アップデート

 気付けばオレは『45000ジェム』を稼ぎ出していた。恐らくはモンスター100体以上は薙ぎ払ったであろう。


「クックックッ…これで家賃分には手が届きそう…」


 1人で笑う様は不気味であった。

 そしてクラウドと約束した場所【勇者たちが集うBAR】が見えてくるとこだ。店のドアノブに手を掛けた。

 

 すると……


「よっ、クロユキ!!オレの方が先に着けると思ったんけどな!?狩に夢中になってたらよ…遅れちまったよ!!」


 声のする方を向くと、清々しく立っているクラウドの姿があった。


 2人は相変わらずの賑やかさを放つ【勇者たちが集うBAR】に入った。クラウドとオレは向き合うように空いてる席を見つけ、腰を下ろす。


 はぁ、と一息つく時だ。クラウドが口を開ける。そして勢い良く席から立ち、深々と頭を下げるのだ。


「先に言わせてくれ!クロユキ…ごめんな!!お前たちのレベルも考えずにあのフィールド教えっちまった…悪かった!!」


 クラウドのその姿勢には感服した。潔い頭の下げっぷりには感心したのだ。


「まぁ、良いよ!こうして無事に帰ってきたんだし…それにスキルだって手に入った!あとシズは武器だって…」


 そう言うと、クラウドは静かに、そして悪そうに席についた。


「そっかー…本当に悪かったって思ってる!!」

「だからぁ、もう良いんだって!!それよりも話って…!?」


 クラウドはふと思い出したかような顔をして口を開ける。


「そう言えばそうだったな。アップデートの内容なんだけど…まずは2日後に第2層が実装されることになったんだ!!」

「第2層…かぁ。どんなとこなんだろう?」


 1層突破とは…2層に繋がるダンジョンを攻略すると第2層にテレポート出来る…かボスを討伐すると立ち待ち『鍵』がドロップして扉を開けるとそこは…定かでは無い。とにかくだ、ダンジョンを攻略し1層ボス討伐しなくてはならないのだ。


「公式では…『エルフの街』がモチーフになっているらしいぞ!?聞くところによると、そこにいるエルフとクエストに挑戦出来たり…って言ってもNPC(ノンプレイヤーキャラ)だけどな!?」


 オレの顔は驚愕とは言えないが、驚いた顔をしていたに違いない。ダイブ型VRでエルフをこの目で見れる事はオレの念願とも言って良いほどだ。


「エルフかぁ…めっちゃ楽しみだわぁー!!エルフと言えば、尖った耳…後は弓矢か?それと…剣だよな!?まぁ、1番は美人だって事が大きいけど…」


 クロユキのこの言葉を耳にした途端、クラウドは大きく口を開けながら笑い出すのだ。


「あっははぁ!!いやぁー、そう来たか!?う〜ん…1層ボスはなかなか手強いって話だぞ!?第2層実装迄に強化しといた方が良いかもな!?」


「強化…オレの場合スキル収集だし…レベル上がんねぇし!」


 小さい声で呟いた。


「うん?なんだって!?」

「いやいや、何でもないよ!!」


 オレは胸を撫で下ろし、はぁーと溜息を溢(こぼ)す。

 誰が声を大にして言えようか?レベル1でカウントストップだなんて!それなのに誰もが喉から手が出る程欲しがるであろう、この【漆黒のアサシン 装備一式】〈ユニーク・唯一無二シリーズ〉の装備だって…オレのこのステータスで取れてしまったのだから…

 しかし〈ユニーク・唯一無二シリーズ〉…数ある中の一つと言うからには、まだこんな装備品がある!?という事か?ならばもう一つ手に入れたいとこだが……


 クラウドがまだ続きがあると言わんばかりに切り出す。


「まだあるんだぞ!?イベントだ!!第2層が実装されてから7日後にイベントが発生するらしい」


 イベントとは、これらのMMORPGではイベントランキング上位、ミッション達成などを果たせば豪華商品を貰う事が出来るのだ。かくして今回のイベントの内容は……


 オレはこの『セカンド・ライフ』の世界を一目見た時の感動と高揚が蘇って来るのが分かった。このイベントを機に多くのプレイヤーたちと触れ合えるチャンスなのだ。また美人に出会えるかも…自ずと頭の中ではシズを思い描いていた。いやいや、美人に限ってシズみたいな訳の分からん奴だって…と脳内妄想が繰り広げられていたとこに……


「そのイベントだがな!?イベント参加プレイヤーでのPvP対人戦らしいんだ!?」


 オレはこの言葉で目覚めと幻滅を抱いた。儚く散って行ったオレの脳内妄想…


「PvP!?対人戦という事は…」


 その言葉への返答は早かった。


「あぁ、そうだ!!PvPって事はオレとクロユキが戦う事だって…それに今はいないけどシズとだって…」


 クラウドのこの突如として知らされた事に、オレは驚愕の意を顔に表しながら頭を塞ぎ込んだ。

 オレの頭を抱え込む姿を見ても話を続けるクラウド。


「だから、第2層に行けたとしても、イベント開催するまでは自身の強化をし続ける必要があるんだ!!じゃないと…イベントランキング上位に入って報酬を…ってのが遠退く」


オレは下に俯いたまま答える。


「そっかぁー、じゃあ強化しながらスキル収集しないとだな!?」

「あぁ、そうなるな!?」


 どれだけモンスターを討伐して経験値が入ったところで意味が無い。そう、何たってレベル1でカンストなのだから。それを踏まえると、装備やスキルで人よりも秀でた何かが必要だ。すなわち、隠しダンジョンは愚か、今回開催されるイベントだって…何としてでも上位に食い込んで、レアアイテムだっったり豪華商品を受け取らないと本当の意味での『最弱』になってしまうのだ。

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