第3話 試合

 配給が終わった時間を見計らって僕は自身のテントの中から細長いケースを取り、ヤスアキさんのいる自警団のテントへと向かった。

 自警団のテントは難民キャンプの中央にあり、どこで何が起きてもすぐさま対応できるようにしてあるのだ。

 テントの前にはシライさんという人が立っている。

 このシライという人は自警団の中では一番下っ端で基本はテントの前で突っ立っている。

 僕はシライさんに近づいて声をかけた。


「なんだまた君かい?」


「来ちゃダメなの?」


「いやそういうわけじゃないんだけど……」


「なら良いじゃん。おーいヤスアキさーん!」


「ちょっと!」


「何か問題あった?」


「いや、ないと言えばない…….けど……」


 シライさんは自警団に入れたのが不思議なくらいなよなよしていて優柔不断。僕の一番嫌いなタイプの人間だ。


「大声出さなくても聞こえるって」


 テントの中から刀を持ったヤスアキさんが現れた。


「約束通り頼むよ」


「わかってるさ。シライ俺が出ている事は伝えておいてくれよ」


「は、はひぃ!」


 シライさんはヤスアキさんに言伝を頼まれただけなのに異常に緊張してはいもまともに言えていない。


「はぁ。シライ、お前はもうちょっとリラックスしろ」


「しゅ、しゅみまじぇん!」


 やっぱり全く治らない。


「いつものことだけど、ダメだねこりゃ」


「ああ。全く頭が痛いよ」


 ヤスアキさんも頭を抱えてしまった。本当に困っているのはよく知っているのだけれど、ここまで困ったヤスアキさんは見たことがない。


「とりあえず行こう。このままここにいたらシライのことで日が暮れる」


 僕たちは難民キャンプから少し離れた場所にある公園に移動してケースから刀を取り出した。

 僕の持つ刀はヤスアキさんの脇差で刃渡りは40cm。17歳の男でありながら身長165cmと低身長の僕にはこのくらいがお似合いだという嫌味を込めて渡してきたのだが、後に通常の刀を使ってみたところ僕には脇差くらいが丁度いいのだと理解した。僕に刃渡りの違い刀は使いづらい。


「さて今日は何をする?」


「実戦形式で」


「いいだろう。……鞘から抜くなよ?」


「わかってるよ……」


 僕は右手に脇差を持ち、左手を前に突き出した。


「全く、教えても教えて我流貫くな。アスカは。その構えから攻撃してちゃんと刃物として扱えているっていうのが不思議で仕方がない」


「堅苦しくやるのは向いてないからさ。それじゃあ行くよ!」


 構えもなしに真っ直ぐヤスアキさんに向かっていく。

 ヤスアキさんはオーソドックスな五行の構えで冷静に待ち構えている。

 僕は間合いの少し前でいきなり左に飛び退いて、一気に脇腹目掛けて横凪に降った。

 バキッという音と共に手がじーんと痺れた。

 ヤスアキさんは僕の攻撃を見事に防いで、振り払った。


「危ない危ない。一瞬見失ったぞ!」


「へぇ。ならもうちょい早くか」


「何!?」


 俺は後ろに飛び退くとまた真っ直ぐにヤスアキさんに突っ込んだ。

 ヤスアキさんも刀を下段に構えてら迎え撃ってきた。

 切り上げを即座に体を半身状態にしてかわすと今度は左袈裟斬りを繰り出してきた。

 思い切り脇差をぶつける事でなんとか攻撃を捌いて、振った脇差の勢いを使って一回転してこめかみ目掛けて振るった!


「俺の勝ちだな」


 当たったと思った僕の攻撃はかわされており、僕の首元に刀の鞘が突きつけられていた。


「あ……」


 鞘を引っ込めてヤスアキさんは汗を拭った。


「全く、冷や汗かいちまった。本気で相手しないと負けちまう。18歳なら即自警団に入団させるんだけどな」


「生憎17歳」


「知ってるさ。だから言ってるんだ」


 ドンッ!!!


 突然大きな音が響いた。


「なんだ?キャンプの方じゃないな」


「あっちの山かな?」


 僕は小高い山に煙が上がっているのが見えてそこを指差した。


「自警団を引き連れて行ってみるか。アスカ、お前は難民キャンプに戻っていろ」


 僕はヤスアキさんの言う事を聞こうと思ったのだが、何故か山が気になって仕方がなかった。


「気になるから行く」


 僕がそう言うとヤスアキさんは頭を抱えた。


「……お前なぁ」


「モノノケにやられるわけないし」


「……はぁ。ならここで俺が自警団連れて戻ってくるまで待ってろよ」


 先程戦って実力が分かっているからかあまり引き止めようとはしなかった。普段なら意地でも連れて帰るだろうに。


「はいはい」


 僕を置いてヤスアキさんは難民キャンプに戻っていった。

 ヤスアキさんが見えなくなるのを確認すると僕は山の方へと走った。

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