第5章「決闘」

第35話「おまえはついてくるな」

「バカマカゼーッ!!」


 ガックン、と揺さぶられた。


「……おわっ!?」


 まぶたを開ける。

 ……あれ、俺いつのまに寝てたんだろ?


 頭をガシガシ掻くエレナの目はとろんとしていた。おまえも寝てたんだな。


「これ見てっ!」


 ずい、とスマホの画面を差し出してくる。

 表示されているのは21:08の文字。


 やべー……。


「遅刻だ!」


 ソファから飛び起きて手ぐしでさっと髪を整える。


「なにやってんのよもー!」


「おまえだって寝てたくせに!」


「あたしは別に約束してないもん!」


 言いながら、エレナは昼間のうちにとっておいた入校許可証を渡してくれる。それを首にかけ、スケッチブックを持って扉を開けて、


「……おまえは約束してないんだろ?」


 俺はうしろに立ったエレナを振り返った。


「なんでついてくんだよ!?」


「悪い!?」


「悪いよ! ついてくんなよ!」


「なんでよ!」


「なんでもだよ!」


 なんか恥ずかしいだろうが!

 一応おまえを賭けて戦うんだぞ!


「おまえはここで待ってろ! 絶対くるなよ!?」


「……わかったわよ」


 エレナはむすっとしてソファに腰掛けた。ガラス玉のような水色の瞳が俺を睨む。


「そのかわり、絶対負けないでよね!」


「……おう!」


 部屋を飛び出し電気の消えた校舎に向かう。


 ちらほらと貸し教室から光が漏れる校舎内を駆ける。

 結構がんばったけど、女子寮から校舎の反対の端にある五階の魔法実験室5に着くまでに十分はかかった。さすが金持ち学校、校舎でかすぎ。


 体育館くらいの大きさの魔法実験室5は危険な魔法を使うことも多い三年生用の教室だ。

 その広い部屋の反対側に、


「こんばんは、ホワイトさん」


 灰髪のイケメンは立っていた。


「すっぽかされたのかと思ったよ」


「……遅れてごめん」


「いいよ。ちゃんときてくれたし」


 トバリはにこりと微笑む。

 女の子の遅刻にも寛容とはさすがイケメン。


「さっそくだけど本題に入っていいかな? 十時には校舎を出なくちゃいけないし。ルールを考えてきたんだ。本当の決闘は魔法で直接相手を倒すみたいだけど、さすがに女の子相手に手は出せないからね」


 そりゃまたジェントルマンなことで。ホワイトさん実は男なんだけどね。


 トバリは壁に立てかけてあった見学者用のパイプ椅子を開いた。


「ここにブローチを置こう。先に相手のブローチをとったほうが勝ちだ」


「いいね。わかりやすくて」


 俺も手近にあったパイプ椅子を引き寄せる。

 胸の校章ブローチをはずし椅子の上に置いた。


 トバリは壁の時計を見る。


「二十五分になったらはじめよう」


 秒針が12を指すまで、あと十秒。


 頭のなかにイメージを描く。

 切りつけるような鋭い風を。


 二十五分まで残り五秒。


 三、二、一……スタート!

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