第2話   神に挑む


『2日目 朝』



◆日頃支えてくれる皆様への感謝企画!!


いつも自分を叱咤激励して下さっている皆様のために、


最大規模の企画を実施します!!


何と、 1名様限定 200万 !!


締め切り日 0月00日


応募条件 写真の女性の名前を答えて下さい(簡単すぎかな?(笑))


応募方法 1、自分のアカウントを認証して、友達になって下さい。

     2、・・・



 数年前よりウェブサービスが開始した「一言君」という名のSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)。

その利便性もあってか、若年層から火が付き始め、いまや世界中で利用される。

使い方は多岐にわたり、情報発信から不特定多数へのコミュニケーション、

ユーザー数は推定で10億人を突破していると公表されたのが記憶に新しい。

当一言君を利用し、この界隈でも有名な男が一人。

それこそ、朝飯も喉を通らず、時折震える指でキーボードを操作する、流光である。

みっぴーがパソコンの上から顔を覗き込み、光の小刻みに揺れる指と

強張った表情を交互に見つめる。


「ねぇねぇ、八百屋さん。

 何をしているの?」


「誰が八百屋さんだ!!

 勝ち組の俺にしかできないことを、今している!」


「へへーん。

 一言君でこの女の子を探してるんだ。

 個人情報とかは大丈夫なの?」


「下級の日本国民に、人権などない!!」


尻に火が付いた状態の光。さきほど見せられた除霊師の惨殺写真が決定打となった。

昨日の段階では何処かまだ他人事のように信じていた状況。

それがつい数十分前に、現実だということを嫌でも押し付けられた。

その後の行動は早かった。もう減る腹は無かった。他の除霊師を探す意味も無くなった。

土曜日の朝、光はカーテンも開けずに、息苦しい部屋でパソコンと睨み合いを始めた。

活用したのは「一言君」。この世界的に利用されているツールを使い、

みっぴーが昨日指定してきた自撮り女を探す暴挙に出た。

一言を送信し終えると、一つ深い息を吐く。

そして、ストレッチをしているみっぴーに向け、右指を突き刺し、甲高い声で笑い始める。


「俺の一言君での友達人数は5万人!!

 今俺が発信した一言が即座に5万人のもとへ流れ、

 俺の手を動かさず、汚さず、馬鹿共が情報を提供・拡散する!!

 見ろよ、これが勝ち組だ!」


「すごーい。

 どうやって5万人も友達になったの?」


「こうやって応募を企画すれば、雑魚共が勝手についてくる!

 当然、当選者などはこちらがでっち上げている!

 まさに社会の縮図、勝ちと負け、利用する者される者!

 こうにも馬鹿は利用されてることに気づかんからな!」


「有名になりたかったの?」

 

「気晴らしに上位勢になりたかっただけさ。

 勝ち組は凄いよ、本当に。

 負け組が俺のこの自己顕示欲を、夢を、叶えさせてくれるんだからな!」


「ねぇ、テレビのリモコンはどこ?」


「人の話をきけ、この馬鹿!!」


みっぴーは長い話にあきたのか、光に投げつけられたリモコンを拾いに行く。

教育番組をうれしそうに眺めるみっぴーを後目に、光はこの後のことを考えていた。

光自身、この一言で自撮り女の正体が掴める可能性は薄いと理解していた。

ただ、1%の可能性を試さざるを得ない状況。犯罪ギリギリの手段は全て取らねばならぬ状況。

この一言も当然、ある程度拡散した後は速攻で消すつもりでいた。

SNSでの卑劣行為に法整備が整っていない、今だからこそできる荒業。

その後の処理を考えると共に、今置かれている状況と、その方向性を頭の中で描く。


「(大まかな疑問点はおよそ3つ。

 1、この自撮り女は何者なのか?

 2、なぜこの自撮り女を殺そうとするのか?

 3、みっぴーは何者なのか?

 俺が本当に殺される、殺されないという結果は今はどうでもいい。

 まず過程でできることをやるしかない。

 それが恐らく、結果を変えることができる唯一の方法だ)」


解決策に向けて、一言君で動き出したという事実が安心感を呼んだか。

光は今一度冷静に分析をすることが可能になっていた。


「(そして、その中で一番重要なのは、3のみっぴーは何者か?

 奴の身元が判明すれば、自ずと1と2の解決にも結びつく。

 それは最終的に、奴が曖昧に発言する”幸せになること”の解にも辿り着くハズ。

 俺が助かるは道は今の所2つ。

 この自撮り女を殺すか、みっぴーの幸せを満たすか。

 ・・・みっぴーの身元だ、奴の身元を徹底的に調べ上げるんだ)」


気が付くと、ようやく空腹になっているとことに気づく。

冷蔵庫に入れっぱなしになっていた賞味期限切れのパンに噛り付き、

みっぴーを観察するように見つめる。

そのパンの味は、今までにないほど冷たかった。




『2日目 昼』



 11時とお昼に差し掛かる頃。

家を出てから、すぐに光は会社の上司へ連絡、両親危篤と嘘をつき1週間の有給を取得。

休む暇なく、ここ県立図書館に来ていた。ここまでに来る途中、一つの確信を得ていた。

それは、過去に光がみっぴーに接触していた可能性。

光は記憶力・暗記力に関しては、他者に後れを取る事はないと自負していた。

その彼の頭脳が、みっぴーの顔・声・名前、全てにおいて関係性を否定した。

だが、それはわずかな情報と共に、さらなる謎を呼び起こす。

ではなぜみっぴーは光を選んだのか?

考えれば考えるほど、沼へと嵌っていく感覚。仕方なく、わずかな可能性を信じ、

ここへ赴いた。

ダンボールサイズのパソコン相手に、眉間に皺を寄せる。


「(過去の新聞のデータから、記事を抽出検索して。

 検索するのは、ここ数年、死亡した中学から高校生の記事。

 範囲は・・・くそっ、全国規模で1から探し出すしかないのか)」


まず光が動き始めたのは、疑問点に挙げた「みっぴーは何者なのか?」。

自撮り女の件はひとまず、一言君で情報を待つ。

ただみっぴーに関しては、自分から情報を取りに行くしか手段が無かった。

なにしろ、みっぴーは霊体なのか写真に写らず、自分の名前も言おうとしないのだから。


「(駄目だ、情報が少なすぎる。

 本当にみっぴーが高校生なのか、そして何処の県に住んでいたか?

 そしてそれは本当にここ数年の話なのか?

 交通事故なのか、それとも別の死因か?

 本当に新聞記事に載っている情報なのか?

 ・・・前に、進まん・・・)」


八方塞がりの状態に、ついに光は意識することなくその場で頭を抱え込んだ。

まさにドラマのような窮地の展開に、自分がなるとは思いも寄らなかったであろう。

古く、四角い時代錯誤な大きなパソコンが、問答無用で光に立ち塞がった。

惨殺死体が頭に過る。あの血と、脂肪と、骨、臓器、眼球。

光の未来の姿。


「(あのぐちゃぐちゃになった死体・・・あぁなっちまうのか。

 本当に、これが現実なのか。

 どうして、何で俺が。

 あんな死に方は嫌だ、あんなのにはなりたくない)」


前に進めない現実が、探索すると意気込んでいた光の感情を吹き飛ばした。

今光を支配するのは、自分の未来予想図。惨殺光景。

誰に縋ることもできず、助けを求めることができず、憎むことができず。

近くで聞こえる他人の何気ない会話が、光にとっては十分な殺害動機だった。

しばらくして、頭を抱える光を不審に思ったか、一人の従業員が肩を叩いてくる。


「もし」


「・・・何か」


「体調が悪そうですが、いかがされましたか」


眼鏡をかけた女性従業員が光の体を気遣う。

光は聞こえないように舌打ちをし、頭を持ち上げる。


「眠くなっていました、申し訳ございません」


「そうですか。

 その、館内では休憩スペースがございますので」


「(っち、たいした給料ももらってない雑魚が)

 分かりました、ご迷惑お掛けしました」


見せつけるかのように、禁止されていたパソコンのシャットダウンを実行する。

勢いよく立ち上がり、その場から立ち去ろうとする。

その間際、ふと光は足を止めた。


「全国の学生のみの死亡記事をまとめて検索できる方法はあるか」


「無いことはないですが。

 その・・・」


「何だ」


「貴方も、マスコミの方なんですか?」


「マスコミ?

 ・・・いや、今何と言った」


「?」


「今、貴方”も”と言ったな。

 それは、どういうことだ!」

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