美少女に呪われて美少女になってしまった俺の魔法学園ライフ

第19話「人工魔力アーツ」

　山の麓に小さな洞窟があった。

「ここね」

　エレナが持ってきた地図に目を落として言う。

　湿った洞窟の中にゆっくりと足を踏み入れる。

　洞窟の壁にはぽつぽつと間隔を開けて電球がついていた。ぼうっと弱い光を発するそれらのおかげで、明かりがなくても進んでいける。エレナが暗視鏡はいらないと言ったのはこのためだったのか。

「でも、廃墟なのになんで電気がついてるんだ……？」

「地熱発電よ」

　前を向いたままエレナが言う。俺たちの高い声は濡れた洞窟によく響いた。

「旧人類（ストリアン）たちは『電力』というものを使って科学機器を動かしていたの。その電力の生み出す方法の一つが、地球の熱から電力を生み出す『地熱発電』。各地に残るエンプティの照明は、だいたいこの地熱発電によって今でも機能しているの。……って歴史の授業で習わなかった？」

「習ったかどうかと俺が覚えているかどうかは別問題だ」

「情けないことを堂々と……」

　エレナのため息は聞こえないふりをした。

「電力」ねぇ。

　俺たちが使うスマホやパソコン、大きなものだと車や飛行機なんかの科学機器はすべて人工魔力（アーツ）で動いている。今から二百年ほど前に人工魔力核（アーツ・コア）が発明されたおかげで人類の文明は一気に進化し、今俺たちはこうやって便利な生活を享受できているのだ。

　人工魔力核（アーツ・コア）を発明してくれたありがたーいその人の名は、サガラ・スチュアート。

　目の前を歩く俺の幼馴染の美少女、エレナ・スチュアートのご先祖様である。

　サガラ・スチュアートが興したスチュアート社は創設者が亡くなったあとも技術開発の先頭を走り続け、今では世界中にその名を轟かせる大企業となっている。

　現社長の一人娘のエレナはその跡取りだから、今からお見合いだなんだとうるさく世話を焼かれるんだろうなぁ……。大変だ（他人事）。

　ちなみに人工魔力（アーツ）はマジスタが持つ本来の魔力とは根本的に別物だから、人工魔力（アーツ）を使ってポピュラーが魔法を使えるとかそういうことはないらしい。そういう技術の開発が進んでるとは聞いたことあるけどね。詳しくは知らん。

　弱々しく光る電球を見る。

　俺たちにとっては、機械は人工魔力（アーツ）で動くのが当たり前で。

　旧人類（ストリアン）にとっては、機械は「電力」で動くのが当たり前だった。

　文化や時代が違えば常識も違うってことか。俺は特別歴史に関心があるわけではないが、まあ興味深くはあるね。

　旧人類（ストリアン）の時代には、俺たちが当たり前のようにできることが禁止されていたり、逆に俺たちが禁止されていることが当たり前のようにできたりしたのだろう。

　今俺たちの時代で社会規範となっているエレナ教なんてものも存在しなかったはずだし、そうなると俺たちの常識とはかなりズレた社会ができあがっていたはずだ。