第28話 お母さんを幸せにするために生まれてきた

 「天使業界でも、なかなか揉めたわよ、実際のところ。あっ!でも、気にしないで、そのストーリーを選んだのはアタシだから」

 あっけらかんと天使が話す。

「アタシたちはさ、ママを幸せにするために生まれてくるわけよ。いい?意味のない命なんてないの」

「うん…」

私は力なく返事した。

 「ママのお腹に宿った。そのことでママは、あんな男とお別れして、素敵なパパと出会った。その時点でアタシの役目は終わったのよ。だから、いいの。あのストーリーを選んだのはアタシだから」

「私、あんたにひどいことを…」

「ちょっと待ってよ、あんたまた毛穴から不幸が噴き出すみたいな女に逆戻りしちゃってるわよ。いいかげんになさいよ」

 そんな憎まれ口を叩かれても、もう怒る気力はない。

 「いい?アタシだけじゃないわ。翔也も柚月もみんな天使なの。ママを幸せにするために生まれてきてるの。ま~、アタシは生まれてないけどね♡」

 「子どもはママを幸せにするために生まれてくる…」

私はもう一度つぶいた。

「そうよ。だから、天使的にはママが幸せになってくれないと困るわけよ。あんたみたいに、いつまでも不幸のど真ん中を歩いててもらったら困るの」

 ベンチから立ち上がると、天使は私に視線の高さを合わせてしゃがみこんだ。両手をぎゅっと握りしめる。

「ママが幸せになって初めて、子どもたちも自分の幸せのために歩き出すんだよ。ママは子どもたちを幸せにしたい。子どもたちもママを幸せにしたい。そこにあるのは愛だけ。そうでしょ?」

 天使は手をほどくと、立ち上がり夕日の方に二歩三歩を足を進める。日の光りが眩しくて、もうハッキリと天使の表情を見て取ることはできなかった。ただなんとなく、泣いているように見えた。

 「ママ、ありがとう。ママに会えてよかった。ママと話せてうれしかったよ」

 私、あんたともっと話がしたいよ。もっとケンカしたいよ。

 でも、言葉にならなかった。ただ悲しくて、ただ寂しくて、私は天使に駆け寄った。思わず天使を抱きしめる。

 でも、その手は空中をさまよって、私は地面にうつ伏した。見上げると半透明になった天使が、いつもの調子で意地悪そうに笑った。

 「ママ、ホント、鈍臭いわね。でも、そんなママが好きよ。そろそろ行かなきゃ。ママに会えて本当にアタシ、幸せだったよ」

 そう言うと、ふわりと天使は風に舞い、空に消えてしまった。 


イジワルな天使の教え15

 『子どもはお母さんを幸せにするために生まれてくる』

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