第10夜 災いを前にして周囲は如何か?

一方、、、その頃。

臨海副都心 “皇海街すかいまち”に鎮音は降り立った。

今まさに混乱に陥った繁華街に、鎮音は颯爽と深紅の着物姿で降り立ったのだ。

街は騒然としていた。

いつもなら車が多く走り交通量の多い幹線道路。そこに今は多くの人間たちが群衆となり道を遮断していた。それを規制するのは警察である。ヘルメットを着用した警官たちが、道路に集まる人々が詰め寄るのを対処していたのだ。

鎮音は“車”で来たが、街のパニック状態に目を見開いた。

(何が起きてる? それに……あの“黒い炎球”は何だ? あそこは“ルシエルタワー”…?)

目の前に視えるのは本来なら、“深海”のイルミネーションを施すタワーだ。

だが、その全景は真っ黒な炎球に包まれ視えない。空高くまで突き刺しそうなタワーだ。姿が視えなくとも位置は把握している。

ただ、今は真っ黒な炎球に覆われ更に、その頭上は暗雲が渦を巻き拡がっているのだ。まるで、その一箇所だけ“別次元”の様であった。

「だから! 何度も言ってるだろ! 変な化け物が出たんだ!! 殺されそうになったんだ!」

「私も見たのよ!! 人が死んだの! 殺されたのよ!!」

鎮音は、道路に集い警察官たちに詰め寄る人間たちに目を向けた。

「落ち着いてください。我々もまだ状況把握の段階です。」

「鬼だった……。鬼がいた! 昔話で見た事あるわ! 角が生えてたの!」

「はぁ?? 鬼??」

ルシエルタワーで“軟禁状態”であった人間たちは、警察官たちに懸命に説明をしていた。だが、どうにも警察官たちは怪訝そうな顔をするばかりだ。

「ちょっと……、今の時代に鬼って……。」

「“集団薬物事件”かもな? これは直ぐに検査が必要かも。」

「ああ、前にもあったな? 妙に興奮状態の人間どもが、“坊さんとナマケモノに似た奴に襲われた”って話だったよな?」

「“あやかしが犯人”とか喚いてたけどな? その工場の作業員は。」

警察官たちは目の前で騒ぎ立てる人々を前に、顔を見合わせた。

中には怪我をした者もいる。だが、基本的に人間たちは無傷で“軟禁”されていた。黒籠の檻の中にいたのだ。疲れ果てた顔はしてるが、外見だけで“暴力行為”を受けたとは思えないのだ。

揃って“鬼がいた”。“人が殺された”。そう喚かれ、警察官たちは“薬物による洗脳か、幻覚”だと、感じたのだ。

(……楓……、葉霧。あそこにいるのか?)

鎮音は一連の流れを見ていたが、不意に真っ黒な炎球に包まれるルシエルタワーに目を向けた。

「鎮音様。」

と、そこにまるで風の様に現れた者たちがいた。小柄な白髪の老女の背後に現れたのは、2人の少女であった。

“忍び服”と言われるものを纏いし娘たちだ。

“深蒼”と、“深紅”のそれらを着て髪から眼までもその色合い。

まるで炎と水の化身かの様であった。

2人とも顔はそっくりだ。

大きな猫目が特徴的な2人は、それぞれ蒼と紅。その腰元まである長い髪をポニーテールにしている。

顔や頭に布や、頭巾はしてないが肌の露出はない。全身をきちんと忍び服で覆っていた。

「“そう”、くれない”。2人はルシエルタワーにいる。」

鎮音は紅い着物の袖に腕を通し見据えた。黒い炎球に覆われたそのタワーを。

だが、2人の少女たち、10代後半程の容姿だ。“双子”であろう、同じ顔を見合わせた。

「鎮音様……、足を踏み入れられませんでした。」

そう言ったのは、深紅の眼をした“くれない”であった。

「何?」

鎮音の涼し気な顔色は変わる。

振り向いたのだ。忍びの2人に。

だが、困惑したような表情をしている“そう”は、

「“結界”の様なものが……。」

と、告げた。鎮音の淡い桃色の眼は丸く見開く。その瞳孔は開いた。



✣✣✣


「はぁ?? 入れねーってどーゆうことだ?? 

動けんのはお前と“雷架”しかいねーんだ! なんとかしろよ!」

皇海街の上空には、“風のヌシ風牙”の浮かぶ島がいる。

紅い風車で風を起こし浮遊する島である。緑に囲まれた大きな島だが、大きな風車がくるくると回る、少しヨーロピアンな塔。そこが風牙の居住地である。

島の中心にその塔はあるのだ。

「いえ……“近づけない”んですよ。」

と、ウッドデッキのテーブルの前で“パソコン画面”を見つめる碧色の髪をした美形ヌシの声だ。画面には燃えたぎる炎の髪をした、強靭な鬼神“嵐蔵らんぞう”がいる。

(これが“リモート”か、便利じゃの。嵐蔵の煩い声が半減じゃ。)

風牙の脇にいるのは、金色の毛に覆われた獅子。紫玉の眼は画面を見つめていた。

きちんとテーブルにその前足乗っけて、画面を見つめている。

「近づけねーってなんだ?? 灯馬や嬢ちゃん水月はそこにいんだろ?? 鬼娘と退魔師はどーでもいいが、2人は助けろよ! 俺は動けねー!」

「酒を煽るな! 真面目に参加しろ!」

ぐびっと瓢箪の酒器を口元に運ぶ嵐蔵に、美しい風牙の激は飛ぶ。

「行ってはみたが入れん、いつもの様に指輪も作動しない。 “遮断”されとる。」

ため息ついたのは金色の獅子、“雷架ライカ”。雷のヌシである。

「まじ?? “親父”、、、凸できねーの??」

「親父言うな!」

だっはっはっ!!

と、笑う画面の向こうの嵐蔵に獅子は吠えた。

(ネット遣りすぎだろ……、嵐蔵。)

風牙はため息つく。

これでも嵐蔵は“鬼神であり炎のヌシ”だ。

“雨宮灯馬の師匠”である。

「僕も……心配なんですよ。“夕羅”は僕の初めての“後継者”ですからね。」

と、風牙がそう言うと

「ちょっと!! 何がどーなってんの?? わからん!! しっかり説明して!!」

突然、、、画面に乱入して来たのは“水天龍”であった。蒼い鱗が全身覆う人形の美女である。

画面に乱入してきたのだ。

「あー、、、説明する。」

「は?? なめてんの?? 嵐蔵!! さっさと言え! 10文字以内!」

嵐蔵の声に水天龍の声が響く。

風牙と雷架は はぁっとため息ついた。

「内輪でやっとる場合じゃないだろーに。」

「まぁ、いつもの事ですよ。」

金色の獅子の声に煌めく碧の髪をした美青年は、ため息ついた。

(この世界の成れの果てに興味を持たなかったヌシたちが……、気にしている、それが少しの進化か。)

風牙はパソコン画面の中で言い合う“ヌシ”たちを見つめていた。

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