第15話 悪魔と鬼は違うようです。

 鈴丸の打ち込んだ警棒を真知子は軽々と躱す。

 「あらあら。お得意の金棒は知らない間にちっちゃくなったわね?」

 真知子は手にしたナイフで鈴丸の首を狙うが、鈴丸はそれを警棒で叩き払う。

 「ふん。そんなちっさいナイフで我をやろうと?」

 「そうよね。この国は銃を手に入れるのも持ち歩くのも難しいのが厄介ね」

 「街中で銃撃戦でもするつもりか?」

 「人間相手ならそんな事しないけど・・・相手が鬼ならね」

 二人は会話をしながら、鋭い攻撃を出し合った。その動きは並の人間じゃ追えない程の速さだ。

 「あれが悪魔同士の戦い・・・」

 フェリスはゴクリと唾を飲みながら、その戦いに割って入る事は出来ないと思った。それは真由も同じだった。明らかにレベルが違い過ぎる。

 「ちっ・・・警棒がっ」

 鈴丸は警棒を見る。それは幾度にもナイフで防がれた為に今にも折れそうなぐらいになっている。

 「相変わらず、バカ力ね」

 距離を置いた真知子はすでにナイフの刃がボロボロになり、折れ曲がっている事に気付く。

 「ふん・・・武器ももうないみたいだな?」

 鈴丸は折れそうな警棒を捨てた。同様に真知子もナイフを捨てる。

 「へぇ・・・素手でやるつもり?」

 真知子は余裕のある笑みを浮かべる。

 「当然じゃ。肉弾戦は得意なんでな」

 鈴丸は一気に飛び掛かる。だが、刹那、青白い光が弾ける。

 「うっ」

 鈴丸は胸を抑えながら飛び退く。

 「あら?もう少し、深く押し込んだ方が良かったかしら?」

 真知子の手にはスタンガンがあった。

 「スタンガンか・・・相変わらず、考える事がズルいな」

 鈴丸の右腕はダラリと下がったままだ。


 「へぇ・・・悪魔もスタンガンが利くんだ」

 フェリスは驚いたようにメモを取り始める。

 「れ、冷静ね」

 真由はそんなフェリスを見て、少し引く。

 「だって、あんな戦いの中に飛び込める?」

 フェリスは当たり前と言わんばかりに答える。

 「そ、そうだけど・・・さすがに・・・」

 真由は不安そうに鈴丸を見る。

 鈴丸にはすでに得物は無い。だが、真知子はスタンガンを左手に持ち直し、懐から新たに折り畳みナイフを取り出した。

 「常に用意はしておくものよ。警棒一本なんてぬるい」

 真知子は笑いながらまだ、電撃から回復してない鈴丸に迫る。容赦ない鋭い一撃が鈴丸を襲う。

 ガチン

 真由の大剣がそのナイフを弾く。あまりの威力に真知子はナイフを落としてしまった。

 「なっ?」

 驚いた真知子は数歩、後退る。

 「悪いけど、鈴丸をここで失うわけにはいかない」

 真由は鈴丸と真知子の間に割って入った。

 「思ったより、鋭い動きをする人間じゃない?」

 真知子は驚きながらスタンガンを構える。

 「悪いけど・・・ここで滅してあげるわ」

 真由は大剣を上段に構える。

 「俊樹様!力をくださいっ!」

 真由はそう言うと、握った柄を軽くシコシコする。それは俊樹の感情を昂らせる。快感が一気に彼の中心を襲う。

 途端に刃は鋭さを増し、輝いた。大剣は反りはじめ、両刃から片刃へとそれは巨大な日本刀へと変化した。

 「変化させただと?」

 その異様な雰囲気に真知子は更に一歩、後退る。

 「逃さない!」

 真由はその後退りを読み切り、刀を振り切った。その一撃は鋭く、一瞬にして真知子の頭上を襲った。

 「はっぁあああ!」

 真知子はスタンガンを護りに上げながら、飛び退いた。

 刀の切っ先はスタンガンを真っ二つに切り落とし、真知子の制服をスカートまでバッサリと切り落とした。

 露わなになる真知子の褐色の胸と腹。黒いパンツを丸出しにした姿で彼女は尻餅をついた。

 「紙一重で届かなかった!」

 振り抜いた真由はその勢いを何とか止めた。その隙に尻餅をついた真知子は破かれた服が脱げるのを気にせず、アクロバティックにバク転をしながら、更に退いた。

 「悪いけど、チャンスは逃さない」

 そこにフェリスが突っ込む。サーベルの鋭い突きが真知子を襲う。真知子はその刃を何とか躱すが、幾つか皮膚が裂けて、血が飛び散った。

 「ちっ・・・人間風情が・・・」

 何とかフェリスの攻撃から逃げた真知子は彼女達を睨みつける。

 「はぁはぁはぁ・・・ここで仕留める」

 フェリスは息を切らせながら、更に真知子を追い込もうとする。

 「フェリスさん、無理は禁物です」

 真由は刀を構えながら真知子に迫る。鈴丸もその後ろに居る。

 「やれるつもりみたいな事を言わないでちょうだい・・・そんな簡単な女じゃないよっ!」

 真知子はそう叫ぶと右手を頭上へと高らかに上げた。刹那、その先に光が生まれる。

 「魔法!」

 フェリスが叫ぶ。刹那、爆発が起きて、フェリス達は吹き飛ばされた。

 激しい爆風で吹き飛ばされた三人は何とか立ち上がる。その時には真知子の姿は無かった。

 「魔法って何?」

 真由はフェリスに尋ねる。

 「悪魔が使う謎の力よ。火や水、風などを操るわ」

 「へぇ・・・それって・・・鈴丸も使えるのですよね?」

 真由は鈴丸に尋ねる。

 「あぁ・・・方術じゃな。私はあまり得意とせんが、天狗の輩はよく使っておったな」

 「そうですか・・・」

 すでに刀の姿が解けた俊樹達の姿もあった。結界も解けた為に爆発が起きたその場所は騒然としていた。5人は慌てて、その場から逃げ出した。

 

 その晩、真由が悪魔と戦った場所はガス爆発が起きた事にされていた。当然ながら、これは遥か上からの圧力で、事件が揉み消された為だ。鬼関係の事件は古より、権力者によって、全てが闇に葬られる。姫騎士が殺害されたんも事故として扱われるのもそのせいだ。鬼や悪魔なんて存在が世間に知られれば、混乱が生じるからだ。

 「何故・・・あなたがここに?」

 真由は冷ややかな目で夕飯を食べている鈴丸を見る。

 「はっ?右腕はまだ本調子じゃないしな。腹も減った」

 「鬼も人間の食べ物を食べるんですか?」

 「精力が得られないなら、食べるしかないだろ」

 「食べれば済むんですか?」

 「まぁな。性欲と食欲、睡眠欲。人間の三大欲求を糧にしているからな。ははは」

 鈴丸はそう言うと空になったドンブリを佳奈美に差し出す。彼女はニコニコしながら御櫃からご飯をよそう。

 「お母さま・・・相手は鬼ですよ?なんで、そんなに冷静なんですか?」

 「あら・・・別に鬼をどうこうとかは我が家は思っていませんよ。あくまでも鬼が暴れ出さないようにするのが我が家の帯びた命ですから」

 「そ、そうなんですか?」

 真由は唖然とする。

 「そうですよ。私は一度も鬼を滅せよとは言ってないでしょ?だから、姫騎士の教育は受けさせたくないのよねぇ」

 佳奈美は困ったような顔をする。

 「ははは。そういうわけで、しばらく、お前の家で世話になるからな」

 鈴丸は笑いながら、おかずのとんかつを一切れ摘まむ。 

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