第11話 世界の大富豪『世界一の投資家』


 ところかわって、ウォーフ・バットの邸宅では―。


 その場所はジェシーと同じく、アメージングリッチ連邦国の西海岸・カルーアリキュア州のシリコン・マイン地区でも中心地区に位置する、『ウォーフタワー』であった。


 そのはるか地下に、彼の趣味の部屋、『バットスター・ルーム』があった。ここで、彼は日々パワードスーツを着て、その肉体を鍛えていた。

なにか事件があると、彼の財力をつぎ込んだ『バットスター・カー』で出動し、文字通り、ヒーローとして活動していたのだ。





 アメージングリッチ連邦国で流行している、いわゆるアメコミのヒーローを地で行く活動をしている彼は御年72才―。


 少年の頃の夢を徹底して追い求め、ヒーローとしてリアルの活動を行っている老人であるが、世界一の投資家でもあった。


 彼のヒーローとしての世間での名は、『バットスター』


 彼の正体が、ウォーフ・バットその人であることは、決して知られてはいけない・・・。




 今日も『バットスター・チーム』というウォーフの財団の中でも秘密の部隊のメンバーらが、ウォーフをサポートし、その趣味の活動を行っていた。


 彼の自室とされている最上階のスイートルーム・・・但し、ウォーフはほとんどいないが・・・以外に、この地下にトレーニングルームや、仮眠室があり、ウォーフはほとんどをここで寝て過ごしていたのだ。彼の妻は、もちろん最上階のスイートルームで過ごしているのだが。




 『バットスター・チーム』のヘッドリーダー、ロウ・ロウヤーは法律の専門家で、弁護士として活動していた際、最も有名な弁護士として名を馳せた有能な人物だった。


 しかし、彼は十年前、突如、弁護士を引退した―。


 なぜか? それは、ウォーフの活動に深い感銘を受けたからだ。


 大富豪でありながら、世間で人気の正義のヒーロー『バットスター』として活動しているウォーフ。まさか、ヒーローの正体が大富豪のウォーフだったなんて・・・。




 ウォーフの執事、バト・バトラー(彼も『バットスター・チーム』の一員である)から、ウォーフからの招待を受け、その正体を知らされた時、ロウは衝撃を受けた。


 そこで、ウォーフのヒーロー活動を支えるメンバーになることを決断し、弁護士活動を辞めたのだった。お金持ちだけしか守れない弁護活動に、飽き飽きしていたところだった。


 あれから、十年が経ち―。




 今や、『バットスター・チーム』のヘッドリーダーにまでなったロウ・・・。


 彼は今日も、ウォーフの夢の活動を支えるべく、パワードスーツの改良、そして、彼の相棒として自身も現場に出るため、一緒にトレーニングをしていたのだった。


 トレーニングルームで、ウォーフにメディカル・トレーナーとして就いているメディ・メディカラの眼力が今日もすごいな・・・などと考えて、ランニングマシーンで汗を流していたロウが、その異変にいち早く気がついたのだ。




 ウォーフのそばの空間になにか扉のようなものが出現し、そこから二人の男が現れた―。


 「ウォーフ!! なにかヤバい!!」


 ロウは大声を上げて危険を知らせた。


 メディがその声に反応し、ウォーフの前に立って護衛の立ち位置を取った。




 ロウは素早く、部屋の隅に移動し、護身用の銃を構える・・・。


 「ちっ・・・。パワードスーツさえあれば・・・。」


 だが、できることをするだけはするというのが信条のロウ、すぐさま、バットスター通信網を開き、他のメンバーに異常を知らせたのは英断であったろう。


 ―相手がただの強盗かテロリストならではあるが・・・。




 「貴様がウォーフ・バットか? 吾輩の名は最強破壊神、シヴァルツ・シヴァイス。名前しか思い出せない・・・こともない。

自分が善なのか悪なのかそれすらもわからない・・・今のところはな。さっさとお金をよこせ!」


 「我はシヴァルツ様の敬虔なる使徒であり、魔界の王にして王の中の王・ラスマーキンとは私のことだ。我は魔族の王にして絶対無比の存在なりき……この世のすべてを支配するものである。シヴァルツ様のおっしゃるとおり! さっさとお金とやらをよこせ!」


 「な、どこから入ったのだ? ここは『ウォーフタワー』の地下45階だぞ? ネズミ一匹入ることのできないシークレットルームなんだぞ?」





 「大魔王の魔力の前には、勇者の封印結界以外に入れぬ場所などありえぬ。」


 「な・・・ふむ。抵抗しても無駄のようだな・・・。ロウ! 警戒体制は解除だ!」


 ウォーフは一瞬で状況を判断し、自分たちの不利を悟り、抵抗を諦めた。


 「ウォーフ!! 今、チームが駆けつけてくる、そこから反撃を!?」




 そう話していた十数秒後に、『バットスター・ルーム』に、4名のバットスター・チームのメンバーがなだれ込んできた。


 みな、銃を構え、その銃口は侵入者2名に向けられていた―。


 先頭にワン・ファースト、彼はバットスター・エージェントの第一位である。その隣に左右に展開したトゥーラ・セカンドと、インフォ・マント。

トゥーラが第二位で、インフォは情報担当官の長であった。そして、その背後にバト・バトラー。彼は、執事である。だが戦闘に加わることもできるほど鍛えている。



 


 「ふん、ウォーフとやら。まだ小僧のようだが・・・、吾輩とラスマーキンのチカラを一瞬で読み取ったか? その判断は的確であるな・・・、なかなか見どころがあるのぉ。」


 「シヴァルツ様がまた闇のオーラを発動すれば、今さきほどのジェシーの時と同じく簡単でございましょうが・・・ここはシヴァルツ様が動かれるまでもありません。」


 「ロウ! ワン! メディ! バト! みな、銃をおろせ!」


 今一度、ウォーフが武装解除の指示を出した。


 ウォーフはシヴァルツの言う通り、一瞬で状況判断をして、ここは逆らわないと決めたのだ。もしかしたら、その直後、自分が殺されてしまうかもしれない、そんな中のこの判断のスピードは彼の投資判断とも似ていた。一瞬でリスクを計算し、最適解を導き出す・・・、ウォーフの『投資勘』は今まで99%の的中率を誇っていた。




 「わかった! ワン! メディ! インフォ! トゥーラ! バトさんも! 銃を下ろすんだ!」


 同じくそのウォーフの判断に素早く理解を示し、従うよう恭順の意を示したのは、やはりヘッドリーダーのロウであった。


 彼はウォーフの判断に従って間違いはないと信じている。よってウォーフの命令は絶対であったのだ。




 「そんな? たかが侵入者は二人ですよ? このまま射殺の指示を下さい!」


 だが、そんな彼らの命令に従わないものが約1名、ワン・ファースト・・・、このチームの序列第一位のプライドと彼の武威が無抵抗を許さなかったのだ。



 「ダメよ!? ワン! ウォーフの命令は、王様ゲームで王様の命令に従うくらいに絶対なのよ? 判断に間違いは・・・、ないはず!」


 「メディ女史よ・・・、お前はやはり女なのだ・・・。オレ様が、こんな2名くらいちょちょっと殺ってやる! おい! トゥーラ! インフォ! 殺れ!」


 「イエッサー!」


 「ちっ! 仕方ないですね、まだ情報がないというのに・・・。」


 2名のワンの直属の部下達は、ウォーフやロウの言うことに逆らい、ワンとともに抵抗を選んだ。


 3名の武装兵は一気にその銃口から銃弾を2名の侵入者めがけて撃ちまくったのだ。




 だが、この判断は間違いであったと、後にインフォ・マントは語っているー。


 なぜなら、2名のエージェントはその直後に無残に殺されたから・・・であった。




 「ふん!その心意気やよし! この大魔王に向かってくるとはな。『力』ほど純粋で単純で美しい法律はない。

 生物はすべからく弱肉強食、魔族も龍も皆そうだ。


 人間だけが気取った理屈をつけて、そこに目をそむけておる。


 ……力こそがすべてを司る真理だ!」


 大魔王ラスマーキンは雄弁に語り、その魔力を開放したのだった―。



~続く~



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