィインと嫌な音を立てて砕け散るが、幸い盾の傘に包まれていた俺たちに負傷者は出なかった。

 ホブゴブリンたちは自分たちの攻撃が通らなかったことに少々動揺したような態度になる。


「槍隊! 撃てぇ!」


 その隙を見逃さず、槍隊が一斉に引き金を引く。破裂音とともに次々と光弾がホブゴブリンたちに命中するが、それはまるで致命傷とはならず、ホブゴブリンたちによる第二擊が迫る。


「コーキ!」


 言われずとも分かっている。俺はカウンターシールドを展開する。ブォンと言う音は直ぐ様ギィインと言う嫌な音に相殺され、砕け散った。


「くっ! 撃てぇ!」


 カウンターシールドを砕き更に迫るホブゴブリンたちへ槍隊が発砲するが、傷こそ付けるがまるで意に介さないようだ。

 槍の穂先が触れる程に両者が接近したところで、ブオオッ! バリバリバリッ! 轟音が俺たちを取り囲むホブゴブリンたちを襲撃する。

 ガロンさんの火魔法とビッシュさんの雷魔法だ。炎雷がホブゴブリンたちを包み込み、苦しみの奇声を上げる。


「撃てぇ!」


 更に畳み掛けるように連続して発砲する槍隊。

 ブォン! バリィンッ! それは炎雷や破裂音を斬り裂くような攻撃だった。俺がそれに対してカウンターシールドを展開出来たのは全くの偶然で、周りの音や熱の激しさに、思わずカウンターシールドのスイッチを押してしまっただけだった。

 攻撃の主はダンジョンマスター。あの靄に目玉が付いているような物体が、いつの間にかトゲトゲのウニのようになっている。

 ダンジョンマスターはそのトゲをこちらまで伸ばして攻撃してきたのだ。


「くっ!」


 横で険しい顔になるゼイラス王子。ホブゴブリンだけでも厄介なのに、そこにダンジョンマスターまで参戦してきては辛い。

 と、その隙を待っていたかのように、ホブゴブリンの一体が斬り掛かってくる。

 俺は慌ててカウンターシールドを展開させるが、展開途中で盾を壊されてしまった。


「ぐっ!」


 兵士の一人が襲い来るホブゴブリンの斬擊を避けるため、円形の陣が歪み崩れる。

 そこに襲い来るホブゴブリンたち。

 俺は慌ててカウンターシールドのスイッチを押す。がしかし、二体のホブゴブリンが盾の傘の中に入り込んでしまった。


「う、うわあああ!?」


 身がすくむ思いに、俺の喉から自然と悲鳴が上がる。

 俺の前の兵士を斬り倒し、俺目掛けて襲い掛かってくるホブゴブリン。剣を振りかぶり、喜悦の表情でそれを振り下ろしてくる。目で追える。ゆっくりとした動作なのに、俺の身体は冷たい銅像のように硬く動けなかった。

 ギィイン! しかしその剣が俺に届く事はなく、寸前で王子が剣で受け止めた。

 

「ぎいいい!」


 その事に苛立ったホブゴブリンが剣に力を込めて押し込んでくる。

 ザスッ! ドスッ! だがホブゴブリンの進撃はそこまでだった。ガロンさんとビッシュさんの剣が、ホブゴブリンを斬り裂き、ホブゴブリンは黒い靄となり霧散した。

 見ればもう一体のホブゴブリンも兵士たちによって串刺しとなり霧散したところだ。

 俺がその事に安堵して、カウンターシールドのスイッチから指を離した時だった。


「離すな!」


 ゼイラス王子の怒号で、俺はもう一度スイッチを押そうとしたが遅かった。

 ザスッ! 何かが俺の両手を貫いていた。

 一瞬何が起こったのか理解が追い付かず、貫いたモノの方に視線を向けると、ダンジョンマスターが眼だけで笑っていた。


「ああああああっっ!!」


 次の瞬間に激痛が両手を襲う。その痛さにカウンターシールドのスイッチを落とすと、待ってましたと残ったホブゴブリンたちが襲い掛かってきた。


「くっ!」


 王子が素早くカウンターシールドのスイッチを拾い上げてスイッチを押すが、時すでに遅しで、シールド内にホブゴブリンたちが溢れる。

 俺のせいで絶体絶命の一行。もうダメだ。と目を瞑った次の瞬間。

 ダァンッ! 銃声がこだました。そして動きを止めるホブゴブリンたち。

 何が起こったのか理解出来ず互いに顔を見合わせる一行。


「あっ!」


 兵士の一人が驚きの声とともに指を差した先では、ダンジョンマスターがもがき苦しんでいた。

 そして苦しみから今度は動くなくなったかと思えば、一気に霧散しダンジョンマスターは消えてしまったのだ。

 それ一連の流れを呆然を眺めていたのは俺たちだけでなく、ホブゴブリンたちも同じだった。

 まるでバグの発生したゲームキャラのように動かなくなってしまったホブゴブリン。


「が、ガロン! ビッシュ! 槍隊! 今の内だ!」


 いち早く現状にアジャストした王子の号令が飛び、それにハッとした騎士兵士たちが棒立ちになったホブゴブリンたちを屠っていく。



「はあ……。これでホブゴブリンたちは全て駆逐したと思います」


 辺りを見回し、王子に報告するビッシュさん。ガロンさんと槍隊はまだ周辺の警戒をしている。

 対して王子はというと、俺の手の治療を魔法で素早く終えた後、俺の前に斬り伏せられた兵士を治療中だ。


「ふう。これで大丈夫だろう」


 治療が終わったらしく、一息吐く王子。治療された兵士は眠ってはいるが斬られた傷は残っていない。


「しかし、なんだっんですかね?」


 王子による治療が終わったところで、ガロンさんが声を掛ける。俺たちを窮地から救った銃声の事だろう。


「分からぬ。が、大体の察しはつくがな」

「へぇ、流石ですね」

「……今は帰るぞ」


 王子はそれがどう言う事かは説明せず、ただ帰還の命を指示するのみだった。



「お帰りなさいませ。お兄様」


 王城に帰還した俺たちを出迎えてくれたのは、セルルカ姫様だった。


「やはり帰還していたか」


 驚く俺たちとは違い、王子はどうやら予想がついていたらしい。

 セルルカ姫が地球から帰還したと言う事は、勇者の召喚に成功したと見て良いんだろう。これで俺はやっと地球に、日本に帰れるのか。


「あの村でダンジョンマスターを倒したのは、勇者だな?」


 ホッとしていると、王子が姫様にそう声を掛ける。そうなのか?

 それに対して姫はにこりと微笑むのだった。

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