第3話 頭の痛い現実

 鷹山家の3人の前に現れたのは、騎士を伴った老人だった。

 その老人は祐介達が起き上がっていることに驚きつつ、


「そなたらが勇者召喚に巻き込まれた一般人かね?」


 と問い掛けた。

 3人が頷くと、大きくため息をついて、


「此度は我が国の愚か者が迷惑を掛けた。正式な弁済は後日するが、この国を代表して謝罪しよう。

 …すまんかった!」

「いや、いきなり謝られても困るんだが?」

「おおそうじゃのう!

 ここでしか出来ないこともすんだし、儂の私室に案内しよう。

 ついて来てくれ。

 道すがら、此度の出来事も説明する」


 そう言ってすぐに歩きだし、騎士がその背後に付く。


「どうする?」

「選択肢がないだろう? ……おっと」


 祐介は騎士と老人に『解析』を使う。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 ロッド・ボーグ 性別 男

種族 人間

職業 侯爵

レベル 38

能力

 生命力 62/62

 魔力  52/58

 腕力  24

 知力  48

 体力  32

 志力  47

 脚力  30

スキル

 技能 水魔術(6)

    詠唱省略(3)

    生活魔術(11)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


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名前 ラクフェ・バレット 性別 女

種族 人間

職業 騎士

レベル 23

能力

 生命力 90/90

 魔力  21/27

 腕力  34

 知力  22

 体力  36

 志力  17

 脚力  38

スキル

 才能 剣の才(7)

 技能 剣術(11)

    身体能力向上(8)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「やっぱり」

「どうしたの?」

「ああ、『解析』だけを使うことで、自分だけが相手の能力を見ることが出来るようだ」

「そう、『解析』と『鑑定』は全くの別物ってことね」

「そうだな。ちなみに俺達はそこそこ強い方みたいだぞ」

「少しは安全ってこと?」

「どうだろう? そこそこレベルで対処できるのかどうか分からないしな」

「何をしとる?」


 肩を竦めていた祐介に老人が声をかけ、歩みを促す。

 ひとまず付いていこうと嫁と娘に合図を送って、祐介は廊下へ出た。


「まず、何が起きたかじゃがな。

 我が国の第1王子が一部の魔術師と協力して、勇者召喚の儀式を行った」

「第1王子? 国が主体じゃないのか」

「違う!

 勇者召喚等と言う危険な儀式を好き好んで行うものか!」

「閣下!」

「すまん。

 ついカッとなった。

 勇者と言う高い素養を持つ人間を好き勝手に召喚出来る。

 そんな危険な国を周辺国家が放置すると思うかね?」

「…ないな」


 老人の言い分は現実的に考えれば当たり前だった。

 周辺の国で異世界から無尽蔵に強力な兵士を召喚出来るなんて聞けば、いつ自分の国に侵略してくるか、気が気じゃない。


「じゃろ。

 しかもその勇者がこちらの言うことを聞く保障もない」

「当然だよな」


 いきなり拉致されて、言うことを聞け何て言われたら、「寝言は寝て言え」って返す人間が大半だろう。

 そう考えて、頷く祐介に老人は密かに安堵した。


「そうなのじゃ。じゃと言うに、あの王子は!」

「閣下!」

「と、そうじゃな。歳をとると怒りっぽくなっていかん」

「いえ、今回の件は致しかたないかと思います。

 しかし、この辺りでは耳目もありますので……」


 再度、激昂した老人を諫めているが、この騎士も今回の件を問題視しているのが分かる。


「何があったんだ?」

「簡単に言えば、後継者争いじゃよ。

 次期国王は優秀な第2王子が有力と目されているのじゃが、それに不満を持つ第1王子がやらかしおった」

「兄より優れた弟はいないって、感じか?」

「正にそう考えてそうじゃ!」


 某有名なアニメの台詞を代用した祐介に頷く老人。


「第1王子は自分が側室腹であるが故に、冷遇されていると勘違いしているのじゃ」

「ああ、側室が先に長男産んだパターンね。

 そんで直ぐに正室に男の子が生まれたと、良くある後継者争いだな」

「いや、第2王子が産まれたのは7年後じゃ」

「おや?」


 物語らしいパターンを連想した祐介は、不正解に首を傾げる。


「むしろ、直ぐに産まれておればここまで拗れんかったがな。

 第2王子が産まれるまで、第1王子は最上位の後継者として優遇され、我が儘放題。

 ろくでなしの貴族達も挙って取り入った。

 そろそろ、帝王学を叩き込もうと考えていた矢先に正室に男の子が産まれてな」

「駄目な王子に見切りを付けちゃったのか?」

「我が国の上層部は、内々に第2王子を次期国王と定め教育し、第1王子は名誉貴族位で飼い殺しにするつもりじゃった」

「駄目な方が名誉貴族になった時に色々と処罰しやすいよな」

「そう言うことじゃ。

 じゃが、最近何処からかその情報が漏れて、あの王子がやらかしおった」

「勇者召喚だな」

「そう言うことじゃ。

 近頃は陛下の具合も悪い。第1王子とその近習はダンジョンに潜って功績を挙げて、次期国王の座をっと考えたのじゃろう。

 その上、巻き込まれた一般人をその場に放置すると言う暴挙!

 呆れてものが言えん!」


 これは怒って当然だな。と思うと同時に、クーデターも有りうると内心警戒レベルを上げる祐介だった。


「おっと、ここが儂の部屋じゃ。

 ささ入るが良い」


 中層で一番豪華な扉の部屋に案内する老人に、この話の信憑性が増すことで憂鬱を感じる祐介。

 老人は部屋にいたメイドに茶と軽く摘まめる物を用意するように伝えると、向かい合うソファに鷹山一家を促した。


「まず、自己紹介じゃ。

 儂はロッド。ボーグ侯爵家の当主で、宰相を拝命しておる」


 やはりそう言う立場かと納得する祐介だった。

 それぐらい上位者でなければ、仮にも王子をあそこまで悪し様に言えない。


「俺は祐介。鷹山と言う姓を持っている。

 こちらは妻の優香と娘の真奈美」

「よろしくのう。

 さて、早速これからのことじゃが、お前さん達はどうしたい?」

「帰りたいな」


 自己紹介もそこそこに本題を繰り出したロッド翁に即答で返す祐介。

 真奈美の不満そうな顔を無視して、


「失礼とは思うが、どう見ても我々の住んでいた国より文明レベルが低い。

 魔術と言う補正があってもあちらの方が安全だ」

「そうじゃよな。あの少年達が着ていた同じ規格の服を量産することが出来る技術力に、武器や防具を常に持ち歩く必要のない民度。

 数十年は遅れておる」

「一桁違うな。

 そう思いたい気持ちは分かるが……」

「ははは。やはりそうか。

 じゃが、お主らはこの未発達の世界で骨を埋めることになるぞ」

「何かないのか?」

「ダンジョンが異世界に通じていると言う噂くらいかのう」


 言外に帰れないと言うロッドに、どうにかならないかと尋ねる祐介。

 その様子に可能性の低い噂くらいしかないと返される。


「そうか。

 当面、うちの娘と嫁の面倒を頼めるか?」

「こちらが巻き込んだ以上、儂が責任を持つが、お主……」

「可能性はあるんだろ?」

「……今日は我が家に泊まれ。

 うちの騎士で経験を積ませたいのがいる」

「助かるけど」

「ダンジョンには様々な財宝が眠っておる。その一部を我が家に提供してくれ」

「ねえ私も……」


 頷く祐介とロッドに優香が口を挟むが、


「まながいるだろ?」

「……分かったわ」


 一瞬、真奈美を見て諦める。

 こうして、しがない会社員は冒険者の道を歩む決意をするのだった。

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