お見舞い

 ある男が知人のお見舞いに来ていた。

 病院の受付で手続きをおこない、知人の病室へ向かう。

 病室は上の階のためエレベーターに乗ろうとするが、そこで予想外のことがあった。

 

『メンテナンス中』

 

 エレベーターの前に、そんな札が置かれていたのだ。

 他にエレベーターは無く、上の階へ行くには階段を上るしかない。

 

「まいったな。病室は4階なのに、階段を上らなきゃいけないのか」

 

 この病院の階段は、1つ階を上がるために20段を上る必要がある。

 男は頭の中で、素早く計算をする。

 

 20×4=80

 

「80段もあるのか」

 

 うんざりしながら男は階段を上り始める。

 

「1、2、3……」

 

 段数を数えながら上っていると、ふと、あることを思い出した。

 

「そういえば、夜の学校で階段を上り下りすると、昼間と段数が違うって怪談があったな」

 

 段数が違っていたら面白いなと思いながら階段を上る。

 

「……78、79、80。まあ、そうだよな」

 

 だが、計算と実際の段数が違うということはなく、男は80段を上ったところで4階に到着した。

 

「さて、あいつの病室は……」

 

 部屋番号を確認しながら知人の病室の前までやって来て、がらりと扉を開ける。

 

「おーい、調子はどうだ?」

 

 しかし、そこには誰もいなかった。

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