Hop Step ブラックサンタクロース

氷山あたる

第1話 シャクシャクの城

 「ホップ」「ステップ」「ジャンプ」というものがある。その言葉は何を示し、自分達が何者であるのか、それを知ることになるのはまだまだ先のことであった。

 九月の気温の暑い夏の日、北海道の美幌町という場所に住んでいるネイルスタースミス家のシャクシャクという老人は、孫のトウとブータと狐のコンを連れて山登りをしていた。

 ネイルスタースミス・シャクシャクは老人で高伸長で白髭もじゃもじゃでお腹が出ている。短くて薄白髪が生えている。

 トウとブータは黒髪でマッシュヘアで兄弟である。兄のトウと弟のブータは身長以外はほとんど同じ容姿である。黄色の狐のコンはとても小さく二足歩行で歩ける。

「こうしてお前達とのんびりと山登りが出来るのも夏ぐらいじゃからな。冬になると忙しくてどこにも連れていってやれないからのぉ」

 シャクシャクは他の三人に言った。

「お爺ちゃんはサンタクロースだもんね」

 ブータはシャクシャクに言った。

「夏だってお父さんの畑を耕すのを手伝えばいいのに……全て一人でやらせちゃって……」

 狐のコンはふとそう思って言った。

「ねぇ、あの木にぶら下がっているのってなに?」

 トウは目の前にある木を手で指しながら言った。

「あれはコロッケの木じゃ」

「コロッケの木⁉」

 トウとブータは二人で同時に言った。

「へぇー」

 コンは関心していた。

「僕の大好きなコロッケ……」

「ブータはコロッケが大好きだったな」

 トウはブータに言った。

「うん、ねぇお爺ちゃん、コロッケを取ってよぉー!」

「ホッホッホッホッ、いいじゃろう!」

 四人は休憩をしてコロッケを食べた。そのあと再び、頂上まで登っていった。

「はぁ……はぁ……」

「頑張れ三人とも、ゴールはもう少しじゃ‼」

 そしてようやく頂上まで辿り着いた。

「うわぁ‼」

 トウとブータとコンは山から見える景色に魅了された。

「ホッホッホッホッ‼」

 四人は景色を見た。山の下はたくさんの畑があった。

「お父さんの畑が見えるよ」

「てゆうか、お父さんの畑しか見えないな」

トウはブータに言った。

「ホッホッホッホッ、この辺はアートの畑しかないからのぉ」

 アートとはシャクシャクの息子で、トウとブータの父親にあたる人物である。

「おいら達の住んでいる城も見えるよ」

 コンは城を見つけて言った。シャクシャクは美幌で唯一の公認サンタクロースである。そのためシャクシャクの仕事での信頼は厚く多くの収入を得ることが出来た。なので、シャクシャクは大きい家を建てることが出来た。美幌は城と言えるほどの大きな建物も少ないため、シャクシャクの家が出来た時は誰もが驚いた。家は大きいという理由だけで城と呼ばれるようになった。実際に城と呼ばれるだけの大きさはある。

 そのあと四人は山を下山した。降りる時も何度か休みながら下っていった。やがて自分達の住んでいるシャクシャクの城に到着した。

「城に着いた!」

 ブータは元気よく言った。

「はぁ……はぁ……疲れたよ!」

 トウは疲弊しながら言った。

「おいら喉が乾いたよ。水を……水をくれー!」

「ホッホッホッホッ、ゆっくりと休むがいい」

 四人は城の中へと入って休憩することした。


 季節は移り変わり秋となった。秋になると夏に登った山も紅葉が咲いて色が緑からオレンジと黄色になった。

 今日のトウとブータは城の近くにあるトナカイの小屋に来た。トナカイはシャクシャクが飼っている。サンタの仕事の時に一緒に仕事をする大事なトナカイである。トナカイは全て九匹いる。一匹は人と話すことが出来て、小屋のリーダーであるルドルフである。ルドルフは他のトナカイと違い、少しだけ大きくて真っ赤なお鼻をしている。ルドルフはシャクシャクのお気に入りのトナカイである。その他のトナカイの名はダッシャー、ダンサー、プランサー、ヴィクセン、コメット、キューピッド、ドナー、ブリッツェンという。八匹のトナカイは見た目が変わらずに区別が付かない。

「よお、二人とも来たか!」

 コンはトウとブータに言った。コンは普段はトナカイの小屋に住んでいる。小屋にはコンの他にシャクシャクとアートがいた。

「おう、どうした?」

 アートはトナカイに餌をあげながらトウとブータに言った。アートは黒髪でショートヘアである。城の周りにある畑は全てアートが一人で耕している。

「お父さん」

 ブータはアートに気付いて言った。

「ちょっとトナカイを見ようかなって思ったんだ」

 トウはアートに言った。

「なんじゃお前達、見学に来たのか?」

 シャクシャクはトナカイの部屋の掃除をしながら言った。トナカイはそれぞれ一匹ずつ小さな部屋に別れている。それぞれの部屋には名前も書いてあった。

「うん、ちょっと面白そうだから見に来たんだ」

 ブータはシャクシャクに言った。

「ねぇねぇお父さん、トナカイに餌をあげてもいいかな?」

「いいぞ、やってみるか」

「うん!」

「おっ、俺もやる」

「おいらも」

「ホッホッホッホッ、これは嬉しいな。お前達、これからもワシやアートが忙しい時に餌をあげるのを頼むぞ」

「よく言うぜ、餌やりなんてほとんど俺がやっているくせに……」

 アートはシャクシャクに言った。

「アートもよく言えたものだな。私にもよく働かせているくせに」

 突然トナカイのルドルフが話に入ってきた。

「おっ、お前が勝手にやっているんだろ!」

「ふっ、どうだかな……」

「おっ、おいらも手伝っているんだぞ」

 コンはアートに言った。その後トウとブータはトナカイに餌をあげた。

「……なぁトウ、ブータ、あとで俺の畑も見ないか?」

「えっ、別にいいよ俺は」

 トウはアートの申し出を断ろうとした。

「ぼく行ってみたいな!」

「おいらちょっと興味あるかも」

「おぉ、そうだろそうだろ!」

「……まぁ、二人がそう言うなら俺も一緒に行くけど……」

「じゃあ行こうか!」

 ブータがそう言うと、トウとブータとコンとアートはすぐ近くにあるアートの畑へと向かった。畑にはテンサイが豊富に実っていた。

「これはテンサイと言ってな、根を搾ると砂糖が取れるんだ」

「砂糖が取れるの⁉」

 ブータはアートに言った。

「あぁ、甘くて美味しいぞ」

「いやぁ、すごいな!」

 コンは畑に魅了された。

「これは、俺の畑の一部だ。他にもあのビニールハウスにはアスパラを育てているぞ」

「そうなんだ。知らなかった」

 トウはアートに言った。

「あと少し離れた所には小麦やジャガイモなど様々な野菜を植えているぞ」

「そんなに一人でどうやってるの?」

「一人ではない。小屋にいたトナカイ達にお願いして一緒に畑を耕している」

 四人が話していると雲行きが怪しくなってたいった。

「天気が怪しくなってきたな……」

 アートは空を見上げながら言った。

「トウ、ブータ、お前達は城の中に戻れ!」

「えっ⁉」

 トウとブータは二人で言った。

「どうしたの?」

 ブータはアートに言った。

「台風が近付いてきた……テレビのニュースではそんなことは言ってなかったんだが……」

 アートに言われてトウとブータは城の中に入ることにした。

「じゃあな二人とも」

 そう言うとコンはトナカイの小屋へと入っていった。コンと別れたトウとブータはそのまま城の中へ入った。

 しばらくすると強い風が吹き、大雨が降るようになった。


 トウとブータは台風の影響で外で遊ぶことは出来ず、城の中の調理室でエナンとアナンとイモ団子を作っていた。エナンは二人の母親である。パリオストロート・アナンはエナンの双子の姉である。エナンとアナンは茶髪混じった黒髪のロングヘアである。二人ともトウとブータと同じように見た目がそっくりである。トウとブータは身長が違うため区別がしやすい。だがエナンとアナンは身長もあまり変わらないため区別がつかない。唯一違うところはエナンは性格がおしとやかであるが、アナンは気象が荒いことである。

「そうそうそんな感じによく潰して」

 エナンはブータに言った。ブータは茹で上がったジャガイモが入っているボウルを棒を使って潰していた。

「ブータは上手だな」

 アナンはブータに言った。

「えへへ」

「頑張ってるかい?お兄ちゃんよぉ」

 アナンはトウに言った。

「うー、あんまりうまく出来ないなぁ……」

 トウはジャガイモを上手に潰せず苦労していた。

「ただいま!」

 玄関から突然アートの声が聞こえた。

「あら、お父さん帰って来たんじゃない?」

「二人とも行っておいで」

 アナンはトウとブータに言った。

「うん!」

 トウとブータはそう言うと、玄関に駆け寄った。玄関にはびしょ濡れになって帰ってきたアートの姿があった。

「うわっ‼すごいびしょ濡れ……」

 トウはアートの姿を見て驚いた。

「大丈夫?」

 ブータはアートに言った。

「……あぁ、いま全ての畑に防風ネットを張った。これでなんとかなるだろう」

「……いや、お父さんの体の方が心配だよ」

 トウはアートに言った。

「大丈夫だよ。ネイルスタースミス家は、代々と丈夫な体を持っているからな」 

「なんだそれ……」

 次の日、台風は過ぎ去り晴天となった。アートは急いで城の外を飛び出した。トウとブータとコンも一緒に付いていった。

「ああぁぁ‼俺の畑が……」

 アートはしゃがみこんで落ち込んだ。畑の防風ネットはどこかへ飛ばされていた。畑の作物は台風によってほとんどやられてしまった。

「お父さん……」

 ブータはアートの近くに駆け寄って寄り添った。トウとコンは畑の酷い荒れようにただ漠然と黙って見ていた。

 畑の様子を後からシャクシャクとルドルフも確認した。

「……これは他の畑もとんでもない被害じゃぞ」

「……もしかすると今年のサンタの仕事は出来ないかもな」

「……」

 シャクシャクは黙りこんで思い悩んでしまった。


 次の日、トウとブータとコンはトウの部屋でUNO(ウノ)をしながら遊んでいた。

「お父さん、そうとう落ち込んでいたね」

 ブータはトウとコンに言った。

「なんとか慰めてあげたいな」

 トウは思い詰めた表情をしながら言った。

「心配ないと思うよ」

「どうして?」

 ブータはコンに言った。

「お父さんはポジティブシンキングが得意だから」

「たしかに」

「……まぁ、無理にこっちが何かしない方がいいのかもな」

 トウはブータとコンに言った。

「そうだよ。そんなことより今はUNOを楽しもうぜ!」

「うん!」

 ブータはコンに言った。三人はUNOをして楽しむことした。

「……トウは弱いな」

 コンはトウに言った。

「そんなこと言うなよぉ。泣いちゃうぞ」

「いや、お兄ちゃんなんだから泣くなよ」

「偏見はよくないよコン」

 ブータはコンに言った。

「えっ、そういう問題なの⁉」

「もう一回!ねっ?もう一回お願いします!」 

 トウはブータとコンに言った。

 三人がUNOで楽しんでいると部屋が急激に寒くなりだした。

「……なんか急に寒くなって来たんじゃないか?」

 コンは体をガクガクと震えさせながら言った。

「本当だな。なんでだろう?」

「雪だ‼」

 ブータは窓からの景色を見ながら言った。そのあとトウとコンも一緒に窓の景色を見た。

「うわあぁ‼」

 トウは雪に驚いた。

「今年は降るのが早いな」

 コンはひとり呟いた。

「もうすぐ冬か……」

「クリスマスだね。サンタクロースの出番だね」

 ブータはトウに言った。

「お爺ちゃんも忙しくなるな」

 コンはシャクシャクのことを言った。

 三人はしばらく窓から雪が落ちるのを見ていた。


 季節は移り変わり冬となった。美幌はすっかりと雪が積もった。山の色は真っ白へと変貌した。城の外では陽気に遊ぶトウとブータとコンの姿があった。外はすっかりと雪が積もっていた。三人の遊びは決まって雪遊びである。今日は雪だるまを作っていた。

「お兄ちゃん、雪だるまが完成したよ」

「俺も完成したぜ!見よ、今世紀最大のウルトラスーパーロボだるまだ!」

「おいらのは狐型だぜ!」

 コンは自分の容姿と同じような狐の形をした雪だるまを作った。

 三人は充分と言えるほど個別で雪だるまを作り終えると、最後に三人で共同で作りかけている巨大なサンタの雪像を作ることにした。そしてついに、巨大なサンタの雪像は完成した。

「……じゃーん完成したぜ‼」

「ついに完成したね‼」

 ブータはトウに言った。

「いやぁ、何日かかったことやら……」

 コンはトウとブータに言った。

 巨大なサンタの雪像は、雪が積もった所を削って作成したものである。三人はこの雪像を作るのに、普通の雪だるまを作る時には使用しないシャベルを使用している。

 三人はしばらく完成した巨大なサンタの雪像を見ていた。

「俺はいつかサンタクロースになってやるぜ‼」

「僕もなる‼」

「おいらは立派なトナカイになる‼」

 三人は将来なりたいものを巨大なサンタの雪像に向かって叫んだ。

「コンって何で狐なのにトナカイになりたいの?」

 ブータはコンの将来なりたいものに疑問を抱いた。

「やっぱりルドルフさんみたいなトナカイに憧れたからかな」

「そうなんだ」

 それから三人は遊びが終わるとトナカイの小屋に行って餌をあげに行った。

 作った雪だるま達はそのまま取り残されてしまった。雪だるまは毎日作っても何日か経つと無くなっていることがほとんどだった。それは小動物に壊されるか、風で少しずつ削られていくかである。

 しかし三人は悲しむことはなかった。三人の興味の移り変わりは激しく好奇心旺盛であった。

「お父さんがみんなに餌をあげといてって言ってたから食べさせに来たよ」

 トウはトナカイの小屋にいる八匹のトナカイに向かって言った。すると八匹のトナカイは一斉に「ありがとう」と吠えた。

「おーよしよし、たくさんお食べ‼」

 トウが一匹のトナカイに餌を与えながら言った。

「そういえば、もうすぐクリスマスシーズンだね」

 ブータはトウとコンに言った。

「今年は何がもらえるのかな?」

 コンはクリスマスに貰えるプレゼントが何か気になった。

「僕ね、新しいオモチャがほしいな。お兄ちゃんは何がほしいの?」

「俺は自分のソリがほしいな」

「コンは何がほしいの?」

「おいらは特にないな。毎年トナカイ達から牧草のふかふかのベッドを与えられるだけで満足だよ」

 三人が話をしているとトウはあることを思い出した。

「そう言えば、お母さんが今年のケーキは凄くでかい物にするって言ってたよ」

「やったー、楽しみだ‼」

 ブータは物凄い勢いで跳ね上がって喜んだ。そしてブータはトウと同じようにあることを思い出した。

「ねぇねぇ、そろそろお爺ちゃんが帰ってくる時間じゃない?」

「あっ、ほんまやな」

 三人が遊んでいる時、シャクシャクは、町に行って資材の調達に行っていた。ルドルフがソリを引いて空を飛んでいた。

「もうすぐ着くな」

 シャクシャクはルドルフに対して言った。目の前には城が小さく見えていた。

「あぁ、そうだな」

 荷物はソリの後ろに置いてあり、白の袋に入れてある。いつものシャクシャクはサンタクロースの赤い服装をしているが、今日は違った。今日はサンタの仕事とは別の用件であった。 

 シャクシャクとルドルフは二人で会話することが楽しい。

「なぁシャクシャク、明日のサンタクロース会議だが、台風の影響で作物がやられている。やはり今年のサンタの仕事は経済的にも厳しいのではないか?」

「何を言うか、お金が理由でサンタクロースがやれないなんて、そんな理由で子ども達は納得すると思っているのか」

「しかしシャクシャク、去年のサンタクロース会議では町の借金は膨大していると言う報告が上がっている。この状態だと赤字が膨らむ一方で町の復興に役立たない。何のためのサンタクロース事業だ」

「ワシは公認サンタクロースじゃ。たとえ理由が何じゃろうとワシのことを待っている子ども達にプレゼントを届けにいくのみじゃ」 

 シャクシャクとルドルフは今年のサンタの仕事について話している。ルドルフが言うには、今回のサンタの仕事は難しいという。

 二人は話しているうちに城の近くまで来てしまった。ソリは鈴を鳴らしながら城の方に下降し着陸した。


 ソリが着陸すると、シャクシャクはトナカイ達が住んでいるトナカイの小屋に向かった。そこでソリとルドルフをトナカイの小屋に置いた。その後シャクシャクは白い袋の荷物を持って城の中に入った。

「おーい、戻ったぞ‼」

「お帰りなさい」

 シャクシャクが城の玄関に着くとトウとブータとコンがやって来た。

「お土産がある。ほら、コロッケの木から取れたコロッケだ」

「わーい、コロッケ大好きだ‼」

 ブータは三人の中で一番喜んだ。

「おいらはママさんが作った手作りコロッケのほうが好きだけどな」

「じゃあコンは食べないの?」

「誰も食べないなんて言ってないわ」

 コンはブータに言われたことを否定した。二人のやり取りを見ていた。トウはシャクシャクに質問をした。

「ねぇお爺ちゃん、今年のクリスマスはどんなことをするの?」

「去年よりも壮大なイベントにするつもりじゃ」

「俺もプレゼント配りに付いていってもいいかな?」

「駄目じゃ、サンタの仕事はやりがいはあるけど、危険が伴う仕事なんじゃ。お前にはまだ早い」

 トウに言われるとシャクシャクは即答で拒否した。シャクシャクが子ども達と話していると、アートがやって来た。

「ん?何の話してるんだ?」

「お父さん、お爺ちゃんがサンタの仕事をやらせてくれないんだよ」

 トウは先程のシャクシャクが拒否した件についてアートに言った。

「あー、トウはサンタの仕事がやってみたいのか……」

「僕もやりたいよ」

 隣で聞いていたブータはアートに言った。

「そうか……でも焦る必要なんてないじゃないか。大人になったらやれるよ」

 アートはブータに一言話すと、再びトウに話した。

「でも、お父さんはサンタクロースになってないじゃないか」

「俺はならなかったんだよ。サンタクロースはよりももっとやりたいことがあったんだよ」

「そうなんだ。やりたいことってなに?」

 アートは少しだけ離れて全員が平等に聞こえる場所に移動した。そしてアートは振り返ってこう言った。

「農業だよ。この自然な大地に俺の作った作物を実らせていきたいんだ‼」

 アートは農業の話になると強く語り出した。アートの農業に対する熱意は、家族は耳にたこが出来るぐらい聞かされていたので飽きられていた。

「あっ、でも……今年は……」

 アートは座り込んで落ち込んでしまった。

「……まぁ、自分のなりたいものになるのが一番じゃ。じゃがお前達はまだまだ若い。だから、たくさん勉強してからでも遅くはないはずじゃ」

「うん……」

 シャクシャクが話をまとめてしまって、その場の話が終わってしまったが、トウは納得していなかった。

「はいはい、おしゃべりはそのへんで終わらせてさっさと食事の準備を手伝ってくれよ」

 母のエナンが調理室からやって来た。

「アナン、シチューをかき混ぜといておくれ‼」

 エナンは調理室にいるアナンに向かって叫んだ。

「わかってるわよ。全く人を何だと思っているんだか……」

 アナンが独り言を言っているとエナンとが調理室に戻って来た。

「何か言ったかい?」

「いや別に……」

 アナンはエナンが調理室にすぐに戻って来て独り言が聞かれたので、少しだけ黙りこんでしまった。

「じゃあ、おいらもそろそろトナカイの小屋に戻るわ」

「おう、またな」

 トウが返事をするとコンはトナカイの小屋に戻っていった。

 玄関に残った四人は城の中に入っていき、

食事の準備をすることにした。そして全員で食事の準備を済まして料理を囲んだ。

 食堂には大きな長方形のテーブルがおいてあり、各席にはシチューが置いてある。テーブルの真ん中にはたくさんのオードブルも置いてある。

「全員揃ってるね⁉」

「うん‼」

 アナンは席に座っている全員に聞こえるように言うと、ブータが返事をした。 

「ヘイナス‼」

 全員でいただきますの挨拶をした。ネイルスタースミス家はサンタクロース一家でもあるため、食事の挨拶は独特のものである。ごちそうさまの挨拶はリーグスである。

 みんなでサンタの仕事の話をしながら食事をしている。

「そういえばお父さん、明日はサンタクロース会議じゃないか?」

 アートがシャクシャクに言った。

「そうじゃ。朝の九時から町民会館で開かれる」

「今年ってサンタクロースの仕事できるの?この前の台風の影響で畑の被害も酷かったのに……」

トウはシャクシャクの言ったことを否定した。

「そうよね。家の畑もほとんどやられちゃっている」

「何で畑がやられるとサンタの仕事が出来ないの?」

「畑がやられると野菜が採れなくなるんだ。野菜が採れないとサンタの仕事に使うお金も作れないんだよ」

 アナンはブータにわかりやすく説明した。

「じゃあ今年のサンタの仕事は出来ないんだね……」

 ブータの発言が終わると食卓から会話が無くなった。食堂から聞こえるのはシチューをすすぐ音とスプーンが皿に当たる音しかしなかった。しばらくは食事を黙々と食べていた。しかしシャクシャクだけは食べずにただ黙っていた。すると突然シャクシャクが話し出した。

「出来るぞ‼」

 シャクシャクが言うと一斉に全員がシャクシャクの方を向いた。

「うんやろうよ‼」

 他の人が黙っていたなか、ブータは椅子から立ち上がって言った。

「ブータ座りなさい!」

 アートに言われるとブータは再び座った。

「お父さん、現実的に考えてくれよ。今年はサンタの仕事が出来るわけないじゃないか」

「いいや、やれるさ。毎年クリスマスにサンタクロースがいなければ何のためのサンタクロースだと言うのだ」

「うん、できるよ‼」

「ブータ黙ってなさい‼」

 ブータは再び立ち上がって言ったがエナンに言われて再び座った。 

「お父さん、あなたがサンタクロースをやりたい気持ちはわかるけど、協会から許可が降りないとやれないのよ」

 普段はおしとやかなエナンも今回ばかりは強めな態度だった。

「全員を説得させる!」

「そんなの無理に決まっているじゃない!」

「いいや出来るさ‼」

「絶対に無理よ‼」

「やめて、もうたくさん。せっかくの料理が駄目になっちゃうわ。そんなにサンタの仕事がやりたいなら一人でやりなさいよ‼」

 シャクシャクとエナンが口論のなかアナンが言った。

「そんな言い方はやめろ‼」

 アートはアナンに向かって言った。

「喧嘩しないでよ‼」

 ブータが親達に向かって言うと、周りは静かになった。

 口論の時にトウはほとんど喋ることはなく、ただ黙って見ていた。口論は収まったが、その後はとても気まずい空気の漂う食卓になってしまった。


 毎年クリスマスシーズンになるとサンタクロースはサンタクロース事業を行う。サンタクロース事業というのは、子ども達にクリスマスにプレゼントを送る福祉事業である。シャクシャクもサンタクロース事業を行う人物の一人であった。美幌では過疎化による人口減少を解決しようと、福祉事業に基づいて団体でサンタクロース事業を展開するようになった。

 次の日の朝の九時からサンタクロース会議があるため、シャクシャクは時間に間に合うようにサンタの服装に着替えた。赤の帽子を被り赤の衣装を着飾った。白の手袋をはめて白の大きな袋を持ってソリに乗った。トウとブータとコンはソリの近くまで来て見送ろうとしていた。

 ソリを運転するのはルドルフであった。ルドルフ以外のトナカイは八匹いるが、大がかりな仕事以外はシャクシャクは呼ばないようにしている。

「準備はできてるぞ」

 ルドルフはシャクシャクに言った。

「では行くとするか」

 シャクシャクはソリに乗り込んで、紐を引っ張った。

「飛行‼」

シャクシャクが叫ぶと、ルドルフとソリが空に浮かびだした。

「では行ってくる」

「いってらっしゃい‼」

 トウとブータとコンは大きな声で一斉に合わせて言った。

 シャクシャクを乗せたソリはルドルフが引っ張って一瞬で遠くに飛んでいってしまった。ソリからは鈴の音が聞こえていた。

 ソリは瞬く間に美幌にある町民会館に着いた。町民会館の駐車場に降りてルドルフとソリを置いた。そしてシャクシャクは町民会館の中に入っていった。

 シャクシャクは会議室に移動すると、三十名ほどのサンタクロースがそれぞれソファに座っていた。中にはシャクシャクとは異なる様々なサンタの服装をしている者がいた。

「これで全員だな」

「ではこれより、サンタクロース会議を始める」

 司会者となる人物が全員が来たことを確認すると別のサンタクロースが会議を始める宣誓をした。

 サンタクロース会議では司会者が予め決められている。この司会者がリーダーとなる存在でリーダーは毎年代わる。シャクシャクがリーダーをやることもある。

 美幌で行うサンタクロース事業は福祉事業で働いた分だけ町から報酬が得られる。歩合制でもある。

 シャクシャクは特にサンタの仕事での信頼も厚いため、多くの仕事を得られる。これがシャクシャクがお金持ちな理由である。

「あー、今回のサンタの仕事だが……」

「はい、私が説明します。お手元にある資料を見てください」

 司会者が話そうとすると他のサンタクロースが進行した。他のサンタクロースは手元にある資料を見始めた。

「それぞれ六つのグループに分けたいと考えています。四つのグループは町内活動で、二つのグループは事業拡大のために町外活動を行います。町内はそれぞれ学校、福祉施設、病院、その他の住宅に行きます。町外は津別町と大空町に行きます。そして、具体的な予算ですが……」

「あー長くなりそうだからもういい!」

司会者は突然話を遮った。他のサンタクロースは司会者の方を見た。

「……みんなもわかっているとは思うが、今年はサンタの仕事はやらない。いや、やれない‼わかるだろう……」

 司会者の一言に周りはざわめき始めた。

「やっぱりな」

「私の思った通りだ」

「会議をやる必要なんて最初からなかったんだよ」

 何十人もの様々な小声が聞こえてきた。唯一シャクシャクのみが何も語らずに黙っていた。シャクシャクは頭の中で何かを考えていた。

 他のサンタクロース達が立ち上がって帰ろうとする時、シャクシャクがいきなりテーブルを拳でドンと叩いた。その大きな音に周りは反応し静かになった。全員がシャクシャクを見た。

「……ワシは今年のサンタクロースをやりたいと考えておる。誰かワシの他にやりたいというものはおらんか⁉」

 シャクシャクの予期せぬ発言に周りのサンタクロースの頭の中は疑問を抱いた。

「……シャクシャク、お前にわかるようにきちんと説明してやるよ。今年はな、お金がもうないんだよ!この前の台風の影響では作物が駄目になっているんだ。これでは予算をサンタの仕事に回す余裕なんてないのだよ‼」

 一人のサンタクロースはシャクシャクに丁寧に説明した。

「……そんなことはわかっておるわ。じゃがお金がなくたってサンタクロースはやれるじゃろ?子ども達に大切なことはなんじゃ?お金よりも愛のはずじゃろ?」

 他のサンタクロースはシャクシャクの発言にまたしても疑問を抱いた。

「……何を言ってるんだシャクシャク、たしかに愛が大事だ。それはみんなそう思っているよ。だが、愛を手に入れるためには物を買うためのお金が必要じゃないか!」

「何も新品の物を買う必要なんてないじゃありませんか。地域のボランティアクラブでは手作りで作っているクッキーやぬいぐるみがあるじゃあありませんか」

「バカ者、子どもがそんな中古の品物をもらって喜ぶと思うか?子どもはな、新品の品物がほしいんだよ」

 司会者は別のサンタクロース達とシャクシャクのやり取りに口を挟んだ。シャクシャクは言い返せなくて黙ってしまった。

「それに人件費はどうする?まさか無償ではあるまいな?」

 司会者はシャクシャクに言った。

「そのまさかじゃよ。全員じゃなくてもいい。誰かワシとやりたいって言う者はいないのか?」

 シャクシャクは周りを見渡したが誰もやりたいと言う者は現れなかった。

「……なんじゃ誰もおらんのか、お前達は子どもを喜ばせたいという気持ちがないんか‼」

 シャクシャクは怒鳴り口調で言った。

「……別にやりたくないわけじゃない。ただ無償となると話は別だ‼」

 一人のサンタクロースも強い口調でシャクシャクに言った。

「……みんな家族の時間を大切にしたいのですよ。あなたにも家族がいるでしょう。今年ぐらいは家族とゆっくりクリスマスを迎えるのも悪くないのではないですか?」

 一人の冷静なサンタクロースは、その場を抑えようと穏やかな口調で言った。

「シャクシャク、一人だとサンタの仕事をやらせるわけにはいかないよ」

 司会者はシャクシャクに言った。

「……ならば、ワシは家族でサンタの仕事をやる!」

「えっ⁉」

 周りのサンタクロースはシャクシャクの発言に驚いた。

「……たしかお前さんの息子は農家一筋で、サンタの仕事はやらないと言ってなかったか?」

「いやいや息子のアートには頼まんよ。ワシの二人の孫はな、将来はサンタクロースをやりたいと言っているんじゃ。この機会にやらせてみようと思う」

 他のサンタクロースはシャクシャクの提案についてこれ以上何も言うことはなかった。

「……話はまとまったな。今回はサンタの仕事はしない。やりたいやつは勝手にやってくれ。ただし報酬は出ないぞ。以上、解散‼」

 司会者が言うと周りのサンタクロースは立ち上がって帰宅し始めた。シャクシャクも帰ろうとすると司会者が近づいてきた。

「シャクシャクよ」

「なんじゃ?」

「勝手にやるのは構わんが、くれぐれも無茶はするなよ」

「わかっておるわ、気遣いに感謝する」

 シャクシャクが司会者に言った後ルドルフとソリが置いてある駐車場に移動した。そしてソリに乗って城に戻っていった。

 こうして今回のサンタクロース会議は幕を閉じた。


 シャクシャクがサンタクロース会議に行っている頃、トウとブータとコンはトウの部屋にいた。

「お爺ちゃんどうだったかな?」

 ブータはシャクシャクのことを心配していた。

「どうだろうな」

「もし今年のサンタの仕事がなくなったらクリスマスは壮大に盛り上げような!」

「そうだな」

 コンのアイデアにトウは賛同した。

「ねぇそんなことよりさ、外に行って遊ばない?外はすごく晴れていて気持ち良さそうだよ!」

 ブータが窓から漏れている光に気付き、窓からの景色を見て外が暖かそうだと思った。

 ブータに言われるとコンとトウも窓から外を見た。

「ほんまやな」

「外に行って遊ぶか‼」

 トウがそう言うと、三人は部屋から出て城の外に出ようと廊下を歩いていた。すると逆方向からアートがやって来た。

「外に行くのか?今日は昼から吹雪くそうだ。あんまり長くは遊べないぞ」

「えっ、さっきまで晴れてたのに?」

 トウはアートに言った。

「最近は異常気象で予測できないんだよ」

「じゃあ今日はもう城からは出れないね……」

 ブータは悲しい表情をしながら言った。三人は城の外で遊ぶのを諦めて、再びトウの部屋に戻った。

「何か楽しいこと起きないかな」

コンが窓から外を眺めながら言っていると、誰かが城に向かって歩いている姿が見えた。

「なぁ誰かくるぞ」

 コンは後ろを振り返りトウとブータに伝えた。二人も窓から覗いて確認した。そして三人は城の外に出て、城に向かって来る人の所に向かった。幸いなことに雪はまだ降ってはいなかった。

 城にやって来た人は、シャクシャクと同じぐらいの身長で黒いマントを羽織っている老人である。老人の名前はトントン・マクート。マクートは痩せていてショートヘアの黒髪をしており髭は生えていない。出身は室蘭である。

「……失礼、若いの、シャクシャクはいるか?」

 マクートは三人に向かって話した。

「シャクシャク?あー、お爺ちゃんのこと?お爺ちゃんは今はいないよ」

トウはマクートに言った。

「……そうか」

「お父さんならいるよ。お父さんを呼んでくるよ。ちょっと待ってて!」

「あー、いや、呼ばなくていい。シャクシャクに用があるだけだから。いないなら帰るわ」

 トウが城に戻ろうとするとマクートが話し掛けて止めた。

「お爺ちゃんは今ね、サンタクロース会議に行っているよ。お爺さんってお爺ちゃんのお友達?」

 ブータはマクートに言った。

「そうだ。私はシャクシャクの古い友人だ。遠いところから来たサンタクロースだ」

「へぇー、そうなんだ。僕達ね将来サンタクロースになりたいんだ!」

「なに、本当か⁉」

「うん」

 マクートと話をしていると少しずつ雪が降り出してきた。そして風が強まっていき吹雪が吹き出してきた。

「……お爺さん⁉」

 トウはマクートに言った。マクートは真下を向いて頭の中で何かを考えていた。

「……だったらこれからはライバルだな」

「…えっ?」

 ブータはマクートの発言に驚いた。

「ライバル?」

 トウがそう言うと、マクートは後ろを振り返り立ち去ろうとする。

「私はそろそろ失礼するよ。では、また来る」

 マクートは吹雪の中に消えていった。三人はただ立ち去る姿を見るだけだった。

「……あの人また来るって言ってたぞ」

 コンが二人に言った。

「あぁ、何か嫌な予感がするな」

「あれ?そう言えば、あの人の名前を聞いてないよ」

「あっ、いけない!そうだったな。まぁいいか」

 マクートがいなくなった後しばらくると吹雪はさらに強まっていった。

「あなた達、風邪を引くから早く城に戻りなさい‼」

 外に出ている三人の姿を確認したエナンは、三人に声を掛けた。

 エナンに言われると、三人は城の中に入ることにした。そのあと三人はトウの部屋に行って遊ぶことにした。


 昼過ぎになると吹雪で窓からは何も見えなくなっていた。そんな中、シャクシャクは城に戻って来ることが出来た。玄関にいるシャクシャクをトウとブータとコンは迎えに行った。シャクシャクの頭には真っ白な雪が乗っかっていた。シャクシャク頭に乗っかっている雪を玄関で雪を取った。

「いま帰ったぞ!」

「おかえりなさい‼」

 トウとブータとコンが三人で言った。

「よくこの吹雪で帰って来れたね」

 トウはシャクシャクに言った。

「まっ、ワシは不思議な力を持っておるからな」

「ねぇ、それよりさ、どうだった会議?」

 ブータはシャクシャクの不思議な力の話よりサンタクロース会議の内容について知りたかった。

「……今年はみんなではやらないことになったわ」

「……やっぱり中止になったんだね」

 トウがシャクシャクに言うと落ち込んでしまった。

「残念だね」

 トウに釣られてブータも落ち込んでしまった。

「まてまて慌てるでない。みんなでやらなくなっただけじゃ」

「どういうこと?」

 まだ落ち込んでいなかったコンが言った。

「今年はやりたい人がやるということになったのじゃよ」

「へぇー、そうなんだ!」

 先程まで落ち込んでいたブータは、すぐに元気を取り戻してから言った。

「何だそれ?」

 ブータに釣られてトウも元気を取り戻してから言った。

「そこでどうじゃ、お前達もサンタの仕事をやってみないか?」

「えっ、いいの⁉」

 トウはシャクシャクに言った。三人は驚いた。

「あぁ、今年はかなり盛大にクリスマスを盛り上げていこうではないか」

「ありがとうお爺ちゃん」

「ありがとう」

 トウがお礼を言った後にブータもお礼した。二人ははシャクシャクに抱き付いた。コンはそれを見て穏やかな気持ちになった。「ホッホッホッホッ‼」

 三人が喜ぶ姿が嬉しかったのでシャクシャクは盛大に笑った。

「では来週の火曜日にやるとしよう。そこでお前達に一つ頼みたいことがある」

 シャクシャクは抱き付いている二人を離してから言った。

「なに?」

 ブータがシャクシャクに言った。

「実は子ども達に配るプレゼントなんじゃが、お金を使わないで集めたいのじゃ。ワシは地域ボランティアの人と話をしてプレゼントを集めたいと思う。お前達は物置部屋にある物で、プレゼントになりそうなものを集めてくれないか?」

「わかった‼」

 トウとブータが返事をすると、すぐさま物置部屋に行こうとした。

「おーい、おいらも手伝うよ‼」

「ホッホッホッホッ、じゃ、では三人でやるがよい」

 コンも二人と一緒に物置部屋で探すこにした。

「よし、じゃあ三人で物置部屋に行ってみよう!」

「おう‼」

 トウの掛け声と共にブータとコンは返事をし、物置部屋に向かった。シャクシャクは楽しそうな三人の姿に見とれていた。

「そう言えば、お爺ちゃんに何か言うことなかったっけ?」

 トウが立ち止まり、ブータとコンに言った。

「さぁ……忘れちゃったよ」 

「そんなことより早く行こうぜ」

 コンが言うと、再び物置部屋へと向かっていった。三人は来客したマクートのことを忘れてしまい、シャクシャクに伝えられなかった。


 トウとブータとコンは、サンタの仕事で使うプレゼントを探すため物置部屋に向かっていた。

「おいら、城の中のことあまり詳しくないんだよね。物置部屋に行くのなんて始めてだわ」

「えー‼コンってずーとお爺ちゃん達と暮らしてたんでしょ⁉それなのにわからないの⁉」

 ブータは驚いた。

「おいらは普段はトナカイの小屋に住んでいるからな」

 三人は物置部屋のある大きなドアの前に着いた。

「よし着いたぞ。この部屋だな。俺も入るのは久しぶりだ」

「僕も久しぶりだ」

「おいらなんかわくわくしてきたぞ!」

 トウはドアを開いた。中は綺麗に整理整頓されていた。たくさんの段ボールと、たくさんの本が本棚にいっぱいあった。

「色々置いてあるなぁ。どれをプレゼントにしていいのかな?」

 トウは部屋に置いてある段ボールを一つずつ開けながら言った。

「大切な本とかは流石にあげられないよね。僕達が使わなくなったオモチャとかあげるといいんじゃないかな?」

「そりゃいい考えだ。おいらもトナカイの小屋で使わなくなった物があれば持ってこようか?」

「……いや、トナカイの小屋で使わなくなった物なんてたかが知れてるだろう」

「あっ……」

 コンはトウに言われて気付いた。

「ここには大事な物しか無さそうだな。とりあえずこのオモチャでいいんじゃないか?」

「そうだね」

「なぁ、隣にも部屋があったよな。そっちも行ってないか?」

 コンは廊下を歩いている時に隣にあった部屋が気になっていた。

「あっちは資料室だよ。お父さんやお爺ちゃんがよく使ってるよ」

「念のため入って見ようぜ。てゆうか入りたいな」

 コンはブータの説明を聞くと、ますます入りたくなった。

「まっ、俺もあんまり入ったことないし、ついでに行くか!」

「うん!」

 ブータが返事をすると、三人は物置部屋から出て隣の資料室に入った。するとそこにはエナンがいた。エナンはドアを開く音で三人のことに気付いた。

「何してるの?」

「あっいや、プレゼントになるものを探そうと思ってね…」

 トウがエナンに言った。

「ここは資料室だから人様に渡せるものなんて無いわよ。隣の物置部屋のオモチャなら配ってもいいわよ」

「うん、もちろんオモチャは、子ども達に配るつもりだよ」

 ブータがエナンに言った。

「あら、あのオモチャはあなたの大切な物がいっぱいあるはずでしょ?」

「うん、でも僕はもう使わなくなったから他の子にあげようと思うんだ」

「……そう、ブータは優しいのね」

「えへへ」

 ブータは母親のエナンに誉められて喜んだ。

「……ここを見てもいいけど、あんまり散らかさないでよ」

「わかってるよ」

「はーい‼」

 エナンが言うと最初にトウが言った後、元気よくブータが答えた。

「そうそう、プレゼントだったら私も用意するわ。おいしいクッキーを作っておくから」

「本当に?ありがとう!」

 ブータがエナンに言った。その後エナンは部屋から出ることにした。ドアを閉める時に、三人の楽しそうな顔を見ながら閉めていった。

「さて、何かあるかな?」

 トウがそう言うと、三人はいくつかの棚にある本を調べていった。エナンからプレゼントになる物は無いと言われたが、興味本意で調べたくなっていた。

「面白そうな本がいっぱいあるな」

 コンは色んな本を詮索しながら言った。

「本当だね。昔お母さんに読んでもらった絵本もあるよ」

「ほう、それは「サンタの大冒険」という本だな」

 コンはブータが手で持っている本のタイトルを呼んだ。

「これ好きなんだよね。お母さんがよく寝る前に読んでくれていたよ」

「こんなのもあったぞ、アルバムだ!」

 コンはアルバムを見つけた。

「あんまり勝手に触りすぎると怒られるぞ」

「いいから、いいから」

 コンは手にしたアルバムを開いて見た。トウとブータも興味本意にアルバムを見ることにした。

「おっ、これは若い頃のお爺さんではないか」

「えー若いなぁ。お父さんなんてまだ子どもだよ」

ブータは古い写真に写っているアートを見て言った。

「隣にいる男の人は誰だ?」

 トウがコンに聞いた。

「これはお爺さんの弟さんだよ」

「弟がいたのか、全く知らなかった……」

「知らないのは無理ないな。もう何年も城に来てないからな」

「仲悪いの?」

 ブータがコンに聞いた。

「けっして仲が悪いわけではないんだけどな。お互い自分のことで精一杯で、気付いたらあまり会わなくなったらしいぞ」

 そう言うとコンはアルバムをしまった。再び三人は面白そうな物がないか棚の本を一つ一つ見ることにした。

 すると次に、トウがある物を発見した。

「おっ、これは、町の地図が書いてある本ではないか。いい物を手に入れた。これでどこにプレゼントを配ればいいのかわかるじゃん!」

「やったね!」

 トウが町の地図が書いてある本を手に持ったため、置いてあった場所は隙間が出来た。その隙間の奥の所に紙切れが入ってあった。

「ん、なんだこの紙切れは?」

 トウは紙切れを取るために本と本の隙間に手を入れた。紙切れを手にすると中身を確認して、書かれている文字を読んでみた。

「……ノイルッシュサンタ学校?」

「サンタの学校があるの?」

 ブータがトウに言った。

「そうらしい、お爺ちゃんが卒業している」

 紙切れはシャクシャクのものでノイルッシュサンタ学校の卒業証明書だった。

「何でこんな所に……」

 ブータは本と本の隙間の部分を見ながら言った。

「寝ぼけて本と一緒に棚にしまったんじゃないか?」

 コンがブータに言った。

「……なぁコン、お爺ちゃんって学校に通っていたのか?」

 トウがコンに聞いた。

「おいらも詳しいことはあまりわからないな。サンタの学校に通っていたことなんて一言も言ってくれなかったぞ」

「サンタの学校か……通ってみたいなぁ」

「僕も通ってみたい」

 トウとブータは自分がサンタの学校に通っていることを想像し始めた。

 二人は現在、学校には通っていない。小学校と中学校に通うのは義務ではなく選択だからである。二人は自ら学校に通わないことを選択した。

 三人はすっかりサンタの学校の話題で夢中になってしまった。シャクシャクに言われたプレゼント集めのことをすっかり忘れてしまっていた。結局、物置部屋ではプレゼントは何も見つからなかった。

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