【辺境の地】
「あぁ、まだ口の中が生臭い!ハチミツ飲んで口直しでもすっかな?」
オレはアイテムストレージから19個もある【ハチミツ】をひとつ取り出しては、小壺の蓋を開けて飲み出すのだ。
その味は…甘いっ!!が後味はスッキリとして飲みやすいのだ。そこまで粘り気はなくスーッと喉を通せる。あっという間に口の中で溶けてしまう。それはなんとも美味であった。
それと同時にオレのHPは最大量の『60』まで回復する。
「よしっ!!これで準備万端だな!?……待てよ。せっかくHPだって回復したのに、またあの巨大蜂にHP削られるのなんて…なんか癪(しゃく)だよな!?」
その通りである。ここまでHPを回復できたのだ。むやみやたらにHPをくれてやる事も無いのだ。今となってはこの【ハチミツ】だってクロユキにしては貴重なアイテムのひとつでもある。それをここで使ってしまっては身もふたもないのだ。
全ては、これから本番を迎える≪
やはり、ここはこの【ハチミツ】の温存と、せっかく回復したHPをなるべく保つ事が最優先だと…オレの視線は先に見える【エスゴール氷山】へと向けた。
まだ先は長い道のりだ。あの高く聳(そび)え立つ【エスゴール氷山】の山頂付近…また≪エンペルガー・ジャガー≫と≪トラファルガー・ライナサラス≫に出くわしてしまったら大変な事になる。
この世界『セカンド・ライフ』では、いずれもモンスターはある一定の時間が経つと、はたまた湧いて来るのだ。討伐したはずのモンスターに再度として出くわす…なんて事はざらだ。これは、リポップという原理で、あらゆるMMORPGでは、これによって多くのプレイヤーたちにモンスターを討伐させている。そのリポップが存在しないシステムを実装しているMMORPGも中にはあるのだが、この『セカンド・ライフ』ではリポップで再度モンスターが湧いて来る。
『セカンド・ライフ』に身を投じる者は、これに生活を賭けているプレイヤーたちはそう少なく無いだろう。
アカウント凍結され、運営側へと権利が受託されるこの『セカンド・ライフ』のシステム…容易(たやす)くHPゼロとなり破片となって散る事は出来ないのだ。
したがって、この『セカンド・ライフ』はそんな理不尽な線引きの上で、オレたちはこれに身を投じてる事になる。
オレは目の先に見える【エスゴール氷山】を超える…それは一つの賭けでもある。あの強大な力を振るう2体のモンスターがリポップ…そしてオレの目の前に現れるとすれば、きっと無事では済まされない。
リポップしていない事を願いながらの山頂を目指し、この先の【辺境の地】に辿り着かなくてはならない。
そして未踏の隠しダンジョンを探し当て、ダンジョン攻略しなくてはならないのだ。
このフィールドにはあらゆるモンスターが潜んでいる。ここまで来る道中、何度かモンスターに襲われた。なんとか取得しているスキルの中でも『使用制限』があるスキルについては、温存は出来た。
やはり、さっきまでいたフィールドとはモンスターの格が違う。ここは【エスゴール氷山】の麓だ。尚更な事、ここまで近付く度にモンスターのレベルが上がっている。それが手に分かるほどだ。
それでもだ、多少の家賃稼ぎにと合わせて【24000ジェム】を荒稼ぎした。素材になるであろうアイテムや、少々の小遣い稼ぎが出来るほどのドロップアイテムを獲得できた。
帰ったら…この稼いだ金で旨い飯でも食おう!?と息巻く。
そして歩むスピードを高める。それでも警戒を止める事はない。斜面の付いた道はオレの体力を蝕(むしば)む。
「なんか…この前よりかこの氷山登るの辛い気がする。めんどーだな!?あのスキル取っときたいけど、使っちまうかな?」
霞む薄い霧が目に入る。風と共に迫りくる冷気はオレの身体を呑み込む。なんぼ唯一無二の装備を身に纏(まと)っていてもだ、寒さは府(ふせ)げなかった。
この感覚を肌で感じてしまうと、あの記憶が蘇ってくる。身体で感じるこの冷気…あの恐怖を呼び覚ますのだ。
早くこの恐怖から逃げたい。その一心でスキルの発動を試みる。
「【
このスキル…名前の通りスキル発動後、強制的に自身の全ステータスを2倍に上昇させるのだ。そして、たちまちオレの身体には緋色のオーラが灯された。まるで炎を纏っているように。
急速に上げられたオレの【AGI】は〈+2910〉である。ここまで上昇させられた【AGI】で駆け抜ける世界…オレには全てが歪んで見える。世界が停止し、まるで自分だけが動いているような…そんな感覚だ。
生い茂る木々を縫うように駆け抜けて、ある意味でその木々を避け切るのは神経を集中させねばならなかった。一瞬一瞬のうちに視界に木が映り込むと、視界の脇に消えて無くなる。
その連続を繰り返しながら、目の前に現れる木々を避けていくのだ。こんな猛スピードで自分から目の前に現れる木に衝突しようものなら、その反動でオレの身体は吹き飛ばされ、HPバーはゼロへと振り切られるのが
一本、そしてまた一本……と視界に現れる木々を避け切り、ふと視界が開(ひら)けた時だ
「ウラララガガガガガガガァァァァァ!!」
「ガルルルルルルルルゥゥゥゥ!!」
オレの歪む視界に突如として姿を表す≪エンペルガー・ジャガー≫と≪トラファルガー・ライナサラス≫だ。乗り物アトラクションをもっと過剰にしたものだろうか。心臓が跳ね上げられるあの心情…それよりも遥かに超えられた感情が大波となり寄せて来ては……咄嗟に手に力が入った。
「やべぇ、もうリポップしてた!?クソッ!!どうにしかして逃げないと……」
恐れていたことが実現されたのだ。やっとの思いで、シズと2人で討伐出来たこのモンスター2体…オレ1人ではコイツらと戦って生き残れる自信は無かった。1体ならまだしもだが2体ともなれば、苦戦は愚かHPがゼロになり力尽きるのが目に見えている。
「全力で走れば……」
オレは脚に持てる力を全て注ぎ込み、この場を駆け抜けて脱出することにする。視界に映り出される全てのものは、一瞬のように映っては視界の脇から放り出されるように過ぎ去って行く。
「ガルルルルルルルルゥゥゥゥ!!」
「ブオゥブオゥブオゥブオゥブオゥ!!」
2体の雄叫びと悲鳴同時に、視界に映り出される2体のモンスターの姿が大きくなりつつある時だ。
体長20メートル程の≪トラファルガー・ライナサラス≫がうねりを挙げて、それに比べ体長は劣る≪エンペルガー・ジャガー≫にのし掛かるところだ。
このモンスター2体の共存は有り得ないのだ。このプログラムの世界にも、モンスターの中に弱肉強食が存在していると言える。
動物たちの本能をそのままに、電脳世界にもそれが成立し尚、己の縄張りを害すものを排除する。そんな動物的本能が存在し得ると思えるのだ。
あいつらにオレの存在は気付かれているだろうか?もし気付かれようものなら一環の終わりである。
そう考えて、このモンスター2体を迂回してこの【エスゴール氷山】の下山を試みることにする。
揉み合いをする≪トラファルガー・ライナサラス≫と≪エンペルガー・ジャガー≫の右手を走り抜ける。
「良かった。あいつらオレに気付いてない!!」
視界の左にへと、とてつもなくでかいモンスターが消えて行く。いとも簡単にあのモンスター2体の回避をやってのけた。そして、安堵を抱きながら走るスピードを減速させた。山頂を過ぎてオレは【エスゴール氷山】を下る。視界を霞む霧は濃くなり、先に見える光景はただの白色と灰色を混ぜ合わせた…霧が続くだけ。
オレは一体どこに向かっているのだろうか。そんな不安が襲い来る。
しかし、そんな感情も一変するのだ。氷山を越したのか?オレの視界を覆い尽くしていた霧は、この氷山の仕切りを謳(うた)うかのように新たな光景を映し出したのだ。
オレの身体に降り注がれるのは……雪ではない。これは火山灰だ。
「ゴーーーー!!」
地響きだろうか。その瞬間だ。オレの足元が揺れ出す。地震を連想させるこの揺れ……不安から恐怖へと感情を奪われたように変わり果てる。
「なっ、なんだ!?この揺れ……」
腰を曲げ、腕が地面へと伸びた時、数秒ほどで揺れがおさまる。オレの視線は先の光景へと移す。
「そっ、そんな……!?」
オレの体温が上昇しているのか?世界が朽ち果てた末の先は……そんな気持ちを抱かせる。
全てが朽ちた荒野、そして黒褐色と鮮血の色をした1本の川が枝分かれし…その先にあるのは鮮やかな血しぶきを揚げる活火山だ。
「なんてとこ来ちまったんだよ!?」
全ての身に付けている物すらも、脱ぎ捨てたくなってしまう程の熱気。水分を奪われそうだ。ひび割れた肌を顔見せるその荒野が、この熱さを物語っている。枯れ果て、葉の一枚も見せない木々。
この光景に目を疑って、口ずさむ。
「マップ!!」
しかし、自身の現在地を知らせる青いマーカーは【辺境の地】を指していたのだが、先に見えるあの火山はマップには表示されていなかったのだ。否、マップから途切れていると言えよう。【辺境の地】はこの荒野のみを指している。
「こんな所に隠しダンジョンがあんのかよ!?こんなフィールドを探さないいけないってことだし……やべぇな!?」
この朽ち果てた荒野の何処かに… ≪
♢♢♢♢♢
【あとがき】
「面白い!」「続きはよー!」「なかなか良いじゃん!?」って思って頂けたら、
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