第7話
「ごめん……」
涙を浮かべる瑞樹に高志が絞りだした言葉は謝罪だった。
謝っても仕方ないのは分かっていた。
だから、高志からはこんな言葉しか出てこなかった。
瑞樹が落ち着き、泣き止むまで、高志は一言も発することは無かった。
「すいません、いきなり泣いてしまって……」
「いや全然」
「あの……彼女さんとは仲直り出来ましたか?」
「あぁ……おかげさまで」
「そうですか……良かったです。あの……」
「ん? どうかした?」
「いえ……その……もう八重さんはここには来ないのですか?」
「………瑞樹が良いなら……今度は紗弥と一緒に来るよ」
高志がそう言うと瑞樹は笑顔で高志に言った。
「はい! また来てください!」
そんな彼女の笑顔に高志はなんだか安心した。
*
「……この件に関しては大変申し訳ないと思っている」
「まぁ……別にもう言いですけど……」
「謝らないと瑞樹ちゃんが一生口を聞いてくれないからね……この通り謝ろう、すまなかった」
「どこら辺がこの通りなんですか?」
瑞樹と話た後、高志は瑞樹と瑞樹の父親、そして伊吹と四人で話をしていた。
場所を客室に移しており、瑞樹の父親は椅子にふんぞり返りながら高志にそう言う。
伊吹も瑞樹の父親の脇に立ちながら、高志を見下ろす。
「謝られてるのにこんなに不愉快に感じたのは初めてですよ」
「そうか、貴重な経験が出来たな」
「お父様、伊吹さん、真面目にして下さい」
「で、でもね瑞樹ちゃん!」
「あと、いい加減その呼び方はやめて下さい。気持ち悪いので」
「気持ちっ……ぐはっ!!」
「だ、旦那様!!」
瑞樹に気落ち悪いと言われ、瑞樹の父親は血を吐いて倒れた。
どうやら娘に罵倒されたことがショックだったらしい、そのまま気絶してしまった。
「はぁ……伊吹さん」
「は、はい!」
「貴方はなぜ八重様に謝罪しないのですか?」
「そ、それは……」
「貴方達のやったことは許されません。早く謝罪を」
「くっ……す、すみません……でし……ぐはっ!!」
「いや、なんであんたも吐血すんだよ! 俺に謝るのがそんなに嫌か!!」
「む、無念……」
「いや、無念じゃねーよ!!」
伊吹はそう言って、床に倒れた。
「はぁ……申し訳ありません、大人げない人たちで……」
「いや、もういいよ」
「それではお父様に代わってこれを」
そう言って瑞樹は札束を三束、高志の目の前に置いた。
「え? あの……な、ナニコレ?」
「示談金です」
「え!? いやいや、こんなの受け取れないよ!」
「八重さん、お父様と伊吹さんがやったのは脅迫です。罪に問おうと思えば問えるのです。私としては穏便にことを収めてほしいと思っています、ですのでこれを……」
そう言って瑞樹は札束を高志の方に近づける。
見た感じ、100万円分くらいありそうだった。
その束が三つで合計で恐らく300万円という大金が高志の目の前にあった。
「こ、これをと言われても……ゴクリ……」
今までに見た事がない額を目の前に出され、高志は息を飲んだ。
これだけの金があれば色々な事が出来るだろうと考えてしまう高志。
しかし、高志はお金を受け取ることは無かった。
「別に訴える気も何もないから、このお金もいらないよ」
「ですが!!」
「俺、友達とお金のやり取りするのってあんまり好きじゃないんだ。だから、これは閉まってくれ……」
「ですが、それではけじめが……」
「俺も瑞樹に嘘をついてたし、それでおあいこってことで良くないか?」
「それは、私に嘘をついていたわけでは……」
「良いから……それに一介の高校生にこの大金は必要ないよ」
高志はそう言いながら、置かれた札束を瑞樹に返す。
「じゃあ、俺はもう帰るよ」
「お帰りですか?」
「あぁ、待ってる人が居るからね」
「そうですか……それでは家までお送りしますね」
「あぁ、ありがとう」
高志は瑞樹の家の使用人の運転する車に乗せてもらい、家に帰ってきた。
「じゃあ、これで」
「はい、また……来てくださいね、こんどは彼女さんも一緒に」
「あぁ……じゃあね」
そう言って、瑞樹の乗った車は高志の家を後にした。
「お嬢様」
「なんですか?」
「いいお友達をお持ちになりましたね」
「えぇ……でも……なぜでしょう……良い友人のはずなのに……その関係が嫌だと思っている私が居るんです……」
「……お嬢様……それが失恋です」
「うっ……うっ……散々泣いたはずなのに……八重さんの顔を見ると……」
「……お嬢様……」
帰りの車の中、瑞樹はずっと泣いていた。
これまでの高志との日常を思い出しながら……。
*
「ただいま」
「あら、お帰り、ご飯は?」
「まだだよ、紗弥と食べてくるよ」
「そう? 紗弥ちゃんなら家に帰ってるわよ」
「あぁ、わかった」
家に帰り、高志は母親からそう聞くと、直ぐに紗弥に連絡を入れた。
電話をかけて直ぐに紗弥は電話に出た。
『もしもし? 帰ってきたの?』
「あぁ、飯でも食いに行こう」
『ん、分かった』
そう言うと紗弥は電話を切った。
高志は玄関で紗弥が来るのを待つ。
「そういえば……紗弥と飯食いに行くの久しぶりだな……」
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