月下の歌姫 エリザベートのカラオケでライブ その3

 ケンカを止めに入った僕は、雨竜君に突き飛ばされステージから落て…………いない?


 背中には何か支えられている感触がある。


 どうやら僕が落ちた時に、誰かが背中を押さえてくれたようで転落を免れたみたいだ。


 ひとまず、ホッとして落ち着いたので、お礼を伝えようと振り向いみると、部屋に飾られていた甲冑騎士ではないか!


 助かったけど……えっえっ動いてる?


 ガシャッ ガシャッ 重い音を立てながらステージに上がる2体の甲冑騎士


「女を巡っての仲間割れ……笑止千万」


 どうやら、長身の方の騎士が喋っているようだ。


「それがお主達の絆というものか。

……脆いものだな」


 長身の騎士は、取っ組み合っている3人を

いとも簡単に引き離すと


「正義の炎を燃やし、馳せ参じる紅蓮の仮面」


 などと、訳の分からない台詞をぶつぶつ言いながらアーメットに手をかけた。


「お面忘れてるよ」 と小さい方の甲冑騎士

から何か受け取り、後ろを向いてアーメットを脱ぎ捨て、お面を着ける。……まさか?


「正義! ゲーム天狗参上」


 ガラン! と音を鳴らし甲冑が外れ落ちて振り向くと、いつもの黒のツナギ姿で現れた。


 ツナギを脱ぎだして、赤いふんどし姿になると、小さい方の甲冑騎士はカチャカチャ と

ぎこちない音を鳴らして拍手


「て、天狗さん! どうして?」


 このどうしては、何でここにいるの?って

意味と、何でふんどし姿になるの?っていう、

2つの意味で聞いてしまった。


 天狗さんが、驚いている僕に


「紅美がな、だらしない間宮くんの事だから、

絵里ちゃんのトラブルに巻き込まれてると思うよ。 って言うものだから様子を見に来てみたら、案の定巻き込まれてたという訳だ」


 僕を助けに来てくれたんだ。

でも、天狗さんには絵里のライブの事は伝えてないのに……どうして知ったの?


「一騎よ。 お主は我の分だと言って写真集を注文しただろう。

エリザベートから感謝のメールが届いてたぞ」

と僕の疑問に答えてくれた。


 あ、そうだ! 男性限定で1人一冊しか

買えないから、雪乃さんの分は天狗さんの名前を使って買ったんだ。


「まったくお主は、人の名前を勝手に使いおってからに」


「あ、あれは雪乃さんがどうしても欲しいって言うから仕方がなくて、紅美ちゃんに知れたら僕の立場が無いから仕方なくて……」


 どう言い訳しようか、思い付く言葉を早口で

色々喋りながら慌てふためく僕に天狗さんは

「言い訳は後で聞く」 と一言


「何だテメーは!」 


 雷堂が天狗さんに突っ掛かってくるが、左手で頭を押さえつけられて動けない。


「離せコノヤロー!」 とジタバタと暴れても、雷堂はどうする事もできない。


 この混沌とした状況に、絵里はオロオロと

心配そうに右往左往する。


 天狗さんは、捕まえていた雷堂を開放すると

「お主らに一言物申す!」と一括、その怒号のような声に三笠君と雨竜君、雷堂に絵里の4人は驚き怯んだ。


 まずは三笠君を指差して


「ミカエルよ。 今回の件だが、何故仲間に

相談無く身勝手な行動に出たのだ。

仲間なら、一言あってもよいではないか?」


 下を向いたまま押し黙る三笠君


「ウリエルよ、腹立たしいのは分かる。

だが、こんな時こそ冷静でいられなくて、どうする?」


 雨竜君は申し訳なさそうに頷く


「雷神よ。 お主は、何故に人の問題に首を

突っ込むのだ?」


「ケッ、コイツに姫は身の丈に合わない宝だからよ!

分からせてやろうと思ったまでだ」


 雷堂は、馬鹿にした口調で反論する。


「それは、エリザベートとミカエルとの話で、

お主の出る幕ではないだろう」


「姫がテメェのものだと勘違いしねぇように、

教育しようとしたまでだ!」


「それはエリザベートの意思なのか。

お主に、そんな資格があるのかな?」


「オメェこそ関係ねぇだろうが!

首突っ込んでんじゃねぇ」


「我もそうしたいのだが、うちの一騎が

巻き込まれては、黙っている訳にもいかなくてな」


 天狗さんの言葉に雷堂は、チッと舌打ちすると面白くなさそうにソッポを向いて、それ以上は反論しなかった。


 天狗さんが……僕の為に来てくれたんだ。


 不覚にも天狗さんが僕を思う行動に感動していると、今まで大人しかった絵里がここぞとばかりに、しゃしゃり出て


「そうよ、天狗の言う通りよ。

私の為にケンカは止めて下さるかしら」


 なんて、さも自分が場を納めようと調子の

いいことを言う。


「何を言っておる。

元はと言えばお主がミカエルを拐かして、撒き散らした種だろう」


 天狗さんに、厳しくたしなめられ「はい」と言って絵里は大人しくなると、今度は小さい方の甲冑騎士がヨロヨロと絵里の前に出て来て、何かモゾモゾとしている。


 どうやら甲冑を脱ごうとしているようだけど、自分で脱ぐことができないようだ。


「てんぐちゃーん、これとって」


 と言ってバンザイすると、天狗さんが

プレートメイルを外してアーメットを取り、

現れたのは紅美ちゃんだ。


 彼女はピンクのツナギを着ていて、天狗さんと同じようにそれを脱ぐと、ふんどし一丁

…………ではなくて、白とピンクのチェックのビキニ姿となって「紅美も参上!」 と

可愛らしくポーズを決める。


 配信動画では見たことがあったけど、初めて生で見る紅美ちゃんの水着姿に僕は目を奪われてしまう…………うん可愛い。


「絵里ちゃん、いい加減にしなよ!

間宮くんはどうでもいいけどさ、人の気持ち

弄ぶの止めなよ」


 いきなり現れた水着の女の子が、ゴスロリに説教を始めだす異様な光景


 そして、何で僕はどうでもいいの?


 紅美ちゃんの出現に、呆気に取られた絵里は数秒の間置いて我に戻ると

「弄んでないもん!」 と紅美ちゃんの言葉を否定する。


 それでも紅美ちゃんは「弄んでるよ!」 と言い返す。


 そんなやり取りで絵里は、目に涙を浮かべながら否定するけど、それを即座に強く否定する紅美ちゃん


「仕方がないじゃない!

紅美ちゃんって、いっつも絵里の欲しいもの

持ってるんだもん! 

どうしょうもないじゃない!」


「は、何の事?」


「だってそうじゃない! 尊くんだって

そうだし」


「尊くん?」


 尊くん? 話の流れからして、紅美ちゃんに振られて絵里に乗り換えた同級生だな。


「そうだよ……いっつも一人占めして」


「紅美は尊くんに付き合えないって言ったよ。」


「だったらいいじゃない。

そんなに怒んないでよ」


「いいわけないじゃない!

絵里ちゃんは、約束破ってるんだよ」


「分かってるよ。

絵里だって辛かったんだよ。

だから、尊くんと別れたのに……

紅美ちゃん、謝っても許してくれないじゃない」


「自分のやった事、理解してるの?

本当、絵里ちゃんって自分の事しか考えないよね」


 その言葉を聞いた絵里は、その場にしゃがみ込んで両耳を手で塞ぐと


「……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」 と紅美ちゃんの声を遮る

ように、ごめんなさいを連呼する。


「そうやって、いっつも泣いて済まそうとして、結局変わらないね」

 

 怒られている絵里を見て、流石に可哀想にも思えなくなかったが、今までの経緯を知っているだけに紅美ちゃんを止める事が出来なかった。


「もう止めてくれ!」 そんな絵里を三笠君が盾となって庇う。


「いいかげん三笠君だって、利用されてるの

分かってるでしょ?」 


「ああ、分かっているよ。

でも、エリザベートは僕がいなければ駄目なんだ!……駄目なんだ」


 三笠君は、自分自身に言い聞かせるよう駄目なんだを繰り返し呟くと、絵里が紅美ちゃんに


「紅美ちゃんには、天狗がいるからいいじゃない! 絵里は誰もいないんだよ」と訴える。


 駄目だよ、その言葉は間違っている。

三笠君が、こんなにも庇ってくれているのに、

誰もいないなんて言ってはいけない。


 雨竜君も雷堂も君に良くしているよ。

僕だって、絵里の事は友達だと思っている。


「絵里!それは……」 


 言葉の全てを言う前に、天狗さんが僕の肩を

掴んで止めてきた。

 

 それ以上は、お主が言うことではない。 と言いたいのだろう。


 僕は絵里の恋人でもないし、彼女の行動に

責任も持てない、ましてや三笠君のように全身で彼女を庇うことは出来ない。


 そんな僕が、助けに来てくれた天狗さんの

手を振り切ってまで、絵里に諭す言葉をかける覚悟は無かった。


「もういい、天狗ちゃん帰ろ」 紅美ちゃんは悲しそうに呟くと天狗さんは、

「諸君『ゲーム天狗放送室!』 チャンネル

登録をヨロシク! では、サラバだ!」


 なんて、ちゃっかり宣伝をして走り去ると、

紅美ちゃんも「さらばだ~」と言ってから


「まってぇ、天狗ちゃん服忘れてるよ~」と

2人のツナギを回収して、天狗さんの後を追って部屋から出ていった。


 去り行く天狗さんの姿に、山田くんは尊敬の念を込めて「カッコいい」 なんて言うけど、

山田君…………アレはただの変な人だよ。


「だけど、今回は助けてもらったな」


 なんだかんだ言っても、頼りになってくれる

天狗さんに心から感謝だよ。


 そんなこんなでライブは、最後メチャクチャになってしまい。


 その後も絵里は、ずっと泣いていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る