検疫官3
R-73。そこは一般貨物(大型)の場所だった。
全長15mほどの大きなトラックが停まっている。脇には
「誠魔運輸」と書かれている
後部扉が開かれ、その脇で検疫官とドライバーらしき男が口論をしている。
「だ~か~ら~荷主の都合なんですよぉ~」男は30くらい、ちょび髭にサングラス、派手なアロハシャツを着ている。人を見かけで判断してはいけないけど、
トラックドライバーにしては・・・。
「しかしですね」担当の検疫官が冷静に問いかける。
「こちら申請書には飼料(トウモロコシ、雑穀)と書いてあります。
ですが今抜き打ちで採取されたのは”貝殻”成分ばかりだ。」
採取皿に白い砂のような物が広がっている。
「あ~ご存じない?かるしうむですよカルシウム!鶏に元気な卵産ませるために
貝殻入りの餌をやるんでさぁ。飼料は飼料!同じです!大方荷主が途中で気変わって発注したんだと思いますがねぇ」
男はイラついた感じでズボンのポケットから煙草を出して口にした。
「んちっんちっ、ふぅ~」舌打ちを繰り返しながら煙を吐き出す。
「もぉいいでしょぉ~。なんなのおたくら?いくら役人だからって善良な市民をこんな風に拘束できると思ってんの?これから異世界トンネル抜けるまで何時間も渋滞するんだ。向こうに着くのが遅れたらあたしが荷主にどやされる、稼ぎが減るんだよ!そんな権利あると思ってんのかよぉ!なあ!おい!」
声のボルテージが上がる。
(・・・怪しい)私は思った。男の身なりではない。態度だ。
”逆ギレして話を強引に進めようとする者”はたいていなんか隠してる。
「ドラブラポン」私はケルベロスを呼んだ。返事がない。振り返ると
・・・いない。見れば遥か彼方の軽自動車の陰からこわごわこちらを
覗いている3つの頭が。まったくあの子は~
「おいで!怖くないから!」巨犬は尻尾を垂らして恐る恐るやってきた。
私はドラブラポンを連れ、トラックの荷台によじ登った。
「ちょ!ちょとあんた!何してんだよ!」男が慌てる。
1秒前までキレてた人にしてはずいぶん冷静になるのが早いようだ。
「車内立ち入りは検疫官の正当な権利です。ご覧の通り全ての検査は
不正の入らぬようケルベロスの首輪カメラで撮影保全されます。
不服申し立てはご自由に」私は荷台の中に入った。
薄暗い荷室には20キロ詰めの麻袋が隙間なく詰め込んである。
そのうち一つには穴が空いて、白い中身がこぼれている。
抜き打ち検査で開けられたものだろう。確かに一見普通の貨物だ。
だが、後ろで唸り声がした。ドラブラポンが三つの頭を低く下げ、
くんくんと臭いを嗅ぎながら唸っている。
声が出ているのは・・・ドラッグとブランド。
薬や香料に鼻が利く”ドラッグ”。
ブランド品や名産品に目ざとい”ブランド”
その二つが反応している・・・ということは。
私は重い麻袋一つを台車に乗せると、車外へ運び出した。
「お、おい!なにすんだよ!」運転手が駆け寄ってきた。
ずいぶん焦っているようだ。
「こちら、開けていただけますか?」私は言った。
検疫官は被検査者の資産にみだりに触れることは出来ない。
開示はあくまで所持者の手によって行われなくてはならない。それが決まりだ。
「開けるも何も、飼料だよ!貝殻!」
「拒否なさるようであれば、異世界トンネルの通行は認められません」
「んちっんちっ、しょうがねえなあ。え~と、
ちょっと待ってくださいねぇ~カッターはどこかなっと・・・」
いつのまにか男はトラックの運転席に乗り込んでいた。
ゴソゴソと車内を漁っている・・・と思ったら!
電子音と共に「扉が閉まります、ご注意ください、扉が・・・」
貨物室後部の扉が勝手に締まりだした!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます