時間との戦いですw

 オレは≪銀翼のシルバー・毒龍ベノムドラゴン≫対策として、スキル【毒耐性 小】の段階アップを狙って【エスゴール氷山】手前の深い森のフィールドを彷徨っている。


「う〜ん…なかなか『毒』の状態異常を持った敵に会えないな!?」


 この自ら『毒』化を狙いながらフィールドを彷徨うプレイヤーがいるだろうか!?状態異常の『毒』は勿論のことHPをじわりじわりと削るのだ。そんな事に誰が好き好んで状態異常に掛かろうとするプレイヤーが居るだろうか?


「ハチってこっちが威嚇すると、攻撃を仕掛けてくるって聞くよな!?う〜ん…威嚇かぁ…木が生い茂ってるとこ目掛けて石でも投げてみっかな!?」


 オレは道端に転がってる小石を掴み、試しにと草木が生い茂る方へと投げた。

 辺りには鈍い音が鳴り響く。小石が木に衝突した音だろう。それを2度3度と繰り返すのだ。


「よいしょっ!!」


 手から放たれた小石…「ゴソッ!!」木に衝突した音とは異なる。

 きっと……そして羽音が木霊する。


「あれっ!?もしかしてクリーンヒットしちゃった?」


 そう、あの音こそ蜂の巣であった。手から放り出された小石は見事蜂の巣へと命中したのだ。しかし、その蜂の巣はここからでは見ることは出来ない。威勢の良い羽音だけが鳴り響くのだ。当然の如く、巣には蜂1匹では無い。次第にその羽音は近付いて来る。


「うわっ!!何だあれ!?でっけぇ針!!アレに刺されたらきっと痛いよ!?」


 なんとも間の抜けた声であった。それはそうだ…通常に戦ったら今のクロユキでは、余裕さながらで全ての蜂をも蹴散らすことが出来るからだ。だが、今は戦わずに『毒』に蝕(むしば)まれて行く事を狙う。全てはスキルの階級アップの為だ。


 少しずつだがその蜂の姿が現れてきた。人間の顔くらいの大きさだろうか。そして指先から肘までの長さを持つ鋭い針、しかし、リアルの蜂とは違いなんだか可愛い外見であった。クマンバチとぬいぐるみを足したような…身体は毛に覆われている。

 オレの目を疑ったのはその外見よりも、数だ。何匹いるのだろうか?軽く20は超えているだろう。その光景は地獄絵図であった。


「こんな沢山…相手にしてたらあっという間にHPゼロになっちまうよ!?少しだけ残して、あとは狩るか?」


 迫りくる蜂の大群を前にして、【AGI】〈+1575〉の力を垣間なく見せ付けて、蜂の翼の根本目掛けて【アサシン・ブレード】で一刀両断、暗殺者のような動き方でバッサバッサと切り刻んでいく。それはもう目にも止まらない速さであっただろう。

 たちまち蜂の大群はポリゴンの欠片となり散り、残ったのはたったの1匹だけであった。


「よしっ!!これで良いかな!?じゃっ、死んだふりだ!!」


 オレはそう言いながら地面に伏せたのだ。この状況を他のプレイヤーにでも見られたら……想像したく無い。

 案の定、蜂はオレの身体全身を針で突いたり、針から紫色の液体をオレの身体目掛け投げ付ける。


「いっ、いてぇよ!!頭だけはやめろよな!?オレは【VIT】ゼロなんだからよ!」


 頭を突っつくこの巨大蜂に、オレの話す言葉なんて理解できるはずもなく、それでも頭に突き刺さるクチバシの痛みと、毒液の痺れと焼けるような痛みに耐えるのは辛かった。


 死んだふりをすること数十分経った頃だ。流石に【VIT】ゼロだけはあり、HPも削られていった。オレのHPバーは20を示してオレンジ色へと変わった。そして見事に状態異常『毒』のマークがHPバーの下に表示されていた。


「もうそろそろかな!?【エンジェル・ハート】のオート回復が発動する頃だ!」


 スキル【エンジェル・ハート】が発動され、オレのHPバーが増えて行くのだが、また減ってしまう。そう、状態異常『毒』の効力でHPが徐々に減って行くのだ。そして減っては【エンジェル・ハート】のオート回復でHPが回復する。


 身体に紫の液体をかけられては状態異常『毒』を受け、そして頭に突っついて来る蜂……【毒耐性 小】の効力もあってHPは2ずつ減って行くのだ。この【エンジェル・ハート】のスキルでも30秒間毎にHP2ずつ増えていく。単純計算すると、オレのHPの減っていく方が先に訪れる事になる。次第にはゼロになってしまうのだ。


 なんとかこれから10分間持ち続けて、最悪この残った蜂を討伐すれば良い。そう思いながら地面に伏せて……


 とうとう10分過ぎた頃だろうか?

 オレの頭の中で通知音が鳴り響く。


『スキル【毒耐性 小】から【毒耐性 中】になりました』


 オレはそのパネルを見るなり……歓喜が沸いた。


「やったね!?狙い通り!!ってあれ!?HPやべぇーじゃん!?10しかないよ!!えーとっ…取り敢えず逃げるか!?」


 咄嗟に閃いた考えがあったのだ。まずはここから一旦逃げ、オート回復でHPを回復させる。そして再度またここに戻って来て、この蜂から攻撃を受ける。勿論状態異常『毒』を浴びるのが狙いだ。そこでまた時間との格闘で…いつかは【毒完全無効】が取れる気がする。


 本人は気付いて無いのだが、こんな事が出来るのは【エンジェル・ハート】のお陰であり、このスキル取得難易度が最高級だという事は知らないのである。また、【毒完全無効】の取得方法は完全に間違いである。


 かくして、蜂との戦いは功を成すのであろうか!?

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