第20話 嘘の予言書と真実のスキル

「あ、出た!」


 先程までタブレット端末を見ていた夢子ちゃんがいきなり喋り出した。出たとはなにが出たんだろう。


「ふむふむ。はいはい。私、試練に挑戦します」


 夢子ちゃんが手を上げてアピールをする。


「は? お前ナに言ってんの? 死にたいのか?」


 加賀美さんのつっこみが入る。確かに加賀美さんの次に嘘をついてそうな彼女が挑戦しても無事で済むとは思えない。


「いや、もちろん死ぬつもりはないよ。ただ、予言に出てるもの。私が挑戦すれば大丈夫だって」


 そう言うと夢子ちゃんはタブレット端末を見せた。タブレット端末には文字が書かれている。


【真実ヲ語ル女子ハ背ガ小サキ者ナリ他ハ嘘ツキナリ】


「なにこれ……」


 私は思わず呟いた。真実を語る者は背が小さい女子……これは夢子ちゃんのことを指しているのかな? 他は嘘つきって……


「まあ、試練に突破するためにはどちらにしろ説明する必要があるんだけどね。私のスキルは予言。タブレット端末に予言が受信される能力なんだ。この能力の的中率は100%。ただし、この能力にはいくつか欠点があるんだ。その欠点はね……一つ! 予言が送られてくるタイミングは私にも分からない。 二つ! 新しい予言を受信すると古い予言のデータは削除される。三つ! 予言の内容が抽象的すぎて解釈の範囲が広いこと」


 夢子ちゃんは自分のスキルを惜しげもなく話した。夢子ちゃんもいくつもの修羅場を潜ったデスゲームの達人ではあるのに、なんでこんな無警戒なんだろう。スキルが予言だけって結構キツい気がする。この制約なら戦闘にも使えないし、いざという時に切られる対象になっちゃう気がする。それにデメリットまでぺらぺらと喋ってるし。


「ナるほどナ。くくく。面白いスキルだナ。それでお前はスキルで自分の安全が保障されたから立候補したと」


「そういうこと。いやー。キミたちが議論して時間を稼いだくれたお陰で予言を受信できて助かったよー」


 夢子ちゃんはニッコリと笑った。なんだ。この違和感は……なにかがおかしい。そんな気がする。この予言って本当に当たっているの? 既に嘘をついていることが確定している私が嘘つきなのはわかる。名取さんも嘘をついていそうなのはわかる。けれど、杏子が嘘をついているとは思えない。


 杏子の昨日の発言のどこかに嘘があったってことなの? 彼女が実質デスゲーム初心者なのは本当のことだと思う。それに、昨日私に語った、たった一回のデスゲームの内容も嘘があるとは思えない。


 それと夢子ちゃんが今まで嘘をついていないというのも納得できない。彼女のどの発言が嘘かは具体的には指摘できないけれど、彼女は嘘つきキャラだと思う。というか、加賀美さんの「死にたいのか?」って発言も気になる。加賀美さんはなにか根拠があって夢子ちゃんを嘘つきだと断定している。そんな感じがする。


「まあいい。行ってみろ。万一失敗してもお前ナらまだ死ナナいからナ」


「イエッサー!」


 そう言うと夢子ちゃんは真実の口のあるフロアへの扉に手を掛けた。扉はあっさりと開く。そして夢子ちゃんが入ると同時に扉は閉まった。私たちには中の様子を伺うことすらできない。


「ナあ。ユリ。お前どう思う?」


「え?」


「あいつライフを減らさずに戻って来れると思うか?」


「どうでしょう。私は夢子ちゃんが正直者だとは思えません」


「俺もだ。だからこそ、あいつはライフを減らさずに戻ってくると思う」


「僕も加賀美ちゃんと同じ意見かな。彼女、間違いなく嘘つきだよ」


 神原さんが会話に入ってきた。そうか。もう挑戦者が出たから喋っても大丈夫なんだ。


 カチャリ……そう音がして扉が開く。夢子ちゃんがカギを取ってきたのだ。手の甲の数字は3のままだった。


「いやー。正直者だってわかっているのに、手を突っ込む瞬間はハラハラするもんだね」


「おー! よくやった! 俺は夢子ちゃんはやればできる子だって信じてたぞ!」


 聖武さんが調子のいいことを言い始めた。


「もっと私は褒めて褒めて」


「ぶひい。夢子たんサイコー! 最高にブヒれる!」


 ブヒれるってなに!? ロクな言葉じゃないことだけは確かだけど。


「これからは私の予言をじゃんじゃん頼っていいよ。もうスキルもバレちゃったからねー。んじゃ、さっさと次のフロアに行こうか」


 夢子ちゃんが次のフロアへと続く扉にカギを差し込んだ。そしてそれを回す。


 みんなは夢子ちゃんに続き、その扉に入っていく。私もついていこうとした。けれど、タクちゃんの目がここに残れって言ってるような気がしたので残ることにした。


「ユリ。真実の試練の間にいくぞ」


「え? なんで?」


「能登は間違いなく嘘つきだ。あいつが試練を突破できるはずがない。そのカラクリを探るんだ」


 タクちゃんは堂々と夢子ちゃんが嘘つきだと言い放った。


「なんで? 夢子ちゃんは本当に予言が表示されていたし、スキルに関しては嘘言ってないと思うよ」


「あれはアイツのでっち上げだろう。タブレット端末なんて、いくらでも文字を書き込める。予言は間違いなく能登自身が書いたものだ。そして、アイツの偽スキルの制約にあった新しい予言を受信すると古い予言が削除されるってやつ……あれは今までの予言を見せろって言われないようにするための出まかせだ」


「あ、確かに。その制約を言わなかったら、前の予言を見せてって言われるかもしれないね」


「ああ。やつが前の予言を見せられなかった理由は単純に書き込んでないから。そして、タブレット端末に受信する能力ならもっと頻繁にタブレット端末を確認するはずだ。神原のようにな。だけれど、能登はタブレット端末を今までに確認する素振りを見せたことがない。それもアイツが嘘をついている根拠の一つだ」


 凄い。私は夢子ちゃんのスキルが真実だと思い込んでいた。実際に目の当たりにしたし。けれど、タクちゃんはそれが嘘であると見抜いていたんだ。


「それに、能登は既に嘘をついている。アイツがこの試練を正攻法で突破するのは不可能だ」


「そうなの!?」


「ユリ。ジャクソンがこのゲームのレビューを求めた時のことを覚えているか? 能登はそれに対して☆5あげようかなと発言した後、☆0に訂正した。その際、自分でも嘘をついたと認めた発言をしている」


 言われてみれば確かにそうだ。自分が嘘だと認めている以上、嘘発見機に引っかからない方がおかしいだろう。


「なるほど……でも、どうやって試練の間に入るの? 入るためには、全員にスキルを教える必要があるんじゃない? もうみんな次のフロアに行っちゃったから、この条件満たせないんじゃない?」


「その点は心配ないだろう。ジャクソンはこの場にいる全員にスキルを明かす必要があると言った。この場には俺とユリの二人しかない。俺たちはもうスキルの情報を共有している。だから、試練の間には問題なく入れる」


「あ、そうか」


 タクちゃんが試しに試練の間の扉を開けようとする。すると扉は問題なく開いた。私はタクちゃんの後に続き、普通に試練の間に入る。


 試練の間は大理石の床と白張りの天井と床で構成されていた。扉の真ん前には真実の口の彫像が彫られていた。


「ユリ。あの彫刻に触れてくれ。くれぐれも口の中に手を突っ込むなよ」


「うん。わかった」


 私は彫刻に触れた。すると彫刻の記憶が私の中に流れ込んでくる。この彫刻は昨日色々と性能を弄られたようだ。本当なら、ライフ一回だけ噛むという仕様だったのに、連続して二回噛むように変えられたらしい。そういえば、ジャクソンがバランス調整するって言っていたけど、この影響なのかな?


 そのバランス調整の後、誰かが口の中に手を突っ込んだ。けれど、これは生体反応がない。ただ、口の中になにかを入れられたって記憶だ。多分、ジャクソンがカギを仕込んだんだろう。


 そして、しばらくした後、この部屋に夢子ちゃんが入ってきた。そして、夢子ちゃんはこの真実の口の前に立つ。そして、夢子ちゃんが手を真実の口の前に持っていった。その後――え?


「どうしたユリ」


「おかしい。カギが消えた……」


「消えた? どういうことだ?」


「あのね。この真実の口は生体反応がないぬいぐるみジャクソンが手を入れてもちゃんと記憶してくれてたの。だけど、カギが取られた時、その生体反応がないものすら入れられた記憶を持ってない。ただカギだけが浮いて気づいたら夢子ちゃんの手の中にカギがあった」


「アイツは口の中に手を入れてないのか?」


「わからない。けれど夢子ちゃんは間違いなく口の中に手を入れる動作はしたと思う。夢子ちゃんは口の前まで手を持っていったから。ただ、この口の中の映像は見れなかった。多分、この彫刻の視界の範囲外だったからかな」


「口の中に手を入れたのに生体反応がない? いや、生体反応どころか記憶にすら残ってないだと……まずいな。全く能登のスキルの見当がつかない」


「あれ? ちょっと待って。タクちゃん。もう一つおかしい点があった」


「どうした?」


「カギが宙に浮いている……? あれ、夢子ちゃんの右腕がない……あ、右腕が見えた。夢子ちゃんの右腕が復活した」


「どういうことだユリ? お前はなにを実況している」


 確かに私の実況だけでは意味不明だろう。だけど私は見たんだ。カギが宙に浮いているところを。右手がなくなった夢子ちゃんを。そして、右手が露わになってカギを掴んでいる夢子ちゃんを。


「わかったよ……夢子ちゃんのスキルが。夢子ちゃんは自分の腕を透明化させてカギを取ったんだ」


「なるほど……だが、ただ透明化させるだけじゃないな。真実の口は生体反応を確かめている。その生体反応すらも感じさせないってことは。最早、存在を消していると言ってもいいくらいだろう。まずいな。能登のスキルは強力なものだ。もし、アイツが裏切るようなことがあったら、戦闘ではまず勝てない。透明化は純粋に強いぞ」


「そうだよね……なるべく、そんな状況にならなきゃいいなあ。じゃあみんなのところに戻ろうか」


「ああ」


 私たちは試練の間を後にして、みんなのところに戻った。

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