第17話:じゃあかまぼこ板

「来てやったぞ!」


 セレナの家で昼食をとった後、準備があるので俺は一足先に自宅へと戻った。

 その僅か数分後にクローディアが訪ねてきた。


「早かったな。じゃあかまぼこ板……じゃなくて村人が木片を持って来てくれたら、この木箱に入れてくれ」

「ん? もう何枚か入っているのか? お前の分も?」

「いや、俺はまだだ。夕方までじっくり考えようと思って」


 そういって俺は何も書いていないかまぼこ板を見せる。

 本当は嘘だ。このかまぼこ板もただのダミー。

 実は既に箱の中に入れてあって、オッズさんや他数人のかまぼこ板も一緒だ。


 クローディアが俺贔屓するんじゃないかと心配で、こうして適当な嘘をついたわけだが。

 実際その板が誰のかなんて分からない。

 ダミーを見せれば彼女はまんまと騙された。


「畑仕事に行ってくる。退屈だろうが、留守番を頼むよ」

「任せろ。でもここでじっとしているだけだと、本当に退屈だな」

「あぁ、ちょっとしたら仕事を持ってくるよ」


 彼女にそう言って家を出て、壁の外にある畑へと向かった。

 これから収穫するのは、もやしの元となる緑豆だ。

 これを収穫して、クローディアのところへ持っていこう。

 じっと木箱を見ているだけより、サヤから豆を取り出す作業でもしていたほうが退屈せずにすむだろう。


 根から引っこ抜き、砂を落として自宅へと戻る。

 そこにはセレナがいて、家の中が気になる様子だった。


「どうしたんだ、セレナ」

「はわっ。ケ、ケンジさん。そ、その……クロちゃん、しっかりやっているかなぁと思って」

「大丈夫だろう。木箱を見ているだけのお仕事だから。ま、今から緑豆の取り出し作業もしてもらうが」

「お手伝いしたほうがいいですか?」

「いや、村の人が木材を持ってくるし、同じ村人である君はいないほうがいい。クローディアに任せよう」


 緑豆をクローディアに届け、サヤから種を取り出す仕事を頼む。

 特に嫌がることなく、なんの種なのか気になるようだった。


「もやしっていう野菜の原材料になるんだ。これを植えて、1週間程度で食えるようになる」

「い、1週間!? ずいぶんと成長が早いのだな」

「早いというより、成長する前に収穫して食べる感じだ。だから食用と、種を増やすようとに分けておくのさ」


 その日は緑豆の種取りを頼み、翌日は朝から名前の一覧表の作成。そして午後から投票。


 太陽が東の空に傾く頃、開票が行われた。


「第3位は、投票数4で『みんなの村』なのだ。そして第2位は投票数6で『新天地村』なのだ」


 結局、村の名前案自体が少なかった。

 まさかたったの五つしか出ないとは、思ってもみなかった。

 その結果──


「第1位は『クロイス村』で、獲得票数は35票で決定なのだ!!」


 俺が考えた名前に決まってしまった。


「いい名前に決まりましたね」


 隣でセレナが嬉しそうに微笑む。


「クロイスって、交じり合う絆って意味ですものね」

「え? そ、そうなのか?」

「あ、ケンジさんはよその大陸からいらっしゃったから、知らないのですね」


 知らなかった。

 偶然って、怖い。


 でもまぁ、そういう意味合いで考えた名前だし、よしとしよう。


 それから三日後。

 再びダークエルフの里へと向かった。今度はオッズさんを連れてだ。

 といっても空間転移の魔法いっぱつなので、あっという間に到着する。


「うへぇー。魔法ってのはすげーな」

「そ、そうです……ね」

「あぁ。ケンジよぉ、大変だなぁお前」


 そう、大変なのだ。

 セレナとクローディアが、俺の背中に覆いかぶさっているのだ。

 どっちがおんぶされるか、勝負をしているらしい。

 迷惑な話だ。


「ようこそ、ケンジ殿。クローディア、遊んでないで客人の案内をしろ」

「ぶーっ。遊んでないのだ、長老」

「こんにちはゾルダさん。こちらがクロイス村の村長で、オッズさんです」

「やぁ。村長というか、ただ年長者だったってだけなんだが。気づいたらそうなっていたってだけで」


 照れくさそうにオッズさんが手を出しだす。その手をゾルダさんが取り、笑顔で応じた。


「年長者という理由だけで、誰もが長になれるわけではない。みなが認めているのであれば、それは貴殿の徳というものだろう」

「徳、ねぇ。いやぁ、恥ずかしいねぇ」


 他愛もない会話をしながら里の中央へといき、そこに用意された羊皮紙に二人がサインをする。

 

 無意味な木の伐採をしない。

 獲物を捕り過ぎない。

 隣人として、お互い助け合おう。


 そんな内容で誓約を交わし、こうしてダークエルフの里『ウッドの里』と、開拓民の『クロイス村』とは、共存関係となった。

 誓約が終われば酒が運び込まれ、それにはオッズさんが大変喜んでいた。


「そういえば酒はありませんでしたね」

「造り方を知っている奴がいないんだよ。ゾルダさん、あんたんところで酒造りを教えてくれないか?」

「ふむ……いや、ではこういうのはどうだろう? こちらは酒を提供する。だからそちらも何か提供してはくれないか?」

「物々交換か。しかし提供できるものが俺たちにあるかどうか」

「ある」


 自信たっぷりに笑みを浮かべたゾルダさんは、クロイス村の後ろにある山のことを教えてくれた。

 


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スニーカー大賞の締め切りに、今のままだと1章分の投稿が間に合わないかもしれないので、もう少しだけ更新頻度を上げます。

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