第5話 国王とは国で最も尊き者、故に最も優れた者こそ相応しい
ファーレシア王国第1王子ロランドは、現在得意の絶頂にいた。
何かと口煩い宰相一派を差し置いて、勇者召喚を行い、5人の勇者を手に入れたのだから、その絶頂も納得のいくものだ。
自室に招いた貴族も口々に称賛するのだから、留まることがない。
「それにしてもロッド翁めの悔しがる顔が眼に浮かびますな」
「全くさ。我ら選ばれし者が何故商人ごときに気を使うのだ」
「これこれ、今はまだ宰相閣下ですよ?
下手に聞かれては面倒です」
公金横領で爵位を1つ下げられたパックル伯爵が、宰相への侮辱に移れば、商人ギルドへの圧力で賠償をさせられたタカール伯爵が合いの手を入れ、賄賂を受けて役職を取り上げられたコッスイ伯爵が嗜める。
「ふん。
後、半年さ。
僕が国王になったら、パックルを宰相にして奴は引退させてやる」
「お待ちしておりますぞ! 次期国王陛下」
「その時は私共もお忘れなく」
「ああ。タカールは財務大臣、コッスイは国軍大将だ。大いに励めよ」
この場に集まる貴族は出来の悪い奴ばかりで、現状を理解せずありもしない薔薇色の未来ばかりを夢想していた。
その状況に冷や水を指したのはタカール伯爵の寄り子であり、同時に宰相の寄り子でもあるマカレール子爵。
「時にロランド様」
「次期国王陛下と呼べ馬鹿者!」
「失礼しました。次期国王陛下。
勇者達のレベル上げの公算はどのような?」
「何を言ってる?
勇者とは召喚された時点で強いのだろう?」
「………」
あまりに世間知らずな発言に部屋の空気が凍った。
その発言に嫌な予感を覚えた子爵が更に続ける。
「次期国王陛下。
陛下もダンジョンに潜られると思いますが、レベルはどの程度なのでしょうか?」
「何を言ってる。次期国王のこの僕がわざわざダンジョンに潜るわけないだろ?」
「それでは次期国王陛下の功績にはなりませんよ?」
「え? 僕が召喚した勇者だぞ?」
「もちろん次期国王陛下が召喚したのは事実です。しかしその設備は元から王国にあったものなので次期国王陛下の功績にはなりません」
「次期国王、次期国王ってしつこいぞ。ロランド様で良い。
僕が独断で呼んだのに僕の功績にはならないのか?」
「ええと。ダンジョン攻略者を呼んだ功績より、国所有の戦略的魔方陣を無断使用した罪の方が重くなるかと。
今は独断だと伝えてないので、罪に問われてないだけですよ?」
この場の全ての貴族が顔を青くした。ここにいるのはこのマカレール子爵を除いて、役職がないか取り上げられた者達。
報連相の大事さを理解している者はいなかった。
「……ロランド様、現在のレベルは?」
「12」
「……サギール男爵、勇者のレベルはどうだった?」
「一様にレベル1でした」
「……マカレール子爵。
ダンジョンで必要なレベルはどの程度かな?」
「確か冒険者ギルドでは、中層に潜るのをレベル30以上で推奨してます」
「つまり陛下がお隠れになるまでに王子達のレベルを30まで上げると言うことか?」
「いえ、王位継承に影響するだけの財宝ですと下層に到達しないと厳しいかと思いますので、レベル45は欲しいです。
しかもレベル45に上げた後に数週間ダンジョンの内部を探索ですから、そこまでの行動を陛下がご崩御されるまでに行う必要が……」
「………」
青い顔の貴族達とそれ以上に青い顔のロランドがそこにいた。
低レベルなら直ぐにレベルアップする。
しかし、高レベルになればなるほど難しい。
具体的にはレベル1の者はダンジョンに2日も潜ればレベル5くらいになるが、30を越えると半月掛けてレベルを1つ上げるのもザラだ。
「どうすれいいと思う」
「騎士の護衛を付けて出来るだけ低い階層でレベル上げをするくらいしか……」
「それは私がやろう。他には?」
マカレールの返答に軍務閥に属するコッスイ伯爵が手を上げ、
「より良い武具を調達するべきだろ?
私が掛け合う」
タカール伯爵も商人を当たると宣言する。
「では私は冒険者ギルドに掛け合って、ダンジョン攻略の便宜を図らせる」
残ったパックル伯爵も対応を宣言し、若干空気が和らぐ。
「僕がそれぞれに親書を持たせよう。
それでなんとかなるかな?」
「十分でしょう。
冒険者達は1度潜れば、数日は休息を取っているようですし」
「ふん。
所詮、下級民だな。勤勉さの欠片もない」
小馬鹿にしたように笑うロランドに追従で笑う彼らは、何故休息が必要かに想像が回らないのだった。
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