第33話:あんっ
翌日──
「これかな?」
「そう、それだ。なぁ、ケンジ。せっかく二人っきりでここまで──あんっ」
「──"空間転移"」
ん?
今クローディが何か言いたそうだったが、問答無用で転移魔法を使ってしまった。
彼女の案内で『
「クローディア、さっきは何を言おうとしていたんだ?」
転移のため体を引き寄せ抱きかかえるようにして魔法を発動させていたが、村へ到着して彼女を解放。
何故かクローディアの表情は暗い。
「どうせボクなんて、おっぱいも小さいし、女としての魅力なんて……ブツブツブツ」
「ど、どうしたんだクローディア」
「な、何でもないのだ。は、早く麻の採取に行くのだ。人手を連れてこい!」
「わ、分かったよ」
今度は急に怒りだしやがって、いったいなんなんだ?
人手を探すために家畜小屋へ。家畜の餌やりは女性の仕事になっている。
「麻を見つけました。採取の人手が欲しいのですが」
山羊に草を食べさせていた女性陣と、そして子供たちがやってくる。
その中にはセレナと魔人王もいた。
「見つかったんですか!」
「あぁ、麻が咲いていたよ」
東のキャンプ地からクロイス村に移住してきた女性のうち、何人かがそこにいた。
彼女らは子を持つ母親であり、子供の次に優先して食事を分け与えられていた人たちだと聞いた。
「私たちもお手伝いしますよ」
「あんたたちもおいで」
「籠を用意しなきゃねぇ」
三人の女性が名乗りを上げ、その子供らも呼ばれる。
女性たちが手に籠を持って集まると、いったん俺はその籠を空間倉庫へと収納。
「クロは呼ばなくていいのかえ?」
子供たちの中に魔人王もいた。まぁ子供だからな。
「クローディアはあっちで待ってるよ。森の端とは言え、念のため護衛は必要だからな。セレナも弓を持って来ていてくれ」
「分かりました。準備してきますね」
「あぁ、人数が多いから先に何人かを送り届けるよ。ここで待っててくれ」
先に大人と、そしてクローディアに魔人王を連れて行こう。
子供達にはここでセレナを待っててくれるよう頼み、他を連れてクローディアの下へ。
「クローディア、待たせたな。君は彼女らの護衛に専念してくれ。魔人王も出来るだけ周囲に警戒しろ。魔物が現れたら、草木を破壊しないように倒すんだぞ」
「ぐぬぬ。な、なかなか難しいことを言う奴なのじゃ。だが妾は魔人王なのじゃ! やってみせるわいっ」
なんか張り切ってるなぁ。
「ケ、ケンジがボクを頼りにしているって言うなら、が、頑張ってやらないこともないぞ」
「あぁ、頼りにしているよ」
「ふんっ。任せろ。魔人王、行くぞっ」
「おーなのじゃ」
魔人王は俺の肩に飛び乗り、クローディアは俺の腕に自らのそれを絡ませる。
他の女性陣も転移魔法のことは先日知っているので、こちらの服の袖を申し訳程度に掴んだ。
まずは第一陣を送り出し、直ぐに引き返して次は第二陣だ。
セレナと子供たちを森へと送り届けると、魔人王が子供たちを待っていた。
「さぁ、妾たちも頑張るのじゃー」
「「はぁ~い」」
魔人王はすっかり女の子軍団のボスになっているな。一応見た目は一番小さいんだけど。
「じゃあ俺は村に戻る。しばらくしたら様子を見に戻って来るよ」
「さっそく風車を造るのじゃな」
「まぁそれもあるが、俺は壁の拡張もしたくてな。新しい住人のための家を建てたら、狭くなっただろ?」
「そうですね。家から壁までの距離が、ずいぶん縮まってますもんね」
「あと風呂も拡張したい」
今の銭湯では同時に五人が入るのが限界だ。
この時期は陽が長いし暑いので大丈夫だが、冬になって陽が短く、気温も下がればあまり遅い時間まで利用はしていられない。
今だと全員がテキパキと風呂に入って交代しても、だいたい3時間ぐらい掛かってしまう。
ここを短縮するためには拡張するしかないだろう。
いや、むしろ俺が広げたいと思っている!
打たれ湯とか足湯とか作りたいんだよ!!
念のためノームを連絡用に置いて村へと戻ると、木材集めに森へと向かった。
だがそこで思わぬ刺客と出会う。
『村を囲う壁なら、丸太を一本そのまま使わず、板にして使ってよっ』
「いやでも、丸太だと地面に突き刺すだけで済むじゃないか」
『代わりに大量の木が必要でしょ! ただでさえ家や風車用にって、いっぱい切ったばかりじゃないの!』
くっ……先日ログハウス用に結構な本数を伐採し、今朝は風車用に数十本切り倒したばかりだ。
一応植林だってしているんだぞ。
ただ何度も精霊の力でゴリ押しすると大地が枯れやすくなってしまうので、なるべく自然に任せた方がいいとは言われている。
ドライアドとしては、これ以上無駄に木を切るなといいたいらしい。
『だいたいあの村を囲う壁って、高過ぎじゃないの? 他の土地の村だと、せいぜい魔人王の背丈と変わらないわよ』
「うぅん、高いかぁ」
『高過ぎよ。4メートルの壁って、城壁じゃないんだからっ』
はぁ、仕方がない。椎茸を怒らせてキノコが食べられなくなっても嫌だしな。
今ある壁丸太を二分割して使うか。
だがそれでも木材は足りない。
交渉の末、幹が太くて木材にしやすい木を何本か伐採の許可を貰った。
これを2メートルごとに厚さ4センチの板材にして──。
「うぅん。この量をひとりで切るのは面倒くさいな。やはりそろそろ風の上位精霊と契約しておくべきか」
『コキ使うのじゃな』
『精霊使いの荒い男よのぉ』
『イ……カカカカ』
なんて人聞きの悪いことを言う精霊どもだ。
というか呼んでもないのにいつでもどこでも出てきやがって。
ほんと、前の異世界で契約していた上位精霊たちと、全然違うんだもんなぁ。
なんていうか、自己主張がめちゃくちゃ激しい。
気を取り直して、風の通る場所までやってきてから、契約の呪文を唱える。
「"我求める。自由を愛でし偉大なる風の王よ。我が前に姿を現し、我と契約を交わしたまえ。我が名は江藤賢志"」
風が吹き、渦を巻く。
その風は形を形成し、全長10メートルもあろうかという……
「フクロウ?」
──になった。
真っ白な羽毛に黒い斑点があるような姿は、どこからどうみてもシロフクロウだ。
『余は風の王にしてイルクである。呼び出したのはそこの小さき者か?』
フクロウがぶわさっと翼を広げると、物凄い突風が起こった。
咄嗟に魔法の結界を張ったが間に合わず、足元のハムスターが風に煽られ転がっていき、椎茸はメリーポピンズのように飛んで行った。イカは……吹き飛ばされはしなかったが、風で体が乾いたのだろう。
『イ……カハッ』
ぱたりと地面に倒れた。
「あぁぁーっクラーケン!? こらイルクっ。クラーケンを虐めちゃダメじゃないか!」
『ぴぇっ!?』
「俺はクラーケンを湖に運ぶから、その間にその木を長さ2メートル、厚さ4センチの板材にしておくようにっ。いいな!」
『ぴ、ぴゅるるる』
クラーケンしっかりしろ!
傷は浅いぞっ!!
クラーケンを湖にぼちゃんさせて戻ってくると、子供の背丈ほどに縮んだ白フクロウがいた。
ぶつぶつと呟きながら、言われた通りのサイズに木を切っている。
「ただいま。いやぁ助かったよイルク」
『ぴっ。よ、余を呼び出したのは、木を切らせるためか?』
「──自然界に秩序を取り戻すため」
『間があった! 今の明らかに間があったっぴ!』
「イルクよ、契約の条件を聞こうか」
『聞き流す気か! とりあえず風車を作れ。余が気に入る風車であれば、契約をしてやろうっぴ』
人には聞き流す気かとツッコミを入れておいて、それでもちゃんと条件を言うんだな。
しかし風車か……これは都合がいい。
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