第15話:ちょっと待て。
「マナ、そんなに落ち込まないでくれ」
帰りの馬車の中には愛那とライツ、この二人が乗っていた。
気落ちしている愛那の傍にいたいと、ライツがナチェルに頼んで交代したのだ。
横並びしているライツの手が俯いている愛那の頭を撫でる。
そのライツの優しさが愛那の涙腺を刺激したがグッとこらえる。
「ごめんなさい。情けなくて・・・・・・。救世主だからって、自分を過信していました」
「マナは頑張っている。異世界から来たばかりの君が、この国のために何故そんなに頑張ってくれるのか不思議なくらいだ」
(何故?)
愛那は顔を上げてライツを見る。
(それは、あなたがいるから・・・・・・)
ライツが愛那の【運命の恋人】だから。
救世主としての役目を果たさなくては、ライツの傍にいる資格がないような気がしていた。
(それに、神様がもし・・・・・・)
愛那が再び俯く。
ライツは「俺がいるんだから、大丈夫だ。マナは急がなくていい。ゆっくりでいいんだ」と告げ、愛那の肩を引き寄せた。
ルザハーツ城へ帰り着くと、ナチェルが馬車から降りてきたライツと愛那へと近づく。
「マナ様。練習をお約束していた馬の二人乗りの件ですが、今日は止めておきましょう。お疲れでしょうからゆっくり部屋で休まれて・・・・・・」
「ちょっと待て」
ナチェルの言葉をライツが遮った。
「何でしょう?」
「何だ、その馬の二人乗りの練習というのは?」
「マナ様が馬に乗ったことがないという話から、いざという時のために、せめて二人乗りの経験をしておいた方がいいということになりましたので・・・・・・」
「マナと、誰とが、だ?」
「は、私とですが」
「・・・・・・」
落ち込んでいた愛那だったが、様子のおかしい二人の会話に顔を上げて首を傾げる。
「マナの二人乗りの練習は俺がする」
「・・・・・・ライツ様」
無言だったが(女の私相手になにをそんな心の狭いことを・・・・・・)というナチェルの視線の意味をライツは正確に読み取った。
「・・・・・・マナの初めては全部俺がもらいたい。当然だろう」
その台詞にナチェルは呆れたような顔になったが、愛那は顔を真っ赤に染めて体を硬直させた。
そこにリオルートの側近がライツへと近づき、耳元で何かを告げた。
「・・・・・・わかった。すぐに行く」
ライツは愛那に優しく微笑む。
「・・・・・・兄さんに呼ばれたから、マナは部屋で休んでいてくれ」
愛那が「はい」と頷くのを確認したライツは、表情を少し厳しいものに変えた。
「モラン! ナチェルと共にマナの警護を」
「はい!」と離れた場所にいたモランが応え、ライツはハリアスと共に城の中へと消えていく。
そんな後ろ姿を見送った愛那は、少しだけライツの様子がおかしかったように感じ首を傾げた。
(何か、あったのかな?)
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