a4 ベッドの中で二人(take2)



 スズメが啼きだした二日目の早朝。蒼い朝のカーテンの色合いに染まる一室で、それは再び始まる。


「…………ん…………?」


不穏な感覚を感じて目を覚ました。


「……ぇ……? ……これって、もしかして?」


 ……嫌な……予感がする。体の下からそろそろと、ゆっくりと忍び寄ってくるあのよこしまな違和感。


「……ま、まさか」


 慌てて横にいる相方を見た。同じベッドで背中を向けて寝息を立てている異性。

 その後ろ姿を見て安心したのか、それとも期待が裏切られたのか。よく分からない感情を抱きながらも、とりあえず少女は安堵してみる。

 しかし下からやってくる予感は……目の前で眠っている筈の少年の後ろ姿とは全く違う動きで襲いかかってきた。


「……ぅ? ……ぁ、ぁ、……っゥ!」


 慌てて下のパジャマを押さえながら、邪魔な刺激を振り払うように寝返りを打つ少女。


「……? どうした……? また筋肉痛か……?」


 知っているクセに、ワザと訊いてくる隣の悪趣味な声が憎たらしい。


「わ、わかってるくせにッ。こっち来ないで、ヒャッくん。なんでイジワルな事ばかり、わたしにするのッ?」

「……なにを言ってるか、よくわからないな……? どうしたんだよ」


 何気に訊きながら近づいてくる声が今は怖い。


「こ、こっち来ないで。お願い、こっちに来ないで!」

「おかしなヤツだな。何があったのか言わないと分からないだろ?」


 もそもそと、布団の中で動く男の体が牙を剥く。布団を被ったまま体を起こして、中で露わになった女の体を視界に入れて薄く笑う。


「……なんだ……? どうもなってないじゃないか……?」


 簡単にウソを吐く。悪意ある視線と体温が近づいてくる。


「……ぁ……ゥぁ……、だめ……、……ダメっ!」


 叫んだ瞬間、刺激で足を振り上げた。折り曲げられる少女の足が宙に舞い上がって、無意識に脹脛ふくらはぎを張る。


「ーーーぁんッ……ぁ、ァ、あッ、ァッ、……ぁッ……く」


 叫んで、のたうち回って、逃げて、追い詰められた。


 ダブルベッドの上。女と男の二人だけしかいない部屋。脇に置かれた、無造作にフタが開けられたカラフルな紙の箱。破られた小さな個包装。男が押し付けてくるシーツのシワ。女が手で掴みかかるシーツのシワ。男女の汗で染みが広がっていくシーツの色。

 ベッドの周囲に散らばっていく衣服の数々。乱暴に。さらに勢いよく。獣が、獣の本能で床に散りばめていく化けの皮となって折り重なるのは次々の脱皮……。


「ーーーァ、っだめ、やめて。そこ、ソコだけ! そこだけッ」


 宙に舞い上げられた少女のキレイな足が、軋み続けるマットレスの動きに合わせて上下ピストンされていく。


「ぅあ……んッ! うぁんっ! うぁ……ンッ! ゥぁあんッ!」


 打ちつけるッ! 打ちつけるッ! 打ちつけるッ!

 乱れて濡れていく髪。壁に押しつけられた枕。あどけない首筋。動くことしか知らない躰……。

 襲いかかる刺激に……とうとう子供の心では耐えられない反応がやって来た……。


「……ぁっ? ……ゥぁっ! ……うァッ?」


 声を押し殺して……、それでも息苦しく、堪えて……、悶え打つ刺激が、矢の如く突っ込まれると体の真ん中から脊髄へと奔ったッ!


「ッぇぁ! …………アッ! ッァっ! だめッ! ぁナかぁっ! ぁなカぁっ! ナカがクルっ! ナカからクルっ! キちゃう……ッ! ぁ…………オッ、ぉっ、ぉあッ、ーーーぁンッ!」


 浮き上がった少女の足が、痙攣で振るえている……。のびたカエルのように足の指を広げ……下から責めてくる絶頂に耐えきれず、可憐な身だけを屈めていく。


「……ぁッ、……ァっ! ……ぁヴッ?」


 ビクビクと耐えきれない電撃が、真っ最中の患部から巻き起こってくる。突き抜ける痛み。引き千切られる痛み……。

 体内の中で暴れる棒のような一本が中心で伸びて侵略と蹂躙の激痛を与えてくるッ!


「……ぁぅんッ、……ゥんっ、……ぅふ……ンッ!」


 今度は筋肉痛などではない……。今度こそ間違いなく、少女を女へと変貌させていく痛みとは……、


「……っィ……ツったぁ!」


 ……コムラ返りである。


「……ぁ……ァ……っア……っっうッ!」


 コムラ返りであるッッ!!!


「……ぁつ、おい……お前がったとか言うから、オレの足もコムラ返りになってきたじゃないかッ!」


「そ、そんなワケないでしょォっ!」


 折り曲げた脚を宙に上げたりベッドに打ちつけたりして悶え苦しむ。仲の良い幼馴染みな男女たち二人。


 ……いやあ。朝の寝起きに巻き起こるコムラ返りは、まったく痛い。脹脛ふくらはぎ内部ナカで、筋肉の筋が一本だけピンと張って訪れる、あの大激痛ッ!

 経験のある方ならお分かりだろうか。

 悶えて悶えて、それはそれは独りでうっかり喘ぎ声でも出してしまうこと受け合い。そんな少年少女たちの状態も知らず……、やはりベッドの周囲には落ちた学生服が散らかっているのだが……さて?

 この服がなんで散らばっているのかというと……?


「……ニャォ……?」


 この子供部屋の主、いずみ詩織しおりの飼い猫……。元気なメス猫のモモヒキの仕業だった。


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