高速道路整備員1

 最後のから揚げと丼飯をかきこむと、ワシは紙コップの緑茶を飲み干した。

いやホントから揚げ定食は”あっちのモン”の中でも最高だと思うよ。

汁気あふれる若鶏の肉がサクッと揚げられた衣の中に包まれて、噛めば

香ばしい醤油ダレのうまみが口いっぱいに広がる。いましばらくは美食の余韻に

浸っていたいところだが、休憩時間はそんなにない。

キャベツが奥歯に挟まってる感じが腹立つので楊枝で取ろうとしたら、

髭に絡まりおった。いてて、だ~畜生め。


 「ベルガフさん、髭剃った方がいいって」

目の前にいる茶髪の若造がカツ丼をほおばりながら言う。

「ばかいえ、ドワーフにとって髭は信念であり誇りであり命であり、

つまり軽々しく触れてはならんものなのだ」ワシは胸まで広がる

自慢の銀髭を撫でた。反射板を付けた作業着にも負けぬ輝きを放っている。

「それに剃ったところで、2日もすれば元通りだ。剃刀の無駄じゃろ?」

若造は肩をすくめて「言いましたからね?オレ。現場監督が言っておけってうるさくて」

「・・・あの腰抜けめが。なぜ直接ワシに言ってこん?なぜおまいさんを挟む?」

頭にあの眼鏡をかけた神経質そうな優男の姿が浮かぶ。

つるはし一つ満足に振れんくせに威張り散らしおって。


「管理職なんてそんなもんすよ。行きましょか」

器を乗せた四角いお盆を手に茶髪の若造 ─ハセガワ─ は席を立った。

部屋の時計を眺めると昼休み終了10分前だ。

ワシも後に続く。人で埋まった食卓を縫うように歩くが、

なかなか返却口にたどりつけん。ここの食堂が混雑するのは毎日の事だが、

今日は特にひどいようだ。いろんな連中がいろんな飯を食っておる。


 立った席の隣では4人家族が何やら深刻な顔をしとった。

にぎやかなここには似つかわしくない。かみさんの耳が尖っている所を

見るとエルフ族をめとったらしい・・・そら大変だ。

ワシらドワーフ族はエルフ族の本性を知っとるからな。

連中、姿形が美しいからちやほやされるが、その実僻みっぽくてずる賢い。

碌なもんじゃない。あのニポン人の旦那さんも結婚相手を見誤ったという事だ。


 ここは異世界トンネルSA。ファンタジアンと”あっちの世界”ニポンを

結ぶ道路の真ん中にあるバカでっかい街。

ワシはベルガフ。ドワーフ族。今はここで高速道路整備員をしておる。




 

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