第30話



「どうですか? 思い出しました?」


「そこまではまぁ……でもその先は一体何があったんですか? どっちかって言うと、その先が重要なような……」


「そんなのご想像の通りですよ! 酔った大石さんが私を無理やり……」


 頬を赤らめながらそういう愛奈。

 しかし、大石はそんな愛奈の言葉に違和感を感じていた。


 (待てよ……もし、本当にそんなことがあったとするのなら、なぜ自分はパンツだけはしっかり履いていたのだろうか?)


 大石がそんな事を考えていると、下着姿の愛奈はコーヒーを飲みながらソファーでくつろいでいた。

 そんな愛奈に大石はかまをかけてみることにした。


「……あの、お聞きしてもよろしいですか?」


「はい? なんですか?」


「痛かったですか?」


「へ? 何がですか?」


「あぁ……いや、すみません……それもそうですよね、愛奈さんくらいの年齢だと初めてなんてことはありませんよね? いやぁー酔った勢いで愛奈さんの初めてを奪わなくて良かったです」


 大石がそう言うと愛奈は顔を真っ赤にして大石に言う。


「な、なな! 何を言ってるんですか! 私は大石さん以外の人とは……あっ……」


「ほぉ……じゃあ、なんでベッドのシーツは綺麗なんでしょうね」


「そ、それは……わ、私が掃除を……」


「はぁ……いい加減に正直に言ってください、何もなかったんでしょ?」


「うっ! ひ、酷い! 昨夜は私と燃えるような……」


「いや、もうそういうのは良いんで……じゃあなんで俺は下着でけきっちり着用してるんですか?」


「うっ……だって……大石さん酔っぱらって寝ちゃって起きないから……」


 頬を膨らませながら愛奈は大石に対して不満を口にする。


「いや、昨日も言いましたけど、自分は付き合った女性との初めての行為が酔った勢いなんて嫌だったんですよ」


「え……じゃ、じゃあ……その……酔ってなかったら良いんですか?」


 そう言われて、大石は少し頭を悩ませる。


 (お互いに大人だし、双方の同意があればそう言う事をしても問題はない。しかし、だからと言ってすぐにそういう行為に及ぶことは、体目的で付き合っていると誤解されないだろうか……)


 大石がそんな事を考えていると、愛奈は立ち上がり大石の元に来て言う。


「私は早く大石さんの物になりたいんです!」


「な、なんですか? その願望は……」


「昨日……その……正式にお付き合いする事にはなりました……でも、それってなんか口約束だけっていうか……大石さんの彼女っていう証拠が何もないっていうか……」


「つ、付き合うなんてそんなものじゃないですか?」


「で、でも私は欲しいんです……大石さんの彼女って言う証明が……だから……」


 愛奈はそう言いながら、大石に抱きつく。

 そして耳元で静かにささやく。

 

「早く私を……汚してください……」


 そんな愛奈の言葉に、大石は思わず顔を真っ赤に染める。

 そんな事を言われてもと思いながらも、大石は内心少しほっとしていたりする。


(マジでしたことないんだ……)


 昨日振った雪が積もり、空には大きな太陽が出ていた。

 大石は愛奈を抱きしめながら、今年の年末について考え始める。

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