第5話

「紗弥起きてくれ、俺が動けない……」


「ん~……もう少し……」


「じゃあ手錠を外してくれ」


「ん……それは無理」


「なんでそこだけハッキリ?」


 高志はため息を吐きながら、手錠のついた自分の腕を見る。


「はぁ……紗弥、一体どこに鍵を……」


 高志は紗弥が起きそうもないので、手錠の鍵を探すことに切り替え、紗弥の周りを探していた。

 

「確か……昨日はここに……」


 高志は紗弥が昨晩、自分の枕の下に鍵を隠していたことを思い出し、紗弥の枕の下に手を入れる。


「あれ? ないぞ?」


 手探りで鍵を探すが、枕の下にそれらしき物はなかった。

 高志はどこか別な場所に移したのかと考え、寝ている紗弥の周りを再び探し始めた。


「どこだ~?」


「んにゃ~」


 高志がカギを探していると、チャコが寝床から起き上がってやって来た。


「お前も起きたのか」


「にゃー」


 チャコは高志に近づき、高志の体に頭をこすりつける。

 

「なぁチャコ……鍵の場所とかしらないか?」


「にゃ?」


「知るわけないよなぁ……猫に何聞いてんだろ……」


 高志がそんな事を思っていると、チャコが急にベッドの上の方に移動し、ごそごそと何かをし始めた。

 

「……にゃ」


「え? 鍵? もしかして……」


 チャコは鍵を加えて高志のところに戻って来た。

 高志はもしかしてと思いカギを自分の手錠の鍵穴に差し込む。


「開いた……本当に知ってたのかよ……」


「にゃ」


「時々お前の中身は人間なんじゃないかって思う時があるぞ……まぁ、ありがとうな」


「にゃ~!」


「はいはい、餌な」


 高志はチャコからもらった鍵で手錠を外し、一階のリビングに向かう。


「ふあ~あ……早く準備しないと……」


 高志は顔を洗い、身支度を済ませながら、スマホでネットのニュースを見る。

 

「世間は年末か……」


 ネットのニュースには年末の準備で賑わうスーパーの様子や、実家に帰省する人であふれかえった駅などが写っていた。


「今年の悩みは今年のうちに解決しておかないとな……」


 高志がそんな事を考えながら歯を磨いてると、いきなり背後から誰かに抱きつかれた。

 一瞬びくっとした高志だったが、誰が抱き着いてきたのかすぐに分かり、冷静にその人物に声をかける。


「おはよう紗弥」


「ん……おはよう」


「どうした? 今日は朝から甘えてくるな」


「……鍵……どうやって見つけたの?」


「チャコが教えてくれたんだよ」


「……勝手に外すの……ダメ」


「いや、でももう少しで迎えが来るし……」


「う~……」


 紗弥は可愛らしく唸りながら高志の背中を抱きしめる。

 いつもならこんなわがままを言わない紗弥だが、この前の出来事が原因なのか、少し高志に対してわがままを言うようになっていた。


「行ってほしくないのか?」


「……だって……」


「すぐに帰ってくるから」


「……本当?」


「あぁ、本当だよ。今日は久しぶりに二人で何か食べに行こうか」


「行く!」


「じゃあ、少し待っててくれるか?」


「うん……わかった」


 紗弥はそう言うと高志の背中から離れた。

 そのスキに高志は紗弥の方に向き直る。


「もう、絶対に紗弥を裏切ったりしないから」


「……ん……」


「え?」

「……おはようのちゅーは?」


 高志を見上げながら、紗弥は高志にそういう。

 そんな紗弥を見た瞬間、高志は思わず自分の顔が熱くなるのを感じた。


「後で部屋でな……」


「ダメ! 今が良い」


 高志が紗弥からそんな事をせがまれていると、どこからともなく声が聞こえてきた。


「そうよ、今やっちゃいなさいよ!」


「全く、俺の息子なのに度胸がないな!」


 声の主は物影から隠れてみていた、高志の両親だった。


「あら? そこはお父さんそっくりよ」


「え!?」


「いや、親父もお袋も何やってんだよ!!」


「顔を洗いにきたら、息子が朝からなんかラブコメしててだな」


「出ていくに出ていけなくなっちゃったのよ」


「頼むから言ってくれ……」





 朝食を終え、高志は部屋で着替えをしていた。

 隣ではチャコが高志に出してもらったキャットフードに食らいついていた。


「朝からお前はよく食べるな」


「……にゃうにゃう……」


「食うのも早いな……」


 高志は着替えを済ませると、出かける準備をして玄関に向かう。

 すると、玄関では着替えを済ませた紗弥が座って待っていた。


「……行ってらっしゃい」


「うん、行って来るね」


「終ったら連絡頂戴」


「あぁ、必ず連絡するよ」


 高志は紗弥にそう言い、時計で時間を確認する。


「じゃあ、行って来る」


「うん」


 高志は紗弥に見送られながら自宅を後にした。

 外に出ると高志の家の前には見慣れた黒い車が止まっていた。


「時間通りですね」


「……良いから乗れ」


 運転席の窓を開け、瑞樹の家の執事である伊吹が高志に向かってそういう。

 高志は言われるがまま、車の後部座席に乗り込む。

 高志が乗ると車は目的地に向かって動き出した。


「……随分な怪我ですね」


「……こんなもの大したことはない、あの若造に伝えておけ、腕っぷしだけではこんな老いぼれにも勝てないと」


「言っておきますよ……でも、そう言ってる割には苦戦したみたいですね……その傷」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る