キャラクター付け

「西村大輔です、

ダイスケと呼んでください……」


呼び名、もしくはあだ名を紹介する

◯◯と呼んでください系も

どうもあまり好きになれない


名は体を表すと言うが

他者から見られたい自分というのが

そこに投影されている気がしてならない


カッコいい呼び名を希望する奴は

カッコいいと思われたいのだろうし、

カワイイ呼び名を紹介する奴は

カワイイと思われたいのではないか


中には笑いに走る奴もいるが

それはそれで

味があるいいキャラを

狙っているような気がする


よく言えばセルフプロデュース、

うがった見方をすれば印象操作、

手取り早いキャラの確立、

そんなところか


そしてそもそも根本的に

こいつらは自分のことが好きなんだろうな

そんな感じが透けて見える



「中学時代は、

みんなから暗いと言われて、

陰キャ、コミュ障なんじゃないかと

よく誤解されてました……

こんな自分ですがよろしくお願いします」


次の奴は自虐系だった


自分の心に素直に、正直に

自己紹介をするのならば

自分もこんな感じになるのだろう


だがこれはこれで勇気がいるし

一か八かの捨て身の勝負感が半端ない


底辺高校であれば即日、即決、

いじめがはじまってもおかしくない


これに類するものとして、

短所、欠点を紹介するパターンがある


場合によっては

自己紹介に課せられるお題として

『自分の長所と短所を言ってください』

と自己紹介に組み込まれていることもあるが


しかし、十五歳ぐらいの自己評価なんて

全くと言っていいほどあてにならないだろうに


いずれにしても自虐系自己紹介は

明らかに大きな

マイナススタートにしかならないので

自分としてはやる気にはなれない


ほっといてもその内

クラスでの評価は地に堕ちるのだ

はじめからそれ程までに

生き急ぐこともないだろう



「自分の家は寿司屋なので、

みんな今度食べに来てください」


実家の稼業というのは

キャラクター付けとしては強いかもしれない


「おぉー」


クラスの男子達が

寿司というキーワードに反応している


実際にその後、

彼の実家にクラスメイトが押し寄せ

彼はタダで寿司をおごらされることになるのだが、

それはここでは置いておこう



自己紹介はスムーズに進み

自分の順番がどんどん近づいて来る


緊張して口の中はカラカラだ


もうすでに他の人の自己紹介も

頭に入って来なくなりはじめている


自分が言うべきことを頭の中で考え

添削、推敲しているのだから

それは当然のことだろう


自己顕示欲、承認欲求はあるが、

自信を持って紹介出来るものが何もない

それが今の自分


下手に底が浅いもので

マウントを取ったところで

後で特大ブーメランが

返って来ることだけは知っている



前の席に座っている女子が立ち上がった

ついに次は自分の番ということになる


「私、この学校に入学するのを

すごく楽しみにしてました……


これから三年間、みなさんと一緒に

仲良くしていけたらいいなと思ってます……


みなさんどうぞよろしくお願いします。」


自己紹介であるにも関わらず

個人的な情報を一切入れず

パーソナリティの欠片も感じさせない内容


自分もそれしかないと思っていた


唯一の欠点は

内容が浅過ぎて、薄っぺら過ぎて

おそらく誰の記憶にも残らないだろう

ということぐらいのものか


間違いなく

みな聞いた瞬間に忘れるだろう


だが今の自分には

そんな当たり障りのない内容で

この場はお茶を濁すぐらいしかない


確実に自分より喋りが上手い

前の席の女子と同じ内容を

この後自分が言ったところで

超絶劣化版にしかならないが


入学早々こんなところで

揚げ足を取られたり、

ツッコミを入れられたり、

そんな悪目立ちはしたくない

そっちの方がよっぽど気分が悪い


前の女子による自己紹介が終わると

クラスには拍手が起こる


いよいよ自分の番が来た


席から立ち上がると

緊張で少し震えている自分が分かった





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る