『逢魔時現代神話群』二人の酒呑童子伝説

テンユウ

序章 妖変じて夢の先

一節 悪夢じみた古い夢

「昔の事を思い出す。」


高校二年の夏、私はモノレールに乗った。

夏休みを利用して青年五日端末の期間を利用しての統一インフラぶらり旅、手に持っ私はた紙の本を膝に置き、窓の後ろへと流れる景色を眺めながらあくびを噛みころす。


どこか忘れていた事を思い出そうとするような、あるいはただ過去を懐かしみたいような、これがそんな望郷の念に駆られての行動であればと思ってしまう。


「そうそう今頃ながらの、いやこの年だからこその自分探しという奴だ、最も今の自分を探しても何かあるとは思えないがとか言えば格好いいんじゃないか?」


少し自分を卑下することを格好いいと感じる年頃なのだなどと口にしつつ、ページの進まぬ本から視線をずらす。


まとめ買いした栄養ドリンクとコーヒーを見比べ、栄養ドリンクのビンを空にしつつスマホのゲームアプリを開くが睡魔に勝てず、モノレールに揺られるうちに意識を狩られ夢へと落ちる。


私は昔の夢を見た、そこでの僕はまだ子供で同じような年代の子と遊んでいた。


それは友達の定義を考え始めるほど頭が固くなる前の、あれは小学校だろうか?


私は自分が藁と竹で作られた無駄にデカくて使いにくい箒を持っていることに気が付いた。


「おいお前も日陰に来いよ。」


校舎の影に集まっている連中に話しかけられる。


「真夏に校庭の掃除なんてやってられるかよ。」


適当に相づちを返しながら愚痴をこぼしだべる。


「そうだ、怖い話をしてくれよ。」


それがどんなシュチュレーションでも僕は怖い話をせがまれる。


夢の中で、体が勝手に動く感覚、謎の焦燥感、僕はそれをしなければならないと解っているのにそれをせず、怖い話を語り始めた。


前置きの無い怖い話を語り始めた。


思い出したその意味を、慌てても焦り慌てて何も出来ない、気が付けば景色は闇に飲まれ影に潜む出来損ないの人間みたいなそいつらに囲まれる。


彼らは井戸へと手招きするのだ、夢を見続ける毎に僕は井戸に近ずき、金属で出来た桶を見つけてしまう。


それは引っ越すまで見え続けた何か、忘れていた、忘れていなければならなかった記憶、私は一度これを見ているのだ。


「夢か。」


背筋が汗ばむ、覚えていてはいけない物を思い出してしまった様な奇妙な感覚、私はどんな夢を見ていたんだろうか?


『夢にうなされてるのよ、そうね夢日記を書きなさい、先ず思い出さないと探れない。』


『もしあなたが昔の頃を思い出してみたいと思うのであれば、色々な物を見たり聞いたりしてきっかけを探してみたり、自分が何故そんな性格になったのか、逆算してみるのも良いでしょう。』


『どうかしら、長い休みですし帰省しては?部活も寮も申請すれば案外認めてくれるのよ、意外と記憶は紐づけされている物で、うまく手繰り寄せてみれば風化した過去を引っ張り出せるかもしれません、何事もあなた次第行動しなければ始まらないそうでしょ。』


銀髪の短髪少女、図書室でよく見かける同級生の占いにいつの間にか従って、私はモノレールに乗ったのだ。


「それにしても眠い。」

 

ボソリと呟く、窓の後ろへと流れる景色を眺めながらあくびを噛みころした。


モノレールで住宅街を移動し、都市で電車に乗り換える。


この端末のサービスでは新幹線やリニアモーターカーは使えない、電車の改札を抜けるころには、肌を焼くような日の光も弱まり、活動を始めたセミの鳴き声に迎えられる。


海上の住宅街では聞こえないその鳴き声に夏を感じつつ、タップしようとして消してしまったスマホの地図アプリを再度立ち上げ、中学生の頃の学校の住所を打ち込む。


「そう言えば、昔もこの改札で降りたんだったか。」


本を開き二宮金次郎像のように歩き、定期で駅の改札を抜け満員電車の中奇妙な姿勢で文字を追い、騒がしい学校の教室で文字を読み進める。


流石に満員電車にまでには愛着が無いため時間をずらしたが、何とも言えない懐かしさを感じながら出来る限り街路樹の影から離れるように足を進める。


あのあたりだろうか?


この時代、OBとは言えアポなしで学校には入れない、そのためこうしてフェンス越しに校舎を眺めてみたがあの部室に人影は無い、私は閑古鳥の鳴く幽霊部員だらけの部室でギリギリまで本を読んでいた事を思い出す。


「あまり変わって無いな。」


自ちょう気味にわらいつつ、あれもあれで、今も今で、それなりに充実した一日だったと纏めて終わる。


長髪の銀髪の女性が語る。


『今に忙しい若者に、充実した今を生きる貴方に、昔を思い出させるのは難しいのかもしれないけれど、意外と記憶は紐づけされている物で、こんな事なかったかと言ってあげたり、実家の押し入れからアルバムを引っ張り出して、写真を覗いたりしているうちに思い出して来るものがあるかもしれません。

こぼれた過去を思い返しながらなつかしさに浸るのも良い物です、それにごくまれに、あり得ない記憶がこぼれ出てくるかもしれません、その大半は思い違いだったり、夢と現実が混ぜこぜになった物でしょうが、その中には前世の記憶も紛れ込んでるかもしれません。』


彼女には二本の角があり、額に瞳があるように感じた。

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