夏至祭

田島絵里子

第1話 夏至祭をどうするか

 高くうめき声をあげ、高い熱を発するアンジェラ姫を、気がかりそうに見守りながら、部屋中を魔法使いや治癒師たちが右往左往している。

 姫が原因不明の病に倒れてから、一週間経った。国王も配下の臣民たちも、アンジェラ姫の病気を治そうと、ひたすら努力を重ねた。

 姫のベッドには毛布が敷いてあり、かけぶとんは二枚。ここは北国である。寒いのは、主としてアンジェラ姫の放つ夢の霧からの冷気であった。アンジェラ姫じたいは、高い熱を発していた。この国では夏至祭が来月に行われるのだが、もはやそれどころではなかった。

 ここは城の奥にある御殿。つまりアンジェラ姫の私邸。奥御殿と呼ぶ一画のなかには騎士や勇者たちばかりのいる『勇者の間』もあるが、ここはそのとなりの姫の寝室。国王や臣下たちは、一日おきに、ここへとまるのとむこうへとまるのとを、くりかえすことにしている。姫はその間、徐々にやせてきている。国王は怒り狂っている。、勇者たちは憔悴し、魔法使いと治療師たちは、なすすべもない病に絶望的なまなざしを交わしている。

 夏至祭を中止にするべきだ、という案を出したのは、ここに待機している勇者カイエルであった。国民たちが楽しみにしているこの祭りを中止にするのは断腸の思いではあったが、姫が病気になってしまった以上、国家の危機にのんびりと祭りなど、やっている場合ではない。カイエルは強い口調で弁をふるった。

 この北国では、夏至祭に訪れる夏の女神サクンタラ役を、国王の娘が演じることになっている。主役がいなくては、夏至祭をやっても意味はない。勇者カイエルの言うのも、一理あった。

 しかし、それに反対する人間も、もちろんいた。

 

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