第9話

「あの……何やってるんですか? 先輩」


「あぁ?」


 先輩に向かってそういった瞬間、俺は意外にも恐怖を感じなかった。


「なんだてめぇ?」


 この先輩がこの後俺に何をしてくるかは何となく予想が出来た。

 だが、不思議と俺はなんとかなるという確信があった。

 その理由は今でもわからない。


「いや、なんかヤバイ雰囲気を感じて……この子たち知り合いだったので、放っておくのも嫌だったんで」


「あぁ、別に何もしねーよ。だからさっさとどっか行けよ」


「あぁ、そうですか……じゃあなんで、こんなにこの子は怯えてるんですか?」


「うるせぇなぁ! 良いからあっちに行ってろっ!!」


 上級生の男がそう言った瞬間、俺の肩を押そうとしてきた。

 その瞬間、俺は上級生の男を避け、上級生の男の足を掛けて転ばせる。


「あぁ、すんません」


「てめぇ……下級生のくせにふざけやがって……」


「上級生の男が下級生の女の子を取り囲んで如何わしいことをしようとしてる方がふざけてると思いますけど」


「ふざけやがってぇ!!」


「やっちまおうぜ!!」


 上級生の男たちは俺を襲ってきた。

 しかし、格闘技をやっていた経験もあり、俺は上級生たちを一人、また一人と倒していった。

 こんな喧嘩しかしたことのない馬鹿に負けるわけがないと、俺はどこかでそう思っていた。

 道場やジムにはもっと強い人たちがたくさんいた。

 その人たちと比べれば、素人なんてどうって事なかった。


「うっ……なんだこいつ……」


「強い……」


 とうとう上級生が全員倒れた。

 見ていた上級生の女子生徒の方は最初はニヤニヤ笑っていたが、最後の方はどこかに逃げていた。

 気が付くと笹村達も居なくなっていた。

 まぁ、別に何かを期待して助けたわけではないので、別に良いのだが……。

 

「くぅ……覚えてろよ……」


「嫌っす」


 最後に俺は上級生にそう言って、その場を離れた。

 そして、俺はこの時のこの軽率な行動をどれだけ愚かな行為だったかと後悔する事になる。

 翌日、俺は生徒指導室に呼び出された。

 

「なんで呼ばれたかわかるか?」


「いえ」


「そうか……」


 まぁ、何となくわかってはいたが俺は先生に嘘をついた。

 大方、あの状況を見ていた友人達が先生に行ってくれたのだろうと思った。

 しかし、実際は全く違かった。


「お前……何もしていな上級生を殴ったって本当か?」


「え?」


「上級生が数人怪我をした、その原因がお前だと言っている……本当か?」


「いや、あれはあいつらが!」


「やったのかやってないかを聞いているんだ!!」


 なんでかよくわからないが、俺が無抵抗の上級生数人を殴って怪我を負わせたことになっていた。

 確かに怪我をさせたかもしれないが、それは笹村たちを助けるためだった。

 なのになんで……。


「見ていた笹村が証言していたぞ! なんでそんな事をした!」


「え……」


 その名前を聞いた瞬間から、俺は先生の話が頭に入ってこなくなった。

 笹村がなんで?

 助けたはずの友達から先生にそんな話をされていた。

 なんで、彼女がそんな事を?

 俺は全く分からなかった。

 先生に色々説明をした後、俺は教室に戻った。

 教室に戻ると何かいつもと雰囲気が違うことに気が付いた。

 みんな、俺と目を合わせてくれなかった。


「おはよう」


「あ、あぁ……」


「お、おはよう……」


 昨日まで仲良く一緒に帰っていた友人達も一切俺と目を合わせようとしない。

 一体何があった?

 俺がそんな事を考えていると、笹村がやって来た。

 

「おはよう」


「お…おはよ……」


 やっぱり笹村も様子がおかしい。

 一体どうしたのだろうか?


「なぁ、昨日は……」


「ごめん、私ちょっと用事があるから……」


 笹村はそういって席を立った。

 その日から、俺はクラスで孤立した。

 理由は上級生たちにあったことを俺は数日後に知った。

 あの上級生たちはクラスでも中心的な生徒たちだった。

 その上級生が俺に負けた腹いせで口裏を合わせて、俺を学校内で孤立させようと下級生達を脅していたらしい。

 あの上級生の女は笹村の先輩。

 笹村はその上級生に脅されたらしい。

 結果、俺は学校内で孤立した。

 ただ俺は、友人を助けただけなのに……。

 その友人からも俺は裏切られた。


「へへ、おいおいどうだ? ボッチになった気分は?」


「女の子助けてヒーローにでもなれると思ったかぁ~?」


 それから少しして、俺はまたあの上級生たちと対峙した。

 今度は直々に俺を校舎裏に呼び出した。


「……別に……その程度の関係だったってことだろ……」


 俺はもう、この時には他人を信じることが出来なくなっていた。

 自分以外は他人、他人を助けても俺には何も帰ってこない、損をするだけだと。


「そうかよ……あの時はよくもやってくれたなぁ……今回はあの時の借りを返させてもらうぜぇ!!」


 上級生たちはどこからか呼んできた他校の生徒と共に俺を襲ってきた。

 

「……どうせ孤立してんだ……なら、好き勝手やってやるよぉ!!」


 襲ってきた上級生は合わせて25人、俺はそいつらを一人で倒した。

 

「ば、化け物……」


「うるせぇな……」


 このことが噂になり、俺は本当に学校内でヤバイ奴になった。

 友人に裏切られ、化け物になり、俺は本物に嫌われものになった。

 そして、季節は春になり俺は中学二年になった……。

 

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