緊急事態! 僕の紅美ちゃんがデートに誘われた。 その3

「ウワァーーー! 紅美ちゃーーーん!!!」


「小僧、ちょっと待ちなさい!

ヤッバ、ちょっと煽り過ぎたかしら」


 自分の想いを伝える為、雪乃さんの制止を振り切って紅美ちゃんの前に出てしまっていた。


「紅美ちゃん、僕の話を聞いて!」


「ま、間宮くん?

なに、なんでいるの?」


 大声で叫びながら現れた僕に、唖然と驚く

紅美ちゃんとデート相手。

ごめんなさい2人とも、自分の行いが非常識で恥知らずなのは重々承知しています。


「紅美ちゃんにはいつも笑っていて欲しい」


「いきなり何? なに言ってるの?」


 ホント、何言ってるんだろう?

でも、僕は感情の赴くがまま口が開いてしまう。


「だって、天狗さんにデートに行ったらって、言われてからの紅美ちゃん、元気なかったよ」


「そ、そんなの間宮くんが気にする事じゃないよ」


「気にするよ!

あれからずっと元気無かったよね」


「いきなり出てきて何なんだ!」


 デート相手は僕の前に立ち塞がると、紅美

ちゃんとの間を遮り睨みを利かせてくる。

正直怖いけど、今は怯んでいる場合ではない!


「すいません!

僕は間宮一騎と申します。

少しだけ紅美ちゃんとお話させて下さい」


 僕はデート相手に謝りつつも、彼に負けないぞ! とばかりに割って入り紅美ちゃんに想いを伝える。


「僕はゲームしか取り柄の無い男だよ。

その得意なつもりのゲームでも、天狗さんには敵わないよ」


 あー! 自分がもどかしくイラついてしまう。

でも、でも、でも! 紅美ちゃんには何か伝えなければならない。


「僕は……」


「なに、何が言いたいの?

訳わからない!」


 ごめんね紅美ちゃん。 

勢いで出てきたのに、伝えたい事を上手く話せなくて。


「すいません。 そう言う訳で紅美ちゃんの事は諦めて下さい」 


 デート相手の人にそんな無茶なお願いをしてしまった。

後になって思えば、彼はよく僕を殴らなかったな。 と申し訳ない気持ちになります。


「はっ? どういう訳だ説明しろ!

いきなり出てきて、何言うんだ!

君は紅美さんとどういう関係なんだ?」


「同じサークルの仲間なんです。

紅美ちゃんには好きな人がいるんです!」


「それは君なのか?」


「いえ、違います!」


「なら君の出る幕では無いだろ?」


「でも、違わないんです!

なぜなら、僕は紅美ちゃんの事が誰よりも好きだから!!!」


 僕は恥ずかしい男で、理不尽で卑怯者だ。

いきなり現れてデートの邪魔をして、こんな形でしか告白できないって……男らしくないしよね。 

 

 そんな一騎の告白に、建物の中で見守っていた雪乃は驚いた。


「あっらぁー。

小僧ったら、勢いで告白しちゃったわね。

この後の展開がどうなるか見物だわ」


「君は本当に訳が分からないな!

誰よりも好きだからと言っても、紅美さんが君に気が無いのなら意味なんて無い!」


「意味なくなんて無い!」


 僕は感情でしか気持ちが伝えられない。

デート相手はそれを否定する。

そんなお互いの意見のぶつかり合いは、平行線をたどるだけで理解し合えない。


 そんなやり取りを繰り返して、お互いに引かないものだから周囲から好奇の目が集まる。

それこそ、男女間のトラブルでケンカでもしてるのかと思われているようだ。


「もう2人とも聞いて!

紅美はね、天狗ちゃんが好きなの!」


「天狗さんって、店でよく雪乃さんに怒られている天狗のお面の人かい?」


「そう、紅美は天狗ちゃんが好きなの」


「それじゃあ、何で僕のデートの誘いを受けたんだい?」


「それは……天狗ちゃんが行けって言うから……」


「君は天狗って人に言われたから、デートの

誘いを受けたのか?」


「……うん」


「それじゃあ、僕に少しも気持ちは無かったのか?」


「ごめんなさい」


 紅美ちゃんの言葉にデート相手はショックを受けて無言になってしまった。

自分がデートをぶち壊しといてなんだけど、

この沈黙は気まずい。


「……もしかして、天狗って人から僕を利用するよう何か吹き込まれたのか?」


「違う! 天狗ちゃんはそんな事言わない!」


「そうですよ!

天狗さんは紅美ちゃんに色んな経験してもらいたくて、デートに行ってみたらって言っただけで、紅美ちゃん本当は行きたくなかったんだ!」


「間宮くんは黙ってて!」


「はぁ、天狗ちゃん、天狗ちゃんって、もういいよ。

君に好きな人がいるって知っていたら、誘わなかったよ」


 デート相手は呆れたような少し淋しそうな

顔でそう言い残し、僕達の前から去って行った。


「もう! 間宮くんってば、紅美がちゃんと

説明しようとしたのに!

突然出てきて何なの? あの人もうお店に来ないよ!」


「それは紅美ちゃんに対する想いが、その程度でしかないんだよ。 僕は諦めないからね」


「もう、そう言う事言ってるんじゃないの!

常連さんが減ったら、雪乃ちゃんに迷惑かかるでしょ。

ホント、カッコ悪いしバカみたい」


 そう言って紅美は笑いながらため息をつくと

「天狗ちゃんってば、間宮くんのピンチには

駆けつけたのに紅美の時は来てくれないんだ」と淋しそうに呟いた。


「どうしたの紅美ちゃん?」


「ううん、なんでもない。 帰ろうか」


「そうだね帰ろう。

でも、あの人に悪いことしちゃったな」


「ホントだよ。

後をつけるなんて趣味悪いよねー」


 迷惑でヘンテコだけど、間宮君は間宮君なりに一生懸命頑張ったんだね。 

紅美は一騎の告白を少しだけ嬉しく思って、

一緒にショッピングモールを後にした。




「しょっぱくて不恰好だけど、いいもの見せてもらったわ。

ま、小僧にしては頑張ったほうかしら」


 2人の様子を見守っていた雪乃は、今は2人にしてあげよう。 と思って帰ろうとしたら、別な所で2人を見守る天狗を見つけてしまった。


「ハハァン。

天狗の奴、来てたんだ」


 アイツはアイツで紅美ちゃんを気にかけてたんだ。 なんだ良いとこあるじゃない。

アタシに気が付いたら恥ずかしがって逃げるだろうから、コッソリ近づいて声かけるか。


「よっ、天狗。

アンタも紅美ちゃんの様子を見に来たのね」


 そろりそろり天狗の背後に忍び寄り、驚かすように声をかけてみたけど「お主か」 と

一言言うだけで、驚きもしなければ見向きもしない。


 せっかく声をかけたのに、つまんない反応で面白くないわね。


「紅美ちゃんもデートを経験したし、小僧も

頑張ったから今日はこれでいいんじゃない」


「そうか、なら帰るとするか」


 それにしてもコイツ、お面着けたままよく来たわね。

変な奴だけど陰から見守るなんて、なんだかんだ言っても頼もしいわね。


 そう思って天狗をジーッと見つめていると、

初々しい紅美ちゃんと小僧に刺激を受けたのか、久しぶりに男の人に寄り添いたい気持ちになってしまった。


「どうした?」


「天狗、ここまで来たんだしアタシとデートでもしてみる?」


「何を言う、馬鹿を申すな」


「あらそう。

これでも、ここに来る前の私って結構モテてたのよ。

毎週デートのお誘いが絶えないくらいにはね」


「男の全てがお主に気があると思うな」


「ハハハ! これはフラレたのかな?」


 なんて笑いながら、雪乃は天狗の腕に自分の腕を絡ませて甘えるように寄り添う。


「腕を組むな💢」


「いいからいいから♪」


 なんだ、こっちの反応の方が面白いわね。

今日はこのまま帰るとしますか。

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