第15話 魔法合宿①

 この世界において、魔法は本当に重要なものだ。

 生活に欠かせないことはもちろん、魔物などとの戦闘にも必須である。

 魔法の上達には、一つ目が具体的なイメージを作ること。二つ目が魔力の制御。三つ目が魔力量の強化。

 基本的にこの三つを伸ばすことで、より高度な魔法を使えるようになる。

 イメージができてもうまく魔力を制御できなければ、魔法は発動しない。

 魔力を制御できても、そもそも魔力量が足りなければ発動しない。

 魔力量が多くて制御も上手だったとしても、イメージができなければ魔法はうまく発動できない。

 つまり、バランスが重要なのだ。なにかが尖っているよりかはバランス良く全体的にできる方が優秀であると言える。

 もちろん尖っているなら尖っているで、いくらでもやりようはあるのだが。

 レージは自身の魔法の実力がどんなものなのか気になっていた。

 もちろん現段階では大したことがないのはわかっている。ただ、その三つの項目のどれが劣っているのか知りたかった。


「魔法合宿?」

「そうそう、ナッツが行ってたアレだよ」


 テルが提案してくれたのは、魔法合宿に参加したらどうかという話だった。

 今回の魔法合宿は三泊四日で、対象年齢が15から17歳ということだ。


「テルも参加する?」


 女々しいと分かりつつ、聞いてみる。


「私は牧場のことがあるからね。二人とも行っちゃうとお父さんに負担掛けちゃうから。急だと代わりの人を立てることもできないしね」

「そ、そうだよね」


 なんとなくそうじゃないかと思っていた。


「もうひとりでドラゴンにも乗れるんだし、場所は教えてあげるから行ってみなよ。ちなみに無料なんだよ」


 たぶん現実世界にいた時、そこまで無料という言葉に興味はなかった。それはきっと両親に良い生活を送らせてもらっていたからなのだと思う。

 ただ、今の感覚はまるで違う。

 オーイツから給金をもらったものの、大切に大切に可能な限り使わないように心掛けている。無料という言葉に敏感になっているのも、否定できない状況だ。


「行きます!」


 ダサいとわかっていつつ、即答してしまった。


「じゃあ、サマンサに乗っていってらっしゃーい」

「え?」

「ん?」

「今日からなの?」

「そうだよ?」

「急すぎるわっ!」


 集合時間までそれほど時間がないということで、弓矢や着替えなどを急いで支度をして飛び出す。

 あまりに急いでいるのでシャルロッテも目を丸くしている。

 サマンサに跨り、手綱を握り、すぐに飛んだ。

 ドラゴンに乗るのは結構慣れてきたと思う。

 牧場から30分ほど飛んでいると、村が見えてきた。

 人口は多くないが、広大な土地に畑がたくさんある村だ。

 サマンサを駐竜場に停め、レージは急いで近くの建物へ入った。

 テルからは駐竜場のすぐ横の建物だと言われていたのだ。


「今回の合宿参加者は5名かな」


 肌が黒く、紺色のローブを着たスラっと背の高い中年の男が言う。


「ちょっと、待ってください! 俺もお願いします!」


 レージが建物に飛び込み、すみませんと言ってお辞儀をする。

 周りの5人がレージに注目した。


「ふむ、君は? 見たことない子だね」

「俺、レージ・ミナカミといいます。最近ヴィンセントドラゴンファームで働いてて、お世話になってる者です」

「ヴィンセントさんのところでか。ふむふむ、いいだろう」


 飛び込み参加が認められたところで、ようやくレージは胸を撫でおろした。


「では、今回は6人ということで、3人ずつに班分けするぞ」


 A班とB班に分かれるとのことだが、A班でレージの名前は呼ばれなかった。


「それではB班は、マリル、フォルテ、レージの3人だ。担当は私、オルンガがする」


 オルンガに呼ばれ、マリルと言われた小柄な女の子と、フォルテと呼ばれたヒョロっと背の高い男が、二人とも面倒くさそうに立ち上がった。


「レージっていったか? 俺はフォルテな。まあ闇の天才とでも呼んでくれ」

「闇の天才……?」


 フォルテは後ろで軽く結んだ茶髪をなびかせ、格好つけている。

 聞いているこっちまで恥ずかしくなる厨二感だ。しかも浅い感じがする。


「闇の色ボケ変態の間違いですよ」


 マリルがボソッと呟いた。


「おまっ! 誰が色ボケ変態だ! お前みたいなちんちくりんには1ミリも興味が沸かねぇっつーの!」

「わたしはマリル。天才剣士ですよ」


 フォルテの抵抗を一切無視して、マリルはレージに握手を求める。

 ここの人たちは自分を天才と言わないと気が済まないのだろうか。

 マリルは本当に小柄で、15歳以上には到底見えなかった。黒髪のおかっぱが幼さを助長しているが、強気な目に輝く青い瞳が子供に見たらぶん殴るぞと訴えかけてきている。

 マリルの右腰には刀を差しており、剣士というのは間違いなさそうだ。


「俺はレージ、よろしくね。えーと、俺は特に天才とかじゃなくて……なんかごめん」

「そんな風に言われると、天才って名乗ったのが恥ずかしいわ!」


 フォルテのツッコミに場が和む。

 そういう意識はあったんだね。

 この3人で三泊四日の合宿をやっていくことになる。


「それでは、まずは魔法の能力テストを行う」


 オルンガはそう言って、なにやら球体の機械のようなものを取り出した。

 時代背景に合わないデザインというか、もし機械だとしたらこの世界は本当に不思議だ。


「知ってると思うが、これは魔球な。両手で魔球を持って、これに各属性の魔法を使用することで属性別のランクがわかるんだ」


 言うなりフォルテに魔球を渡す。


「ふふ、闇の天才がお手本を見せてやろう」


 妙な自信が、見せかけか本物かまるでわからない。

 フォルテは持った魔球に順番に魔法を使っていく。

 魔球はその魔法をことごとく吸収していく。


『フォルテの属性値

 火C級

 水C級

 風C級

 土C級

 光B級

 闇A級

 癒し適正なし

 魔力15000

 魔法制御12000

 総合評価A』


 魔球が喋った。

 喋った!?

 やはり機械仕掛けなのだろうか……謎は深まる一方だ。


「さすがだなフォルテ。お前の年齢でAを出すのは本当に素質がある証拠だ。魔力も制御も高い水準だな」

「やめてくれよオルンガ先生。なんせ天才ですから」

「他の属性もバランスよく高いし、やはりお前は魔導士を目指すべきだ」


 オルンガはフォルテを諭すように言う。


「ちっちっちっ」


 しかしフォルテは人差し指を口元に立てて、キザなポーズを取る。

 本当にそのリアクション取る人っているんだ。


「わかってないなオルンガ先生は。俺は闇の天才なんだ。闇に紛れる俺は、そう! 諜報部隊こそが居場所なんだよ」

「だったらもっと身体能力を上げる努力をしなさい」

「うぐっ」


 冷静なツッコミにフォルテは反論できなかった。


「じゃあ次、マリル」

「はい!」


 やる気満々、自信満々という感じだ。

 マリルは魔球を持ち、魔法を使っていく。


『マリルの属性値

 火F級

 水E級

 風F級

 土F級

 光F級

 闇F級

 癒し適正なし

 魔力600

 魔法制御350

 総合評価F』


 フォルテの後だからということもあるのだが、なんとも厳しい判定だった。


「どやっ! 水がEになったのです!」

「う、うん。マリル、成長しているね」


 オルンガもコメントに困っている。

 いや、成長したということは、前まではオールFだったということになる。


「マーリール! いやぁ、すごく成長してるねぇ」


 フォルテの嫌味ったらしい言葉にマリルが眼光鋭く、刀に手を掛ける。


「フォルテくーん、切られたいのです? たかだか魔法評価でマウント取ってくるとか、死にたいんですぅ?」

「いや、死にたくはないです、はい、すみません」

「殊勝ですね。まぁ、わたしの剣の前に魔法など無意味なのですよ」


 ずいぶん素直に謝る。

 オルンガがレージの元に魔球を持ってきた。


「マリルは怒らせない方がいい。あの子の剣の腕前は本物なんだ」


 小声で教えてくれた。

 魔法はからっきしだが、剣の腕前は超一流。なんというピーキーな能力だ。


「次はレージの番だ」

「はい! やってみます」


 レージは魔球を持って、火から順番に魔法を使ってみた。


『レージの属性値

 火D級

 水E級

 風C級

 土E級

 光F級

 闇F級

 癒し適正なし

 魔力2500

 魔法制御400

 総合評価D』


 癒しの適正はなしか。

 この総合評価Dというのが喜んでいいのかどうかよくわからない。


「ふむふむ、フォルテやマリルと一緒だとわかりにくいかもしれないが、君は平均的だね」

「そうなんですね。俺の得意な属性は風ってことなんですかね?」

「そういうことになるな。君は制御が苦手、というかまだ魔法に触れて間もない感じかな?」

「わかるんですか?」

「わかるとも。魔力に対して制御が低すぎる。これは魔法を使い慣れていない証拠だ」


 オルンガの説明によれば、魔力の平均は2000なのだそうだ。王国魔導士で10000程度。賢者と呼ばれる一部の人は50000あるらしい。

 それに対し、魔法制御は魔力の数値の6割くらいが平均で、すごい人で8割ほどなのだそうだ。この魔法制御の数値が高いほど、一度に高い魔力を込めた魔法を放つことができたり、繊細な魔力コントロールを行うことができる。


「さて、どの数値もこれからいくらでも伸びるものだ。自分を信じて鍛錬しよう」


 オルンガの先生らしい一言で、レージはやる気になる。


「剣の練習よりも魔法の方が楽しいんですよね!」

「俺は闇を極める!」


 各々やる気になっているようだ。

 この合宿でどれくらい成長できるか、レージは楽しみだった。

 合宿初日の大半は座学で、教科書を見ながら魔法の基礎知識を叩き込まれたのだった。

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