あなたが隠そうとした心を暴いてもいいですか

蒼樹里緒

開幕

 遥か昔、世界が一つの小さな町だった頃。

 町の外にたくさんの魔獣がむ中、灰色の髪を持つ一人の魔女が、人々の生活を支えていました。

 魔女は、人々の望みを魔法で何でも叶えました。

 人々も魔獣の肉を食べることで魔力が増え、ごく簡単な魔法が少しだけ使えるようになっていきました。

 毎日魔獣を狩りながら、人々は魔女に深く感謝し、魔女も彼らを大切にしました。

 ただ、魔女の力でも絶対に叶えられないことがありました。

 それは――時間や時代を自由に飛び越えて生き続けること。

 ある日、魔女は強く願いました。


「永遠に生き続け、神として人々に崇められたい」


 欲に溺れた魔女は、自分の血も使い、時間を操る秘薬を研究し続けました。


「強大な魔獣の血肉も加えれば、秘薬は完成するかもしれない」


 ある夜、魔女はたった一人で街の外へ出かけました。襲い来る魔獣を容赦なく殺し、魔獣のおさのもとへ辿り着きました。

 同族を狩られ続けた魔獣たちは、魔女や人々を憎んでいました。

 長い戦いの末に倒れた魔獣の長は、魔女を激しく呪いました。


「お前たちへの憎しみは未来永劫、世界に留まり続ける。我が命が尽き果てようともな」


 魔法を浴びた魔獣の長のからだは、細かい結晶となって散っていきました。

 魔獣の長の呪いは、魔獣の肉を一口でも食べた人間の心をもろい結晶に変え、次々に砕き始めました。

 人々は魔獣の肉が食べられなくなり、魔力が薄れて魔法も使えなくなっていきました。

 魔女の求めた秘薬は、どんな魔獣の血肉を使っても、ついに完成しなかったのでした。

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