第37話「トバリの真実」

 トバリは眉を困ったように八の字にして笑う。


「前にも言ったけど、僕はポピュラー家庭の出身なんだ。恥ずかしい話、しかもそのなかでもかなり貧しいほうでね。

 僕に魔法の素質があったのは本当に奇跡だった。奨学金で一流の教育が受けられるマジスタ校に通わせてもらえるし、ヒナギクなら卒業後の進路も安定してる。僕ががんばれば母や弟たちに楽をさせてあげられるんだ」


 ……まあ気持ちはわからんでもない。俺の家も似たようなもんだしな。


 わからんでもないが。


「だから、エサーナスを代表する大企業スチュアート社のご令嬢と結婚できるなんて願ってもない機会なんだ。もちろん君の友達は大切にする。幸せにする自信もある。だから頼むよ。ブローチそれを渡してくれないか」


「……ヤダね!」


 俺は自分の名前が刻まれた校章を胸ポケットに入れ、巨乳を張る。


 へっへーん!

 とれるもんならとってみやがれ、このフェミニスト!


「あんたの境遇には同情する! でも校章これは絶対に渡さない!」


 美人の幼馴染をイケメンなんかにとられてたまるか!


「……そうか。なら仕方ないな。……"流"」


 うなる水柱を鉄壁の守りヴァージン・ブロックで防ぐ。


 水柱の勢いは強く、俺は鉄壁の守りヴァージン・ブロックが打ち砕かれないように集中するので精一杯だった。

 巨乳女子を水攻めたぁスケベな野郎だぜ!


「水じゃさすがにダメか。"断"」


 この野郎、刺突技に変えてきやがった。


 かたい突起物がズガガガガンッと鉄壁の守りヴァージン・ブロックをえぐる。


「くっ……!」


 ヤロウ、本気出してきやがったな。


 これじゃ防御に手一杯で、部屋の反対側にあるヤツの校章をとりにいくことなんかできやしない。


 膠着状態だ。トバリが鉄壁の守りヴァージン・ブロックを破るか、ヤツがへばるまで俺が耐えるかの勝負。


「そろそろ降参してくれないか。女の子に怪我させたくないんだ」


 トバリの言う通り、分が悪いのは悔しいが俺のほうだ。

 ここまで追い詰められるなんて予想外だったぜ。スケッチブック、もっとこっそり持ってくるんだった。


 さて、どうするか……。


「君は優しいね。友達のためにここまでがんばれるなんて。少し羨ましいよ。僕にはそんなふうに思える友達はいないから。君の大切な友達は僕が幸せにする。約束するよ。だからお願いだ。ブローチを渡してくれ」


「……あいつを幸せにするぅ? はっ! 笑わせんな!」


 おっとつい本音が。


「あんたはあいつのこと、なんにも知らねぇだろーが!」


 ふと、ポケットにかたい感触。手を入れると指先が革を触った。

 取り出したそれを確認して、俺は小さくガッツポーズ。


「知ってるか? あいつは結構怒りっぽいんだ! すましてるようで取り乱すと子どもみたいだし、なんでも簡単にこなしてるように見えて、実は裏ですげぇ努力をしてる! おまえは知らないだろ!? エレナがいつも苦手な魔法を練習してることも! 空いた時間は図書室にこもりっきりなことも! それに……幼馴染がいたことも!」


「……幼馴染?」

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