第41話 夜空の花を何度でも。
長かったテスト週間が終了した。
ユキとの勉強のおかげでいつもよりはだいぶ良い成績が残せたと思う。
その後のいちゃらぶについては諸事情により割愛させていただく。
いや、人に見せられるようなもんじゃないから。ユキさんヤバいから。俺の幼馴染がエロ可愛すぎてヤバいから。
そんなテストからも一週間が経ち、終業式も終わりを告げた。
夏の始まり。
長い長い、夏休みの始まりだ。
そして今日はその始まりを彩る、毎年恒例花火大会の日である。
夕方になり、外に繰り出した俺たちは花火大会が始まるまでの時間、立ち並ぶ屋台の間を歩いていた。
「ヒロさんヒロさん。わたあめの屋台がありますよ。買いましょう」
「いやわたあめはこの前の縁日でも食ったろ。他のにしようぜ」
「いいんです。甘いものは何度食べても美味しいですから。それにヒロさんとなら、何を何度繰り返しても素敵です」
「そうか?」
「はい」
そこまで言うならと、俺たちはまたあの日の縁日と同じようにわたあめを買った。さすがにぴょん吉のイラストが描かれたものはなかったが、まあいいだろう。
そうして俺たちは花火が打ち上がるまでのわずかな時間、あの日の雨を塗り替えるように2人で屋台を楽しんだ。
いや、塗り替えるとは違う。
あの日の雨が消えることはきっとない。だけど、あの日はもう過去のことだから。振り返る暇などないくらいに、俺たちは今日を楽しむのだ。
そうやって、ユキを笑顔にできたらと願う。
✳︎
花火の時間が近づくと、俺たちは人混みを離れてある場所へ足を運んでいた。
「やっぱり私たちの花火大会はここでなくては、ですね」
俺たちがやってきたのは、あの公園の奥地。俺たちが出会った場所。
ここの森の木々の切れ間から、花火が見事に見えるのだ。
ここは俺たちにとって特別な場所で。
いつだって、俺たちの物語はここから始まって。いつだって、見守ってくれている場所で。
そして、最高の花火スポットでもある。
そんなことを思っていると、雲ひとつない夜空に一筋のヒカリがつたう。
「あ、ヒロさん。あがりましたよ」
「ああ……」
瞬間、夜に花が咲いた。大きな大きな、一輪の花が咲いた。
俺たちは寄り添うように隣り合って、それを眺めていた。しっかりと、二人の出会ったこの場所で、手を繋いで。
ユキはもちろん、あの時と同じ浴衣姿だ。
浴衣姿のユキは、花火が霞んでしまうんじゃないかと思えるくらい美しくて。その銀色に目が眩んでしまいそうで。
俺は花火に集中しようと天を見つめていた。
夜空に次々と花火が打ち上がってゆく。
「ヒロさんヒロさん」
「どうした?」
「こっちを見てください」
「え? ————っておま、何やって……!?」
ユキに呼ばれてふと隣を見ると、なんとユキが自らの浴衣の胸元をぺろんとめくっていた。
艶かしい肌色が露わになる。花火に照らされて、暗闇にも関わらずそれが見えてしまう。
「見えましたか?」
「見えたって何が!? っていうか早くしまえって!」
俺の言葉に従うように、ユキは浴衣を直す。しかしその顔を満足気だ。
「ふふっ。この前の答え合わせですよ」
「答え合わせ? そういうことかよ……」
「思い出しました?」
「ああ」
それは、あの縁日の日の会話。浴衣の下には下着を付けているかどうか。そういう話をした。
答えは家に帰ってからと、そう言って。でも結局答えは分からずじまいだった。いや、あの時の俺は答えを確認する気などさらさらなかったけど。
今、答えを知ってしまった。
その答えは、俺の胸の内にだけしまっておこう。
「けど、ここでやることじゃねえだろ……」
「いいじゃないですか。ここなら誰もいません」
「そうだけどさ……」
幼馴染で、大事な恋人であるユキに、外で肌を晒して欲しくなどないのだ。
誰にも見せたくないのだ。見られる可能性があるようなことなど、して欲しくはないのだ。
俺は少しだけ、ユキの手を握るチカラを強める。
「もう……するなよな。そういうの」
「お気に召しませんでしたか?」
「いや……その。なんて言うかさ、……見せたくないんだよ。誰にも。万が一にも」
「……ふふっ。ヒロさんは独占欲がつよいですね」
「……悪いかよ」
「いいえ? 嬉しいです。それに大丈夫ですよ。私はずっと、ヒロさんのモノですから」
そう言うと、ユキは少し俺に寄りかかるように身体を預けた。
それから俺たちはお互いの温もりを感じながら、花火を眺めていた。
「ヒロさんと出会ってから毎年、ここで花火を見てきましたよね」
「……そうだな」
「ずっとずっと、見てきました。何回見ても、ヒロさんと見る花火は飽きません」
「なんだよ。俺とじゃないと花火は飽きるようなもんなのか?」
「そうじゃないです。そうじゃないですけど、……ヒロさんと一緒だから、もっと綺麗に見えるんです」
「……ああ。俺も、ユキと見る花火が一番だって。そう思うよ」
また、大きな花火が夜空を彩った。
次々と、最後の花火が打ち上がっていく。
「…………来年も、見ましょうね」
「ああ。来年も再来年もその次も。絶対に見よう」
「はい。……ずっとずっと、一年に一回の楽しみです。すべてが、大切な思い出です」
そんな話を終えると同時に、最後の打上花火が夜空に消えた。
夏の始まりを告げる祭りが、終わりわ告げた。
恋人として、ユキと初めて見た花火。
それは今まで見たどの花火よりも綺麗に感じた。
この美しい花火を、この幸せな時間を、ずっと続けていこう。
そうやって、俺たちだけの銀色を描いていこう。
こうして、恋人と過ごす最初の夏が始まった————。
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