好みのタイプは破滅なタイプ

 しかし、なぜかその答えに小百合と平野さんは納得したようだ。


「お、お姉ちゃんなら仕方ないです……」


「……そこでまさか坪井くんを出してくるとはね、負けたわ」


「……へっ?」


 ちなみに最後の間抜けな声は紗英のものだ。


 ちょっとだけ、まわりがシーンとなる。どうしてよ。


「……ちょっと待て! なんでそれで納得されるわけだ!?」


 おかげで自分自身でツッコミ入れるハメになったじゃないか。

 だが周りの反応は。


「え、だ、だって、お姉ちゃんはまねできないくらいきれいな美人さんですし……」


「そうよね。嫉妬するようなレベルすらも超越してるわよ、坪井くんは」


 さらに拍車がかかってわけわからんことになっていた。

 いいのかそれで。仮にも紗英は男だぞ。というか男だからかなわなくても問題ないのかどうなんだ。


 そして母二人のほうは。


「……あらら、残念だわ。哲郎さんが転生したら今度こそ一緒になれるかと思ってたけど……」


「たとえあの人が転生しても、恵理と結婚したら絶対にまた転生したくなるだろうから、安心なさい」


「なんですって!?」


 相変わらずケンカするほど仲がいい様子であった。いや、まわりに被害をもたらさなければいくら喧嘩使用が知ったことじゃないんだけどさ。

 それ以前に俺はオヤジの転生体じゃないぞ、まったく。


 ──などと余裕ぶっこいていたら。


「……ま、でも。睦月の好みに一番近いのは……紗英ちゃんをぬかしたら、さっきの唐橋さん……だっけ? あの娘じゃないの?」


「へ?」


 おふくろにそんな指摘をされて、一瞬呆けた。

 というかなんでそんなふうに思ったのか、理由を聞いてみたいものではあるが。


「……」


 黙ったままおふくろのほうにジト目攻撃をすると、「あらやだ」と言わんばかりにおふくろが慌てて口元をおさえたので、やめた。

 なんでおふくろがそう思ったのか、あとで深く聞かなければならないかもしれない。誰だ漏らした奴は。


「……ひょっとして、宮沢殿。唐橋さんと恋人同士だった……の?」


 そこで平野さんからの的確なツッコミ。俺は慌てて否定する。


「ちがうちがう! 唐橋に罰ゲームで告白されて、その気になったら『嘘だよ』と否定されて笑いものになっただけだから!」


「……睦月……?」


「あ」


 しまった。自分から暴露してしまったぞ。なんだかんだいって俺もテンパってたのか。

 すかさず小百合が食いついてくる。


「……ソレ、本当ですか!?」


「……」


 無言で肯定せざるを得ない。俺の黒歴史にまた1ページ。


「……許せません! なんですかその罰当たりな行為は!! あの人が今度またきたら、塩まいてやります、塩! いや塩ですらもったいないから、幕張海岸の砂まいてやります!!」


「いや、幕張海岸まで砂を取りに行くための交通費で、塩五キロくらい余裕で買えるんだけどな……」


 しかし小百合のリアクションは俺の予想外だった。おおう、なんという心優しい妹よ。ついツッコんでしまったのは兄のサガだ、許せ。


 その一方で平野さんは。


「……なるほど。つまりそのことを謝罪しに来た、ってわけなのね、唐橋さんは。そして裏で糸ひいてた人物は……御子柴のバカ、という感じなの?」


「……おっしゃる通りです」


「ふーん。でもあの様子だと、唐橋さんもまんざらではなかったように思えるけどね。だからこそあそこまで後悔してたんじゃないかしら?」


「……」


 そんなこと言われても、ここで俺が何かを言うわけにいかないよなあ……と思ってたら、紗英が割り込んできた。阿吽の呼吸。


「……そうだね。ま、今さらだからもういいかな。唐橋さん、たぶん本気で睦月が好きだったとは思うよ。それを御子柴さんに利用されたというか」


「なによそれ。御子柴バカ音がすべて悪いってこと?」


「そうなるね。御子柴さんはボクと睦月を本気で嫌ってたし、唐橋さんは御子柴さんには逆らえないだろうから」


「……はぁ」


 平野さんがため息をついた。

 ま、御子柴が紗英を嫌ってたのは、自分より紗英のほうが美人だから、っていうことが大きいと思うけど。その紗英をかばって御子柴と対立してるうちに、俺のほうが御子柴と険悪になっただけで。


 どっちにしても、世の中には絶対に相いれない奴ってのが存在することは確かだ。そんな奴に時間を使うだけ無駄だと思うし、関わり合いにならないで忘れるべきなんだけど。


「……決めた。御子柴のバカは、いっぺんどん底に落とさないと理解しないでしょうね」


「は?」


 あまりに平野さんの発言が物騒だったので、俺は思わず聞き返してしまう。


「ひ、平野さん。御子柴になにかするつもりなの?」


「ああ、いえ私が何かするつもりはないわ。ただ、もうすぐ御子柴の父親が経営する会社がつぶれてしまうかもしれない、ってだけだから」


「……はい?」


「このご時世で経営状態が悪化しただけじゃなく、いろいろ社内での問題も内部告発で表面化してきてね。銀行に見捨てられたら、終わりかもしれないわ」


「……まさか……」


 そういえば、平野さんのお父さんって確か……万葉銀行の……


 …………


 うん、まあいいか。御子柴の家のことだしな。俺が口出してもどうしようもない。

 唐橋もそれでとばっちり食らうんじゃないかと心配にはなったが、どうやら顔に出ていたらしく、平野さんがこう付け加えてきた。


「……唐橋さんの会社ところなら、大丈夫じゃないかしら。御子柴の下請けだけじゃなく、最近独自にいろいろ手を広げて成功しているみたいだし。業績に胡坐をかいて真っ逆さまに堕ちていくことはないと思うわよ」


「……ならいいけど」


 しかし、平野さんがそんな裏事情を逐一知っていることに正直ビビった。

 ひょっとすると平野さん、パパンにとっても愛されてる存在じゃないのか?

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