第8話「二種類の人間」

「もう、あたしの前から勝手にいなくならないで」


 わかったよ、と俺ははっきりとうなずいた。


「約束よ」


 エレナが笑う。


「……ああ。だからおまえももう俺のための大金はたいたりするな。

 ……ま、でもそのおかげで助かったのは事実だけどな。ありがとな。

 せっかく受かったマジスタ校だもんなー。手放すことにならなくてよかったぜ。俺、小学校の五、六年生と中学はポピュラー校だったからさ」


 ここエサーナスでは、人間は二種類に分けられる。


 マジスタかポピュラーか。


 マジスタは魔力を持った人間を指し、ポピュラーはそうでない人間を指す。


 人が持つ魔力の強さは生まれつき決まっている。


 生まれてすぐの名づけの儀式の際に魔力を測定され、マジスタかポピュラーかを言い渡されるのだ。


 魔力の強さは遺伝によって決まると言われている。


 つまり、マジスタの家系に生まれた子どもはマジスタの可能性が高いというわけだ。


 エサーナスの人口の二割程度しかいないと言われているマジスタが金持ちの坊っちゃん嬢ちゃんに多いのは、過去に社会的成功を収めたマジスタの血を引いているからなのだ。


 ここ王立ヒナギク学園は魔法教育を行っているマジスタ校である。


 中学をポピュラー校ですごし、まともな魔法教育を受けなかった俺が名門マジスタ校であるヒナギク学園の高等部に合格したのは、本当に奇跡のような出来事だったのだ。


「あんたも大変だったのね」


 エレナがため息のようにつぶやく。


「……ま、それなりにな。つーかおまえ、さっきからカチカチなにやってんだ? ネットショッピング?」


「うん。あんたの服」


 エレナの頭越しに覗きこんだパソコンの画面には、ファッション通販サイトが表示されていた。


 レディースの衣類が並んだ画面をエレナがスクロールし、「レジに進む」リンクの上にカーソルを置く。


「下着とかある程度の私服とか、ないと困るでしょ?」


「まあそうだな」


 エレナが「レジに進む」をクリックする。


「ひえ……」


 表示された金額に俺は小さく悲鳴をあげた。

 それなのにこのお嬢様ときたら、平気な顔で「思ったよりも安いわね」だ。やっぱりセレブは違うぜ……。


「あ、これはあんたが払うんだからね」


「マジで!? おいもうちょっと安く済ませ……」


 エレナがためらいなくポチって、すんごい額の買い物が終了する。


「ああ〜!」


「とりあえずあたしが払っておくから、あとでちゃんと返してね。期限はいつまででもいいから」


「なんで服に二十万もかけるんだよ……」


「え? これくらい普通でしょ?」


「このブルジョワめ……! 俺んち貧乏なんだからな!」


「だから返済はいつでもいいって言ってるじゃん。二十万なんて働きはじめたらすぐに返せるわよ。あ、逃げようと思ったって無駄だからね? ちゃんと返しててもらうまで、どこまでも追いかけてやるから!」


 くそ、エレナのやついい笑顔しやがって!

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