【始まりの街】帰還!! 〜勇者たちが集うBAR〜

 あの隠しダンジョンを後に、2人は【始まりの街】へと引き返す。


「遅っせぇな!?それがお前のMAXスピードなん?」


 オレの後方数メートル離れ、歩くシズに急かすように言った。


「これが私の最大速度なんです!それにしてもクロユキさんって言葉責めの才能が……」


「うるさいわ!ちょっ、待って!そう言えば、あのダンジョンボス討伐報酬でゲットした装備着けてみたいんだけどさ?うーん、もうそろそろで【始まりの街】に着くしさ?ちょい自慢がてらに…」


 オレは照れている仕草で頭を掻きながら応えた。

 後ろにいるシズの顔はあまり納得してはいない様子。


「【始まりの街】に着くからと言って、そんな装備着ける必要ありますか?自慢とか言ってますけど……逆に他のプレイヤーに狙われ……あっ……」


 シズの一言で、その次の発言は想像できてしまった。


「その次の言葉、言うなよ!言わんとする事分かってるから!まぁ、自慢と言うかさ…楽しんでますよぉってアピール?それに、そうした方が俺たちだって狙われないじゃん?そんな良い装備持ってんだからさ?アイツめっちゃ強そうだな!?って思ってくれたらオッケーだよ!!なんせ……オレたち【VIT】値ゼロなんだからよ?」


 ハッとしたような表情を一瞬見せて、シズの口が開く。


「確かに…そうですね!?私たち【VIT】値ゼロだし……攻撃受けたら死んじゃうかもだし!そう言う事なら装備着けた方が良いかもですね!?」


 薄らと【始まりの街】が見えようかというところで、2人は立ち止まり人気が居ないかを見渡しながら木陰へと身を潜めた。


 そして……


 オレは呟く。


「ステータス!!」


 自分のステータスを確認して、装備の装着画面に変えた。


「さっき手に入れた【アサシン・ブレード(左右一式】を≪武器≫に装備してと、んで次は【アサシンマント】は≪アーマー≫に着けるとして、それから【アサシンブレード専用収納格式手甲】を≪グローブ≫に……んで【飛躍の黒龍ブーツ】が最後だな?これを……≪ブーツ≫に装備してと、大体これでオーケーだな?」


 隣でその作業を眺めていたシズは、ふと何かを気付いだように言い出す。


「クロユキさん…そう言えば装備にスキル……」


 思い出したかのように、オレはシズの肩をポンと叩いた。

 それと同時に喘ぎ声が発せられた。


「そうだった…装備にスキル装着出来るんだったな!?えーとっ……【エンジェル・ハート】を【アサシンマント】のスキルボックスに入れてと……それから【最後の一撃】を【アサシン・ブレード】の右手に入れてと。後は… 【吸血魔】を【アサシン・ブレード】の左に入れたらオーケーっと…うん?なんかHPが増えてくんだけど?」


 こうして装備にスキルを装着した訳だが、攻撃を与える度にMPが増えていく【吸血魔】と、オートでHPを回復してくれる【エンジェル・ハート】、そして敵にとどめを刺すと時…【最後の一撃】だ。これらの3つのスキルは非常に相性が良かったのだ。レベル1で止まってしまったクロユキにしては、スキルを発動する度に減って行くMPの回復…レベルアップが止まってしまった今、HPとMPの最大量が増える事はなくそのままである。したがって、少しの回復でも直ぐに最大量へと近づく事が出来る。

 故にスキル【吸血魔】がある以上、クロユキ自身の少量であるMPの消費を心配する事なくスキルを連発出来るのだ。

 これでクロユキの心配事は吹き飛ばされた。


「そりゃあそうですよ!確か【エンジェル・ハート】って装備に装着するとオート回復してくれるんじゃ?」


「そっか、オレのHP12だったし……だからか?」


 【エンジェル・ハート】を【アサシンマント】に装着した途端、「クロユキ」のHPが回復していく。

 また、【漆黒のアサシン 装備一式】を装備すると、上から下まで漆黒の衣で包まれ、そしてマントになっているフードを被ると、それはもう名前の通り暗殺者の如くと言わんばかりの姿へと変貌したのだ。


「良いじゃん!?格好良いじゃん!?オレ!」


 気に入ったように、自分の姿を幾度も見渡すのであった。


「クロユキさん格好良いですよ!そのコスプレの感じで…その格好で襲われたいかもです…エヘっ!」


 シズはオレの前に出てきて、はしゃいでいるようであった。

「はいはい、オレにはそんな趣味ありませんから!先急ぐぞ?」


 と言い放ち、【始まりの街】へと急ぐのである。


 【始まりの街】に居たのは少しだが、見慣れた風景が見えてくる。

 相変わらずの賑わいで活気溢れている街。この人混みを眺めていると、なんだか落ち着いてくるのだ。石畳の街路樹、そして両端に露店が連なっている。そこは行き交う人でいっぱいだ。その中にはプレイヤーも見受けられた。

 その中を縫うように歩き、しかしシズはというと流石は【AGI】ゼロだけあり、オレに置いてかれる。

 この黒い衣を羽織っているせいか、周りの視線を浴びている感覚が襲う。


 オレはその視線に抗うように、逸らしながら歩く。するとシズのいない事に気付き、チラッと後ろにいるシズを見ては、少し止まりシズの追い付くのを待つのだ。

 そうこうしている間に、ある店から笑い声と大声が聞こえる。そこの前に足を取られ止まってしまった。


「アッハッハー、お前もかぁ!?」


 そんな笑い声が聞こえてきた。

 シズはオレに追いついて、2人店の看板に視線を送りながら、2人はその店の前に立ち並ぶ。

 

 その看板には≪ 勇者たちが集うBAR≫と記され、店の前に置かれている立て看板には≪シュワシュワ一杯250ジェム≫と記されていたのだ。


 「このシュワシュワってなんだ?シズ、分かる?」


 シズヘ視線を送ると、首を斜めに傾けている。


「シュワシュワって何ですかね?全然分かりませんよ!もしや、それを体に付けて…如何わしい…」


 その言葉にオレは咄嗟に口を開く。


「うんな訳あるか!!バカか?ゲーム内でそんな事すんのはエロゲーだけで良いわ!まぁ…疲れてるし、ここ入ってみるか?」


 シズはコクっと頷き、それを見たオレは店のドアの取手に手を掛けるのであった。


 そして扉が開かれる–––。


 そこはまるで酒場のようであり、西部劇に出てくるような大衆酒場の様になっていた。

 飛び交う笑い声と大声に圧倒されてしまうのであった。

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