どたばたプラットホーム
2000年代初頭に起きた超突発的時空交差により、近所の駅はすっかり壊れてしまった。リニアモーターカーが突然ホームに到着することは日常茶飯事で、ある時にはUFOが、またある時には蒸気機関車がやってくる。時間がずれまくっているのだ。
ではそれに俺の住む国の首都はどうしたかというと、どうもしなかった。
「え、ええとですね、はい、げ、原理的にはですね、そもそも同じ会社の電車がですね、時間通りに電車がですね、来ているということでありまして、これはもう好き嫌いの問題、外見が変わったのは勘違いでありましょうと、そういう見解であります」
そのような発表に皆がカンカンになって怒ったが、そもそもこれまで存在しない事態だったために皆も怒り方がわからず「まぁ満員電車解消と違って約束してたわけじゃないし……」となんとなく引き下がってしまった。俺も皆が怒らなくなったので、「そうかそうか」と引っ込んでしまった。
会社は会社で、「電車が動いているのだから必ず出勤するべきだ、当然だろう」という姿勢を崩さないので俺たち会社員は通勤電車新幹線リニアモーターカーUFOに至るまで何から何まで乗って会社へ行く。風邪であろうとインフルエンザでも俺たちは出勤するので当然の帰結だった。
会社は超時空フレックス制度により時間を超越した労働を働き方改革によって実現し、労働者がどのような出勤のズレが起きてもすべて労働の時間に回収させる制度を構築し対応した。どさくさに紛れてサービス残業が多発した。過労死した社員は時空の乱れが原因とされた。こんな時だけは仕事が早い。
実際のところ生活の一部になってしまうと慣れたもので、まれに時空の狭間にとらわれていつまでたってもトンネルから出て来ることが出来ず、数年単位の遅延に陥る者が出たりしたがそれ以外は何とか生活していた。
俺は朝からドタドタと改札にICカードをタッチして、ドタドタと構内に入っていく。腕時計を確認するといつもの電車がもう出てしまう!
俺は慌てて電車に飛び乗る。電車の形状はもう生活の中で考えようともしない。それより遅刻しないことが肝要なのだ。
はぁ、今日も電車に何とか乗ることが出来た、と思い電車の中を見渡すと巨大なイカがうねうねと車内をのたうち回っている。イカたちがつり革をつかみ、椅子に座っており、残念ながら明らかに人間ではない。腕時計を見ると時針と秒針がくるくると狂ったように回っている。
「どうやら俺は違う時空に来てしまったみたいだ」
時空間が更に壊れて時間軸が違うだけでなく、平行世界にまで突入し俺は元の世界に別れを告げてしまったらしかった。
これは参った言葉が通じるかもわからないぞ、と思っているとイカがうねうねと俺に近づき、全身をキラキラと輝かせ、キィィという音を立て始める。これはテレパシーだ、俺は直感した。この平行世界のイカはテレパシーでコミュニケーションを行うのだ。
きっと違う時空にやってきてしまった俺を案内してくれるに違いない。そう思い俺はイカのテレパシーに心の耳を澄ます。最初の内は良く理解できなかったがやがて言葉として認識できた。
『ここ女性専用車両ですよ』<了>
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