弔歌の子

鍋島小骨

イズリル ―龍神祭―

 どおん、と遠くから、太鼓の音が鳴り響いてくる。


 ――しゃーん、かっ、どおぉん。

 ――どおぉん。どおん。

 ――しゃーん、かっ、どおぉん。


 かねと笛と、老若男女の歓声と。

 陽光にきらめく賑やかな気配。


「エヒカ、行かないの?」


 同じの子が特に誘う風でもなくそう言って戸口を出ていく。どうせ行かないんだよね、と背中が言っている。

 私は黙って縫い取りをしている。


 龍神祭イズリルが始まっている。

 この乾期に行われる、国で最も大きなお祭りだ。家々から捧げものが集められ、龍神の分身とされる宝珠が輿こしに乗せられて街中を練り歩く。飾られた輿の後には真っ赤な天魚ウナの扮装をした神子たちが続き、雨粒や花のかたちのきれいな紙片やお菓子を撒いて回り、それを受け取って祭壇に飾るとその家は一年間無病息災と言われている。

 宝珠の輿は人々に恵みを与えて回ると広場の立派なおやしろに戻り、そこで雨花娘イェールカと呼ばれる少女が歌を捧げると龍神イズラが姿を表す。国一番の歌い手イェールカが命の限りの歌を捧げて龍神イズラの心を動かし雨がもたらされたという神話に基づく習わしだ。

 年に一度の祭。たったひとりの雨花娘イェールカ。毎年、国中の少女の中から、神話のイェールカと同じ十三歳で歌の得意な子が特別に選ばれる。


 私は、今年の龍神祭イズリルのためだけに生きてきた。


 今日、私の妹が広場の桟橋舞台に立つ。


 

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