第30話 廃れた放送部

「ひさしぶりー!」


 みんな、会いたかったよ、と。出そうとした声は消えた。


 ガラガラッと開けた放送部室には、一人しかいなかった。


「えっと……みんなお手洗い? あ、私に会うのに緊張してた、とか……?」


「いいえ、違います。見てのとおり、部員は美香さんのほかには私だけです」


 サラッと長い髪をたなびかせて窓の外をのぞく美少女は詩織ちゃん。


 詩織ちゃんは窓を閉めて私に向きなおると礼をする。


「お久しぶりです、瑠香さん。また会えて光栄です」


「私も会えてうれしいよー!」


「無理に元気出さなくてもいいですよ。まさかこんなにいないとは思っていなかったでしょう。——それにしても、美香さんは今どこに」


「美香ちゃんはトイレ」


「——私にこの気まずい雰囲気を柔らかくしろというつもりですかね。無理に決まっているじゃないですか」


「本当に二人だけなんだ」


「ええ。残念なことに。皆さん瑠香さんを信じていない様子でしたので」


 私を信じていない、って、なに?


 みんながいないのって私の責任ってこと……?


「え、詩織ちゃん、今のどういう——」


 すると、規則正しい足音が聞こえてきて「瑠香っち、ごめん」と、美香ちゃんが入ってくる。「さすがに二人だけとはいえなくて」


「ううん、大丈夫、大丈夫だよ」


 なにも、大丈夫じゃない。


 美香ちゃんはいつも、どんな時でも素直だった。私に何かを隠すこともなかった。


 その美香ちゃんが、私に部員のことを言えなかった。


 昨日辞めたといってたのも、もしかしたら嘘かもしれない。もうとっくに二人だけだったのかもしれない。


 美香ちゃんは、いつもの美香ちゃんじゃない。


 この、よくない状況の中で全国大会は可能なの?


 詩織ちゃんはどんな原稿も抑揚をつけて読むことができない。


 全国大会にはあまりに遠すぎる。


 この二人だけで、本当に行けるの?


「——かさん、瑠香さん」


 気づいたら詩織ちゃんが私の前で手を振っている。


「あ、ごめん。——練習、始めようか」


 その日の練習はうまくいかなかった。


 原因はわかっている。


 私のやる気が消えてしまったからだ。




 

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